第19話「最後の一口」

前大会、最終日。

生存者は──ふたりだけ。


アキ(16)

ケイタ(18)



校庭には、たったひとつの袋。

中身は、ケイタがさっき出したばかりのうんこだった。



スピーカーが無情に告げる。


「残存摂取物:1件」

「摂取確認は“1名のみ”可能です」

「自分の排泄物の摂取は禁止」

「摂取未達成者は、日没と同時に処分されます」



ルールは明確だった。

「他人のうんこを食べた者だけが、生き残る」



ケイタは、袋を手に持ったまま、苦笑していた。


「食えよ。お前が食え。

それで勝てる」



アキは静かに言った。


「……あんたが食べなきゃ、あたしが死ぬだけだよ?」



ケイタは目を伏せる。


「お前……何も感じねえのか。

人のうんこ食って、生き延びて、誰かの死体見て……」



アキは即答した。


「感じたって、死ぬだけだもん」

「感じないで生きるって決めたの。最初から」



ケイタは、袋を見つめた。


「……お前のブツ、ずっと食いやすかったよな。

毎回、怖いくらい“整ってた”。」


「……訓練でもしてたのか?」



アキは少しだけ笑って、こう答えた。


「してたよ。

“好かれるうんこ”を出す訓練──

人に嫌われないで、生き残る方法って、それしかなかったから」



沈黙。



やがて、ケイタは言った。


「じゃあ……今日もそれで決めよう」



ケイタは、自分の袋を地面に置いた。


「俺のうんこ、食えるかどうか。

もし“無理”って思ったら、お前が食わなきゃいい。

でも、“食える”と思ったら、食って生き残ってくれ」



アキは黙ってうなずいた。

ゆっくりしゃがみ、袋を拾い、開け──


一口で飲み込んだ。



スピーカー:「摂取確認:参加者16番・アキ」

「生存権、付与」


「参加者18番・ケイタ、摂取未達成」

「処理を開始します」



ケイタは崩れ落ちながら、笑った。


「ありがとな……

お前の“最後の摂取者”が……俺で、ちょっと救われたわ」



ドグシャッ!!!


血が吹き、命が砕けた。


アキは袋をそっと地面に置き、

目を閉じて、震えた声で言った。



「……ありがとう、ケイタ」



アキは、生き残った。

そして次の大会に、再び現れる。

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