19.おかしな夢②
少しヤケな感じのする投げやりな声。
言い終わったあとにメガネを拭う
千織部長は乱視もあるド近眼だと前に聞いた。
だから多分眉を寄せる顔はそのための顰めっ面だと思いたい。
「千織部長は今までどうやって起きてたの?」
「なにも特別なことはしてないよ。ただエナドリを飲んだり、読書をしたりでなるべく省エネで済むやり方で過ごしていたよ」
ふぅーとレンズに息を吹きかけたあとにメガネを掛け直してメガネ拭きを綺麗に畳む千織部長。
「けど流石にもう体の方限界なんじゃないんすか部長」
「あはは、まぁ……ね。さすがに2徹なんて初めてやったよ。で、どうだい? 何か分かったかい?」
疲れ切った目つきから目を伏せて首を横に振る。
「ボクは千織部長が言ってたネットのやつ? は詳しくないからなんとも言えない。ただ夢診断みたいな心理学だったっけ。それでの知識程度くらいしか分からないよ」
「そういえばきみはこの手のは苦手だったね。確か宗馬くん経由で知ることが多いんだったかな?」
コクっと頷く。
そう。ホラー映画やオカルト映画、心霊動画だとかは9割ほど宗馬から勧められて一緒に観ることが多い。
どうしてかというと、その中で“ホンモノ”を視てしまうからだ。ボクはどうにも宗馬が隣にいないとダメなのだ。
「
「…………申し訳ないとは思うけど俺じゃあ無理、っすね。俺はまだ見習いも良いとこで、部長の頭の中? までは」
自分の非力さに悔しそうに顔を歪める宗馬。しかし、「ただ」と何か思いついたのか続けて言った。
「父さんなら……なんとか出来るかもしれないっすね。一応聞いてみます」
「そうなの? じゃ、じゃあお願い出来ますかっ?」
宗馬は頷いてスマホを操作して耳に当てた。
「…………迷惑をかけてしまうなぁ」
ぽつりと隣で呟く千織部長。
目を向けると小包みから半円状のチョコを口に含んでいた。
「最初ここに来た時から千織部長に迷惑かけられたけどね」
「…………ははっ。そういえばそうだったね。申し訳ない」
非常に弱った顔の笑みだった。
なんとかして助けてあげたい。そう自覚したのは多分初めてかもしれない。
「父さんから返事があった。すぐに車回してくるって」
「良かった……! これで部長は大丈夫、ですよね?」
まるで祈るように胸の前で両手を握ってる愛理先輩にボクは頷くしかなかった。
だって猿夢とかいうよく分からないものに魘されるなんて……あんまりだろう。
ボクみたいに視える人というわけでもない。視えるものを視ないようにしていたのとはわけが違う。だからそんなこと、あっちゃならないんだ。
「とても立派なお寺さんですねぇ」
「左側が寺で右は多くの仏壇がある場所ですよ。段差とかは気をつけてくださいね」
10分程度か少し経ってお迎えをしてくれ、ボクたちは
ここは葬儀も勿論、宗馬のお父さん、
ボクは数えたことはないけど、ほんとにたくさんあるらしい。なんでもここら辺の地域の方が懇意にしてるのだとか。
「あぁ、そうだ。体調には変わりはない?」
「へっ? あ、う、うん。大丈夫だよ」
「そう。それは良かった。また何かあれば宗馬を頼るんだよ」
漆喰が少し剥げた木造の階段を登る途中で大智さんに声をかけられた。
まさかかけられると思ってなくて大智さんの柔和な顔を見て慌てて返したけど、確かに今までお世話になっているのだから仕方ないだろう。
「お手洗いはそこで、こちらにご本尊があります」
「あの、こちらのスペースは?」
階段を登って少し傾斜のある廊下を左へ進むと右側には引き戸。引き戸とご本尊との間には赤い絨毯が敷かれた廊下が右側に続いていて、コートを掛けれるラックがある。
「こちらは葬儀に来られた方々がお待ちになられる待合室となっていますね。そちらではお寺の建立に関わった檀家さんやこちらで記念に撮った写真などが飾られてありますね。見て行かれますか?」
愛理先輩は初めて来たからか気になったことを聞いていて、大智さんがしっかり答えていた。
「見てみよう愛理」
「え、良いんですか部長」
「あぁ。私はまだ平気だからね。それに歴史が気になるから見てみたい」
さっきまで黙りこくっていた千織部長が少し元気な様子で話し出した。
「じゃあ少しお邪魔しても良いですか?」
「えぇ、構いませんよ。宗馬」
「ん? なんだ父さん」
「着替えをしてくるから準備をお願いしても良いかな?」
「こいつにも手伝ってもらっても良いか?」
(え、ボク!?)
バッと宗馬を見て自分を指差すと頷かれた。
「俺だけでも良いけど時間かかるだろ?」
「うっ……。だからってボク非力なんだけど……」
ため息を吐きながら、宗馬に連れられてご本尊に移動して4人分のパイプ椅子を用意する。
「なぁ。部長、良くなるか?」
「うぅーん……ボクは何も言えない、かなぁ」
大智さんが座る台座と座布団等を用意しながら首を傾げる。
「それまたなんでだ?」
「千織部長のことを疑ってるわけじゃないし、千織部長の目から何か嫌な感じはしたんだけどボクだとよく分からなくてさ」
「よく分からないって?」
「多分……ボクは千織部長の力にはなれないんだと思う。何かあるんだろうなくらいしか分からなくて……」
本当にそれくらいしか分からない。
どうしてかは分からないが、怖さはさほど感じられない。自分が体験していないからなのだろうが。
「それは恐らく、
祭壇の右側の襖から着替え終わった大智さんが声をかけながら戻ってくる。
「相性が悪かったって?」
「霊を視るというのにも相性があるんだ。早ヶ瀬さんは幽霊は?」
「視えないって聞いたよ」
「ふむ……」
言葉を聞いて顎に指を当てて考え込んだ後にボクを見つめて思ってもなかった一言を告げられる。
「恐らくなんだけどきみに引っ張られてしまったと考えても良いのかもしれない」
「──……え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます