第63話 VS元パーティーメンバー

 僕は、あの場から逃げ出した。フィールを置いて。例えば、物語の主人公なら絶対不利な状況でも逃げ出したりなんてしないのだろう。だけど、ここは物語の中というわけではなくて、あの場で僕が残るということはただの足手まといにしかならないわけで。 それでいいの?




「はぁ……」




 駆けて逃げているはずの僕の足は重たかった。 そんなに、悩むなら戻ればいいのに。




「もう追いついちゃったわ!」




 僕がそんな風に迷っていたからなのか、マーガレットらが僕に追い付いてきた。




 あそこにはフィールが残っていたはず……。




 そんなことを考えたけど、僕に追い付いてきたのはマーガレットとデイビットだけだった。つまり、フィールはシーザーと相対しているところというわけか。




「何の用?」




 分かり切ってはいるのだけど、僕はそう問う。




「何って、あなたを見逃すわけないでしょうが!」




「俺たちはお前を殺す」




 やっぱりそうだよね……。正直、戦うことに気は乗らない。だけど、ここで抗わないと、フィールが僕を逃がした意味がない。




「今回は手を抜かないわ!」




 そう言って、マーガレットは魔法を周囲に展開し、デイビットは僕に接近してくる。




 あれ?思ったより、大したことないぞ。




 確かに、マーガレットは魔法を使えるようになっているし、デイビットも多少動きは早くなっている。




 だけど、それだけだ。十分に目で追えるくらいのスピードしかないし、魔法の数もそこまで大したことない。出会った時のフィールの身体能力にも、フィーアの技術にも全く及ばない。




「これで死ね」




 そんなことを言いながら、ナイフを振りぬくデイビットの攻撃を余裕をもってかわし、僕に向かって押し寄せる魔法を潜り抜ける。




「おい!俺にも当たるだろうが!」




「知らないわよ!あなたは自力で避けて、ルークは当たりなさい!」




 いや、そんなこと言われても。わざわざ魔法に当たりに行くわけないし、僕に接近してるときに魔法を打ったら仲間に当たるでしょ。僕とフィールなら完璧に合わせることもできるけど、あれはリンクを使った後遺症のようなものだし。




「ふー」




 魔法の弾幕から抜け出した僕は一息ついて、彼らを見つめる。




 フィールに鍛えられた僕なら彼らを倒すことは余裕だ。




 そう考えると、彼らに抱いていた恐怖心とかそういったものが消え去っていく。




 なんだかんだ、僕もここまで強くなっていたんだな。今更ながら、そんなことを実感する。 そりゃそうでしょ。




「「なんなんだよ!その目は!」」




 僕が彼らを眺めていると、二人はそんな声を上げた。そんな姿を見ても、かけらも恐怖心は沸いてこない。




「勇者もお前も俺たちを見下すような目で見やがって」




 勇者に関しては呆れてただけなような気もするけど……。 被害妄想だね。




 ともかく、彼らに僕を止められるほどの実力はない。 あの王はそんなことも分からずに追っ手を出したのかね?




 それは分からないけど、王は龍脈から力を取り込んだだけで彼そのものには実力はほとんどないんじゃないかな。




「邪魔され続けるのも面倒だし、二人とも気絶してもらうよ」




 甘いねぇ。殺せばいいのに。




「はぁ!?あんたごときに負けるわけないでしょ!」




 マーガレットはヒステリック気味にそう叫ぶ。




 そんな彼女に、僕は接近して拳を叩きこむ。フィールやフィーアのように手刀で気絶させるとかはできないから、まあ許してね。




 背後から切りつけようとしていたデイビットも蹴り飛ばし、気絶させる。




「ずいぶん、あっさり終わったなぁ」




 二人とも一撃で気絶しちゃったよ。 この程度で時間かかるわけないでしょ。




 これで、僕が逃げるのを止めようとする相手はいないだろう。




 そうして、再度出口の方へ足を向けて。そして、また足が重くなる。




 このまま逃げ出していいのだろうか。 ……分かってるでしょ?




 行ってしまえば僕は足手まといになる。だけど、逃げるのは全部やった後でいいんじゃないか?リンクも強化魔法も僕はまだ何も試していない。




 幸いにも、あの王はまだ自分の力を使いこなしているわけじゃない。隠れていれば、ばれることはないだろう。




 これは、僕の我儘だ。自己満足にすぎない。だけど、フィールだけであの王に勝てるとも思えなかった。 ……そっか。




 そう考えて、僕は逃げようとする足を止めて反対方向へと向ける。




「僕は、フィールを助けたいから戻る」




 その決意を口にする。世界を守りたいとか、大それたことを思っているわけじゃない。ただただ、フィールに死んでほしくない。それだけだ。




「だから、そのために力を貸してくれ、フィーア」




『しょうがないなぁ』




 脳内にそんな声が響く。




 というか、さっきから何度も話しかけてきてたでしょ。




『いや、だってあのまま逃げてたら君は後悔してたでしょ』




 まあ、そうなんだけどさ……。突然消えるって言ってたのに、会話してきたら驚くでしょ。




『一度だけ君を助けるって言ったでしょ?消えてるわけないじゃん』




 消えてたら助けられないのはそうだろうけども。




『で、どうするの?策はある?』




 ……ぶっちゃけない。




『まあ、だろうねー。むしろあったほうが驚くよ』




 そもそも、動きすら見えない相手に対策も何も立てようがない。




『あの子ですら、直感だけで動いてたみたいだからね』




 フィールも見えてるわけじゃなかったんだ。




『リンクで君の感覚を共有するだけでも変わるんじゃないかな?』




 それで勝率は?




『あって一割?』




 まあ、そんなもんだよね。




『でも、だいじょーぶ。私が手を貸すんだ。君にとってのハッピーエンドはお約束するよ』




 調子のよさは相変わらずなようで。




 そんな、軽口を聞き流して、僕は逃げてきた道を戻る。間に合ってくれよ。




『……あくまで、君にとってのハッピーエンドだけど』




 そんなつぶやきが聞こえないまま。

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