第3話「かりんとう」

教室の扉が開き、名前を呼ばれた者から一人ずつ廊下へと出された。


待っていたのは、無言のスタッフたち。

手渡されたのは、透明なビニール袋。

中には、かりんとうが一本だけ。



「……は?」


「これだけ?」


食料か?

試練か?

悪質なギャグか?


誰も説明してくれない。

ただ黙って袋を持たされ、そのまま校舎の外――

灰色の空の下へと送り出された。



そこは、見知らぬ“校庭”のような空間。

背の高いフェンスに囲まれ、その向こうに海が見えた。


参加者たちが、無言で集まってくる。



「……お前も、かりんとう?」


「一本だけ。なにこれ……」


「本物……か?」



誰かが袋を開け、中身を取り出す。


黒く、細く、ねっとりと湿っている。


まるで――

本物そっくりだった。


「これ……絶対、狙ってるだろ」


「見た目アウトやん」


「かりんとうにしては……柔らかすぎる」



誰かが言った。


「……これ、他の参加者の“あれ”なんじゃねぇの?」


沈黙。

数人が同時に袋を地面に置いた。



その時、スピーカーから機械音声が響いた。


「本日分の配給は完了しました」

「今後、毎日“食料”は一人一本ずつ支給されます」

「日没までに摂取していない者は、股間を“爆破”します」



教室での“最初の犠牲”が、全員の脳裏によみがえる。


あのYouTuberの、

綺麗にえぐれた股間。



現場作業員が、かりんとうをじっと見つめて呟く。


「喰うか、吹き飛ぶか……そういうことか」



誰かが、震える手で袋を持ち直した。


「食って……生き残って……一億……」



誰も口には出さないが、

全員が同じ問いを抱えていた。


「これ、本当にかりんとうか?」


「食えるのか?」


「でも、食わなきゃチンポが吹っ飛ぶ」

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