5.魁聖高七不思議④

 5個目の七不思議ってそれだったんだ。

 けど……。


「それのどこに信憑性が……?」


 あまりにも非現実的なものじゃないか。

 過去と未来の自分の顔が見れるなんて。


「まー、その反応になるのわかるよ〜。それじゃあ被服室行ってみるといーよー」

「あぁ、そうだ円佳まどか

「なーにー千織ちおりちゃん?」

「図書室の七不思議はきみ的にどう思う?」


 今まで本棚を見ながら考え込んでいたんだろう。ある程度の答えを持っているんだろうけど敢えて聞いていることが様子からも分かる。

 円佳先輩はうーんと可愛らしく唸ったあとにサラッと答えた。


「たぶんだけど〜、暗がりの中で生徒がいたんじゃないかなぁ〜?」

「ふむ……やっぱりそうか。ありがとう円佳。それじゃあ被服室に行こう」




 千織部長の提案のもと訪れた技術棟1階被服室。

 手芸部という部活があるというのは知っているけど、今日はもう帰ったらしい。


「鍵借りて来ましたよ〜。開けますね」

「ありがとう愛理」


 カチャンっと軽快な音を立てて鍵が開いて引き戸を開けながら先輩方が先に入っていった。

 スンと鼻に漂ってきた匂いと被服室から漂う雰囲気に半歩下がる。


 空気が……澱んでる。

 ただ目には視えないだけで良い方……なのかな?


「入らないのか?」

「あ、あぁ、ううん。入るよ」


 宗馬に声をかけられて若干おかしくなりかけたのが平静になれた。ありがとう宗馬と今日だけで幾度ともしれない感謝を心の中でしながら被服室へ入る。


「ふむ。三面鏡ってのはこれみたいだね」

「そうみたいですねぇ。あ、留め具外れてますね。留め忘れかしら?」

「さてね。しかしやってみる他ないだろうね」


 ボクたちを放って先輩たちで話していて千織部長が三面鏡に手を伸ばしたのを見たときに何か鏡の方から黒いモヤが出たのをボクは見逃さなかった。

 本当は嫌だったはずなのに、ボクはなぜか早足でふたりの前に割って入る。


「あっおい、」

「ボクがやるよ」


 三面鏡を躊躇いなく開く。

 円佳先輩の言っていたことはおそらく、ただ開くんじゃなくてんだ。

 合わせ鏡になるには反対の鏡にもちゃんと反射するように写すやり方。そしてこれは、霊道を通すやり方。


 今、写っているのはボクだ。

 さっきの黒いモヤは──見当たらない。


 気のせい、か?

 いや、この眼に至っては気のせいなんてない。

 それはボクが身をもって知ってるじゃないか。


「何かあったかい?」

「…………いえ。何も」


 何も起きなかったことに安堵したボクは静かに三面鏡を閉じながら嘆息する。

 まったく……ボクはなんてことをしたんだ。関わらないと決めていたのに、なんで黒いモヤが視えた時に千織部長の前になんか出たんだ。


『あーあー。あと少しだったのになぁ』


 気のせいだと思いたいけど中声的な声を耳にする。

 いつもはこんな存在が煩わしくて、恐ろしかったのになぜだろう。今は少し腹立たしく感じる。


「すみません千織部長。割って入って」

「いやぁ何、気にしてないとも。しかしまぁここまで何もないだなんてなぁ……」


 少しどころか結構落ち込んでいた。


「……あの、千織部長」

「なんだい?」

「どうしてそこまで奇怪なことに会いたいんです?」

「なんだそんなことか。決まってるだろう?」


 ふふんと薄い胸を張って千織部長はしたり顔で答えてくれた。ボクはきっとこれまで生きてきた中で1番、不思議な人だと思ったことはなかった。


「私は見てみたいんだ。理屈を超えた未知に」




「…………ふぅ。こんなもので良いかな」


 自室で今日起きたことをノートに書き起こしてひと息つく。時間はもう夜の11時を過ぎていた。

 シャーペンの芯を戻して卓上ライトを消してベッドに倒れ込む。


 今日は本当に色々あった。魁聖かいせい高七不思議に関してが。

 そのどれもがおそらく生徒が見てしまったと誤認して噂したのが原因なんだと思う。けれどその中でも……。


「──トイレの薔薇そうびだけが異質だったなぁ」


 枕元に置いているスマホを手に取ってメッセージアプリのMATEメイトを開いてキーボードを手繰る。相手は二つ返事ですぐに返ってきたから掛ける。


『どうした?』

「いや……きみにも聞いておきたいなって思ってさ宗馬」

『聞いておきたいって何をだ?』


 マイクをスピーカーにしつつ天井を見上げる。


「トイレの」

『あーアレかぁ……お前の慌てよう凄かったもんなぁ』

「あれはその……ごめん」

『くくっ、ははっ。良いって良いって。俺に出来るのこんくらいだしな』


 カラッと笑いやがって。

 けど、事実だからボクは口から出そうになった恨み節をなんとか飲み込む。


『んで? 実際ンとこ、何を視た?』


 ほんとに一瞬のことだったけど、目に焼きついてしまったから言語化できそうなのがなぁ……。

 まぁ、仕方ないか。それがコレだしね。


「背丈はボクより少し高いかもね。それで黒い制服……? に黒くて長い髪の女の人だったよ」

『ふぅん……で?』

「鈴を転がすような声で、」

『あーお前みたいな?』

「うるさいよ」


 誰が女の子みたいな声だって?

 やめてよね。コレ結構コンプレックスなんだから。


「んんっ。話続けるけど、薔薇さんの顔は多分綺麗め」

『多分?』

「こう……さ、前にきみが観せてきた心霊動画チャンネルの人のお面みたいな笑顔してたんだ」

『ほーん。そんで俺の真言は通じてたのか?』

「おそらく効いてないね。あと多分聴いてない」

『ちっ。そうかよ。だぁーくそ。俺もまだまだだなぁ』


 電話口からほんとに悔しそうな声をする宗馬の言い方にボクは少し笑ってしまう。


「それとね宗馬」

『あん?』

「被服室の三面鏡、アレも居たよ」

『そう……か。姿は?』

「生憎、そこはなんとも。一言しか聞こえなかったから」

『なんて言ってたか分かるか?』


 なんだったっけな。

 思い出そうにもあまりパッと浮かばなかった。

 ただその時言われたことに近いことを口に出してみる。


「……『あと少し』とかなんとか言ってたような?」

『あと少し……ねぇ。それがどういう意味か分かったりするか?』


 ボクに向けて言われたのかそれともただの独り言だったのかはすでに分からないけど、推察することは出来る。


「千織部長は呼ばれたんだ。あの三面鏡に」

『理由は……なさそうだなうん』

「ちょっと? きみはボクのことをなんだと思ってるわけ?」


 おそらく良い印象を持ってないことは宗馬の言い方でなんとなく理解できた。

 もし一緒にいるなら肩を1回でも叩いていただろう。


「はぁ……まったくもう。宗馬のそんな気楽さのおかげで今だいぶ気が楽になったよ」

『ははっ。そりゃあ何よりだな……っと。もうそろ日超えそうだな』

「あーそうみたいだね」


 スマホを確認すればいつの間にか時間が0時になりそうだった。


『寝れるか?』

「さぁね。でも寝てやるさ」

『このまま繋いどくぞ』

「おーそれはまたありがたいことで」


 ボクはこの眼のおかげで不眠症が続いているのだ昔から。

 睡眠薬を服用してるとはいえ、嫌な夢も視る。それで何度起きただろうか。最悪の一言しかない。


 フッとボクは自虐的に笑いながら、ダークモードの光が灯るスマホを寝転がりながらぼーっと眺める。

 画面に表示されている宗馬の名前とMATEのアイコン。そして通話時間。1秒1秒過ぎていく。


『…………俺が誘った手前、何言ってんだってなるけどよ。……やっていけるか?』


 純粋にボクを気遣う声。

 宗馬のそういう粗野な振る舞いをするくせにときたまこんなふうに気の利いたことを言ってくるところがほんと──。


「────…………ばかはんかくさい

『おん? なんか言ったか?』


 ほら、こういうとこ。


「なんでもない。おやすみ」

『おう。おやすみ──』


 あ、今ボクの名前言ったなぁ? まぁ良いけどさ。きみなら別に。


 ふんと鼻を鳴らして目を閉じる。ボクが寝付くまで電話口では少し環境音がしたけど、別に煩わしさはなかった。

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