時間ループ系能力者だが、ループ試行回数入力して経験値だけ抽出する装置見つけたのでこれで無双します
katura
繰り返される死と、心を削る努力
目の前に剣が迫る。
反射的に避けた――つもりだったが、遅い。
斬撃が首筋をかすめた瞬間、意識は暗転し、世界はリセットされた。
──死んだ。
「……失敗。今ので、通算181回目か」
目を開けると、いつもの石畳の道。傍らには水瓶を持った老婆、角を曲がる少年、午後の陽光、すべてがまったく同じ配置、同じ時間、同じ空気。
ループ起点だ。
俺、カイル・アシュレイは、異世界に転生した元・日本人だ。
そして今は、“時間ループ”というスキルを手にしている。
何度でも死に戻れる。
これさえあれば、どんな苦難も乗り越えられる……そう思っていた時期が、俺にもあった。
だが現実は違った。
やり直せば、すべてが“元通り”になる。傷も、損傷も、恐怖も。
けれど、“心”は元に戻らない。記憶も、疲労も、精神の擦り減りも、そのままだ。
俺はもう、何百回もこの街の同じ通りを歩き、
同じ敵に斬られ、焼かれ、突き刺され、死んできた。
そのたびに微妙に動きを修正し、戦術を変え、技能を積み重ねてきた。
その成果は、確かにある。
けれどそのすべては、死んで覚える世界の中で得られたもの。
……限界だった。
最近、ふとした時に涙が出る。
戦いの最中に、体が勝手に震える。
敵の顔を見ただけで、過去の死の瞬間がフラッシュバックすることもある。
俺は……たぶん、壊れかけていた。
「でも……ここまでやって、まだ倒せないのか、あの騎士」
通りの角を曲がれば、そこにいる。
“時間封鎖の番人”――この街の支配者であり、俺の挑戦相手。
今日も行く。また死ぬだろう。
だが、やらなきゃいけない。
もう一歩。
あと一歩で、《閃光抜刀》が完璧な形になる。
――その時だった。
何気なく入った路地裏の石壁。
かすれた金属の光沢が、夕日の中で一瞬だけ反射した。
「……何だ、これ?」
そこに、埋もれるように置かれていたのは、
不思議な形の装置だった。
黒曜石のような材質に、無数の魔導符と計算式が刻まれている。
中央にはただ一つ、こう書かれていた。
《ループ試行数: __》
「……まさか、これ……」
その瞬間、俺の中で、
数百回繰り返した死と絶望の記憶がざわめいた。
これは、ただの装置じゃない。
これは、ループ試行によって得られる“経験”そのものを、
数字として抽出できる――そんな、馬鹿げた可能性を感じさせる代物だった。
……もしこれが本物なら。
もう死ななくていい。やり直さなくていい。
この世界を攻略する方法が、ここにある。
俺の、人生が変わる。
そしてこの時、確かに、運命は動き始めていた。
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