第60話 王様

「やっぱり、何も見つからないですね」




 翌日僕らはダンジョンの探索を再開していた。フィールのかけらはないにしても、ダンジョンの復活を止めようとしている存在くらいは出てくるかなと思っていたのだけど。




「今までが順調すぎたんだろうね……」




 今まで、ダンジョンに入ったら引かれるようにフィールの体を見つけることができていた。……そのほとんどが取り込まれていたわけだけど。




「向こうもこちらも引き寄せられるはずですからね」




「フィールの体は引かれあうって話だっけ?」




「そうです。元は私の一部だったものなので、私のもとに戻ろうとするはずです」




 確かに、それなら順調に運ぶのもおかしくないのか。




「今回は、そんなつながりがないからそう簡単にはいかないのか」




「気長に探すしかなさそうです」




 今までに慣れているとなんだかもどかしいな……。




「っと、そろそろダンジョンの奥か」




 魔物が出ないダンジョンはただの洞窟だ。魔物が出ると数日かかるような道のりでも、それが出なければ一日もあれば奥までたどり着く。




 このダンジョン跡を探索し始めてから何度もここまでたどり着いていた。ここまでくる観光客もほとんどいないからか、今は全くいない。




 元冒険者ならいけるのかもしれないが、ここまでくるのは一般人にはしんどい。




「……戻りましょうか」




 一応、軽くその部屋を調べた後で入り口に目を向けフィールはそう口にする。




 軽く調べるだけなのは、数日前に念入りに調べたためだ。




「誰か来る」




 僕らが戻ろうとしたとき、その奥から足音が聞こえてきた。




 十中八九観光客なのだろうけど。




 そんな、僕の予想は外れていて、そこに現れたのはパーフェクトの面々だった。




「シーザー、ここに何があるっていうのよ」




 マーガレットがそんなことを口にしたとき、シーザーの様子が豹変した。




「ああ!ああなるほど!そういうことだったのか!」




 この空間に入った途端、シーザーはそう叫んだ。僕らのことも目に入らないくらいに興奮した様子で。




「……!なにかがおかしいです」




 瞬間、フィールが何かに驚いた様子でそんな声を発した。




「お前たちも来るといい」




 シーザーはそう言って、マーガレットらを先導して、部屋の奥へと足を進める。彼らも、突然叫んだシーザーに驚いてか僕らに意識を向けていない。




 そうして、僕らはすれ違う。




「マスター!注意してください」




 そんな声で、僕ははっとして彼らのほうに視線を向ける。




「おかしいって?」




「何がおかしいのかはわかりません。ですが……」




「嫌な予感がするってことか」




 僕やほかの人が言っても、全く信用できない、直感だけの言葉。だけど、フィールが言ったというだけで、説得力がある。




 そして、彼らはダンジョンの奥までたどり着いて……。




「来い!肉体が来たぞ!」




 シーザーがそう叫んだ瞬間、突然目の前に、この空間に力の奔流が流れ出す。




「マスター!」




 フィールのその声に合わせて、僕らはその部屋から抜け出す。




「……あれが、ダンジョンの復活を止めていた存在でしょう」




 そう言って、フィールが指さす先には何やら靄がかった存在があった。




「あれは?」




「……具体的に何者なのかは私にも分かりません。おそらく、何らかの思念体」




「思念体ってことは実体はないのか……」




 どう相手すればいいんだ?




 襲い掛かってくるとは限らないが、不穏な空気であることも事実で警戒するに越したことはないだろう。




 しかし、思念体が襲ってきた場合こちらから攻撃する手段がない。物理攻撃は効かないだろうし、魔法も結局物理攻撃と変わらない。




「フィールなら対処できる?」




「時間があれば有効打の攻撃を与えることはできますが……」




「僕がどのくらい時間を稼げるか、か」




「マスターを前線に立たせるのは申し訳ないんですが……」




 いや、今までフィールという女の子を前線に立たせてたほうが問題な気が……。




「相手がどの程度の強さか……」




 フィール並みの相手なら流石に一分も持たないだろうけど。




 先ほど流れ込んできた力の大きさから想像もつかない、フィール並みだろうな……。




 フィールといい、フィーアといい僕の周りにはなぜ規格外が現れるのか。フィーアはまあ僕の想像上の存在だから違うのかもしれないけど……。




 僕らはそんな心配をしていたが、それは杞憂だった、と言っていいのだろうか。




 その思念体は、シーザーを飲み込む。




「ふむ。……懐かしい顔だな」




 それは、シーザーを飲み込んだかと思えば、収縮していき完全に姿が消えた。




 が、その存在感はシーザーと一体となっており健在だ。




 そんなやつは、フィールのほうに目を向けながらそんな言葉を口にした。




「ちょっと!全く話が分からないんだけど」




 マーガレットがそんな言葉を口にする。




「そうだな。お前らはまだ記憶が戻っていないのだったな」




「はぁ!?記憶ってなんの話よ!」




「まあよい。すぐに思い出す」




 そう言って、シーザーは僕の目では追えないほどのスピードで動き、マーガレット、デイビットの頭をつかむ。




「さあ、思い出せ!」




「……ああ、なるほど、そうだったんですね」




 僕が呆然とその光景を見ていると、フィールがポツリとそう言葉をこぼす。




「あなたの意志は思念体となり、このダンジョンに残り続けた。そして、魂は転生しその人間の体に宿った、と。思念体は龍脈の力を取り込もうとこの場でダンジョンの復活を止めていた。ダンジョンは龍脈につながる道のひとつですからね」




 フィールがそこまで言って、僕は理解した。




 ああ、こいつは……。




「フィールを殺した王様」

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