クールな神崎さんの恋バナが、隣の部屋から聞こえてくる〜あれ、これって俺の話じゃない?〜
夢生明
第1話 クラスのクール姫
人間は本音を隠す生き物だ。
誰もが巧妙に、時には狡猾に本音を隠そうとする。それは人間関係を円滑に進めるために、心の奥底を知られないために。
本音を隠すからこそ、すれ違い、誤解も生まれる。
それじゃあ、ひょんなことから隠していた本音を知ってしまったら?
人間関係に、何か変化はあるのだろうか?
これは、「クール姫」と呼ばれる同級生の本音が聞こえてきてしまったことから始まる……近くてもどかしい、よくある恋愛の話だ。
⭐︎⭐︎⭐︎
登校中、重い荷物を持っているお婆さんを助けていたら教室に着くのが遅くなってしまった。とはいえ、始業の5分前だったので、ギリギリ遅刻にはならなかった。
俺の名前は真島一樹。座右の銘は、情けは人の為ならず。困っている人がいたら、助けずにはいられない性分なのだ。
自分の席についてさっさと授業の準備を始めようとすると。
「真島君、ようやく来ましたか」
一人の美少女がこちらに向かって歩いて来た。
彼女の名前は、神崎麻衣。俺と一緒に学級委員長を務めており……クラスで一番人気の女子である。
艶やかな黒髪に、形の整った桜色の唇、陶器のような白い肌。大きな瞳には長い睫毛が影をつくっている。
滅多に笑わない姿はクールだが、耳に髪をかける仕草は洗練されていて、どこまでも美しい。
彼女が必要以上に男子と仲良くしているのを見たことがなく、滅多に笑顔を作らないことから、男子の間では“クール姫”と呼ばれている。
彼女は俺の目の前で歩みを止めると、すっと目を細めた。
「遅刻ギリギリですよ。こんな時間まで何をしていたのですか」
「お婆さんを助けてたんだ。そしたらこんな時間になっちゃってさ」
「またですか。人助けなんてして、遅刻していたら無意味では?」
「いや、もしかしたらお婆さんがこの学園の理事長で融通を……」
「却下。小学生でも、もっとまともな妄想をしてますよ」
神崎さんの言葉は辛辣だ。
「いや、小学生はもっと下らない妄想をしているはずだ! ソースは俺!」
「そこ、堂々と言うところではありませんから」
「いや、誰にでもあるだろ? 教室が悪の組織に占拠されたところを助けるとか、スナイパーに狙われてる妄想とか」
「ありませんね」
神崎はバッサリと俺の言葉を切り捨てる。
「いやいや、あるだろ。女子だったら白馬の王子様が迎えに来て〜とかさぁ」
「白馬に乗った人が学校に現れたら、通報します」
「モノの例えだって分かんないかなぁ!」
うーん、冷たい。俺がいくらふざけても、彼女はつれない態度だ。彼女は冷たい目で俺を見下ろす。
「まったく。いつもあなたはふざけてばかり。もっとまともなことが言えないのですか?」
「ごめんて」
「学級委員長の朝の仕事もあるんですから、しっかりしてください」
それは彼女の言う通りだ。学級委員長には毎朝、黒板を綺麗にする、窓を開く、花瓶の水換えをするなどの雑用があるのだ。きっと今朝は彼女が全部やっておいてくれたのだろう。
「悪い。放課後の仕事は俺がやるからさ。許してくれ。このとーり!」
「……放課後の仕事、しっかりやって下さい」
彼女は鋭い一瞥をくれてから、俺の前から去って行った。
ふぅ、美人に睨まれるとは。なかなかの緊張感があったな……。
神崎さんは相変わらずクールだ。きっと彼女とは学級委員長同士以上の交流はないんだろうなと、この時は思っていた
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