第12話「新ルール:選ばれし排泄」

四日目の夕方。

三日連続、生存者全員生存。



排泄も摂取も、慣れてしまった。

誰も嘔吐せず、誰も爆死せず。

ゲームは静かに“安定”していた。


──だが、それこそが最大の誤算だった。



場面は、運営モニタールーム。


巨大なスクリーンには、

うんこを譲り合う参加者たちの映像。


男と女が、パンツ一丁のまま微笑み合っていた。



その映像を、腕を組みながら睨みつける男がいた。


名は──松本。


白髪混じりの短髪。

やや無精髭。

目の奥に、深い静けさ。



「……アカンな」

「このままじゃ、誰も死なへん」

「おもんない」


松本は低く呟き、片手で机を叩いた。


「助けてくれ……浜田……」



スタッフが震える声で訊いた。


「……ルール、改訂を?」



松本は立ち上がり、モニターを見つめながら言い放った。


「裏切りを作れ」

「“信頼”なんか壊してまえ」

「“仲間”を選ばせて、“選ばれなかったやつ”を殺すんや……」



その指示の数分後。

校庭に響き渡るスピーカーのアナウンス。



「ルール改訂を行います」

「今後、自分のうんこを自分で食べることは禁止されます」

「生存権は、他者によって出されたウンコを食うことで発生します」


「さらに、本日より──」


「すべての参加者は、1日1人、“うんこを食わせる相手”を指名してください」

「誰にも指名されなかった者は、日没と同時に処分されます」



ざわめく参加者たち。


「……え?じゃあ、誰にも選ばれなかったら……死ぬの?」

「やば……そんなの……人気投票じゃん……」



松本の声がスピーカーを通して笑う。


「他人のうんこが命の価値や」

「友情?連帯?ぬるいわ」

「助けてくれ浜田……これがほんまのバトロワや……」

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