【浦島太郎】人助けの代償

雨宮 徹

【浦島太郎】人助けの代償

 昔々、あるところに浦島太郎という名の青年がいました。釣りの帰り道のことでした。子供たちが亀をいじめている場面に遭遇しました。



「動物虐待なんて、あってはならない!」



 熱血漢の浦島太郎は、いじめをしている子供たちに向かってこう言いました。



「すぐにやめないと、痛い目にあうぞ」



 しかし、子供たちはいじめを止めようとしません。浦島太郎はやむなく実力行使をして亀を助けました。



「ああ、なんという素敵な青年でしょうか。お礼に竜宮城へお連れします」



「竜宮城……?」



「まあ、簡単に言えば、乙姫様とイチャイチャできる場所です」



 それを聞いた浦島太郎は「ぜひ、連れて行って欲しい」と答えました。



 亀の背中に乗ると、深く深く海を潜っていきます。



 少しして、浦島太郎たちは竜宮城に辿り着きました。そして、彼は亀を助けた恩人として乙姫に歓迎されました。



「あなたのおかげで、大切な友人が助かりました。さあ、舞を見ながら楽しみましょう」



 浦島太郎は、数日間竜宮城を楽しみました。しかし、陸に戻らなくてはみんなが心配しているだろうと考えました。



「乙姫様、申し訳ない。自分は陸へ戻ろうと思う」



 そう言うと、乙姫は泣いて悲しみました。



「では、手土産としてこれをお持ち帰りください。絶対に開けてはなりませんよ」



 そんなことを言われると、逆に開けたくなるのが人間の性。しかし、浦島太郎はぐっと堪えました。



 再び、亀に乗って陸へ戻ったときでした。遠くから役人が何人もやって来ました。



「お前、浦島太郎だな?」



「はあ、そうですけれど」



「貴様を暴行犯として逮捕する!」



 浦島太郎は、身に覚えがありません。しばらくして、亀を助けた時のことを思い出しました。



「もしかして、実力行使に出たのが間違いだったのか?」



 気づいたときには、役人たちに囲まれていました。



「ああ、これでは牢獄での暮らしは免れないな。ええい、この開けてはならない玉手箱を開けてしまえ」



 浦島太郎は自暴自棄になり玉手箱の蓋を開けました。すると、もくもくと煙が立ち上ると浦島太郎を覆います。そして、煙が晴れると、そこにはヨボヨボのお爺さんになった浦島太郎の姿がありました。



「おい、これは本当に浦島太郎か?」「いや、明らかに違う。どうやら人違いだったらしい」



 役人たちは不思議がりながらも、その場を後にしました。



「ふう、助かった。玉手箱がなければ、とんでもないことになっていた。いや、待てよ。そもそも、亀さえいなければ、こんなことにはならなかったはずだ!」



 それからというものの、浦島太郎は人助けをやめました。



 数年経ったときでした。再び、亀がいじめられているところを目撃したのは。もちろん、亀を助ける気はありません。



 しばらくすると、役人がやって来て浦島太郎を捕まえました。



「おい、何も悪いことはしてないぞ」



 役人はこう言いました。「動物虐待を見て見ぬふりをしていた罪で逮捕する」と。

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【浦島太郎】人助けの代償 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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