第66話 災厄

 シーザーの首はごろりと転がる。




『うげっ!首落としても動くの!』




 フィーアがそんな声を発し、僕がシーザーのほうに意識を向けると、手を伸ばし頭を探し求めるシーザーの姿があった。




『頭くらい作れると思いますけど』




『いや、頭が一番作るのが大変なんだよ?知ってるでしょ?』




 君たちはなんでそんな話をしてるのさ……。




 のんきにそんな話をするフィールとフィーアの様子にそうぼやいてしまいつつ、僕はシーザーの姿を観察する。




『とはいえ、すごい生命力だねぇ』




 生命力の範疇に入れてしまってもいいのか疑問だけどね。




 シーザーの体は頭を失ってから十数秒が過ぎようというのに倒れる気配はない。




『私たちのレベルになれば頭なんて生えてくるものだからね』




『いや、私を含めないでください』




 そうだよな、頭落とされたら普通は死ぬよな。




『私たちは普通が当てはまらない生き物だからね~』




『だから、私を一緒にしないでくださいって』




 フィールが振り回されているのは新鮮だなぁ。




 なんてことを思いつつ、シーザーのほうに再度目を向ける。




『――っ!』




 瞬間、体が弾き飛ばされるような感覚がした。




『な、何するんですか?』




 フィールも突然のことに驚いて、そんな声を上げる。




 が、その理由もすぐに理解することになる。




 瞬間、地から噴き出すような力の奔流があった。




 ……きれい。




 そんな単調な感想しか抱けないような、美しい景色だった。




『マスター!そんな浸ってる場合じゃないですよ』




『可視化できるほどの力、まじですか……』




 フィールに叱責され、僕は再度意識を取り戻す。




 そして、シーザーの体と頭はその奔流に飲まれる。




『まずっ!』




 フィーアがそんな声を上げ、飛びのく。




『君も早く体に戻って!飲まれるよ!』




 そう言われ、僕は自分の体に意識を戻し駆け出す。




『私は、あの子の体の中にいるから!』




「了解」




 そうして、僕はリンクを解除する。そして、その力の奔流から逃げ出すのだった。






〈sideフィール〉




 流石にここまでのことが起こるとは思っていませんでした。




『そりゃそうだよ。私にだって、こんなのが出てくるなんて想定外も想定外だし』




 私の目の前に現れたのは、一言で称するなら化け物。




 そうして、同時に見覚えもあった。




『災厄、勇者が撃破した化け物だね~』




 そう。勇者の記憶に存在する災厄、そのものだった。




 マスターはただの化け物としか思っていないのでしょうけど、記憶としてあいつの知識がある私にはわかった。




『まさか、災厄は龍脈の力そのものだったとはね』




 勇者の記憶の中にも龍脈の力イコール災厄だったというものはない。




『前回の災厄も龍脈によるものだったのか、それとも大きな力が形を成すとおのずとあんな姿になるのか』




 その推測は無意味でしょう。どうであれ、あの王以上に勝ち目が見えない相手が出てきたということは変わりません。




『そうだね~。あの勇者ですら辛勝をおさめた相手、そんなのが目の前にいると』




 記憶を見る限り、注意していればマスターは逃げ回ることはできそうですが、接近する私はさすがに厳しい気がしますね。




『そうはいっても、やるしかないでしょ』




 それもそうですね。二人して逃げ出すなんて余裕はなさそうですし。




『まあまあ、私と君ならどうにかなるさ』




 ほんとに、あなたは謎の存在ですよね。




『そうそう。わたしゃあ、ミステリアスをアイデンティティにしてますから』




 ミステリアスとはまた違う気が……。




『はいはい。それは置いておいて、来るよ!』




 そうして、戦いが幕を開けるのだった。






「――っ!」




 放たれる閃光をぎりぎりで回避し、切りかかる。




『うげぇ、やっぱりこいつ、でかすぎるでしょ』




 しかし、その傷は小さい。




「本当に、よく勇者はこんなの倒せましたね」




 それしか、攻撃手段がないのか閃光を放ち続ける災厄の攻撃を回避しつづけ、剣や魔法で傷をつけているが、一向に倒れる気配を見せない。




『素早さ敵には王さまのほうが圧倒的だったんだけどね』




 あの、馬鹿でかい図体でそんな速度で動かれたら、流石にもうどうしようもないでしょう。……まあ、現状でもどうしようもないわけですが。




『さながら、固定砲台って感じだね~』




 その通りで、災厄は一歩?たりとも動くことのないまま、閃光を放ち続けている。無差別に。




 とはいっても、その閃光の威力がとんでもないのですが。




 洞窟の一部屋だったはずの場所はもう、壁が見えないのではないかというほど広く広がっている。


 外にも、こんな化け物が現れたことが伝わっているのだろうか。




『って、まずっ!』




 閃光が頬をかすめ、血が垂れる。




『回避し損ねた。ごめんね』




 大丈夫です。回避できるほどの余裕がないのも理解していますので。




 実際、私だけが体を操作していたら、とっくに閃光に体を貫かれているだろう。本当に、謎の少女だが、その実力は圧倒的だ。


 マスターの中にいたということは、才能とかそういったものが形を持ったのでしょうか?




『どうする?もっと近づく?』




 そうですね。これ以上時間をかけられる余裕はなさそうですので。




 この洞窟が壊れてしまえば、この災厄の閃光が世界中に飛び回ることになるだろう。私たちだから回避できているだけで、この世界の人間が、たとえ勇者時代の人間だったとしても、大きな被害が出ることは間違いない。




 そうして、私たちは災厄に再度接近する。


 回避よりも攻撃を優先させる立ち回りに変更する。危険性は当然増すことになるが、現状を打破するにはそれくらいしか手段がない。




『本当に、最悪だよ』




 そんなつぶやきを聞きながら。


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