第50話 勇者
と、いうわけで私は勇者に選ばれてしまいました。
勇者ってなんぞ?……ごめん。いや、流石に知ってるよ。魔王的な存在をやっつけるために生まれ落ちた存在でしょ?うんうん。神話の中の出来事だよね。ただの村娘たる私が選ばれることの異常さ、よくわかるよ?
つまり!私は選ばれしものというわけで、世界を救う存在になったってことやな。手に汗握る戦い、心強い仲間。ふふふ、そんな経験ができるということだ。これより私の時代が来るのだ!
「混乱されているのですね」
イケメンAがそんなことをしゃべっている。
「……混乱というより妄想の世界に行っている気が」
村長らしき存在からそんな声が聞こえてくる。
「分かりました。それで、私は何をすればよいのでしょうか」
村長の言葉は無視して、私は淑女を身にまとう。
「はい。勇者様には魔物の根源たる災厄を倒していただきたいのです」
災厄……。実質、魔王だな!よし、選ばれし勇者たる私が華麗に成敗いたしましょう!
「災厄って、こいつでは?」
うーん。村長は一度締めておいたほうがいいかもしれないな。こんな失礼なことを言うやつを野放しにしておくわけにはいかない。
「災厄……ですか。分かりました。最善を尽くします」
謙虚にだよ。そう、それが印象いいからね。
「ありがとうございます!勇者様!」
ふむ。よいことよ。私をたてまつるがよい。
「人類を守るため、当然のことです」
「……ほんとに面の皮が厚いな」
君もそれは少なくとも本人の前で言うことではないと思うよ?失礼だよ?
……あと、面の皮が厚いは意味違くない?
「では、さっそく、王都までお連れします」
おう……急だな。
「どうぞどうぞ」
村長はもう少し私に尊敬の意を示してもいいんじゃないかなぁ~。仮にも勇者みたいだよ?私。
というか、私、王都に行くの?今から?
あれから数日が経った。
あの後はというと、そのまま私はさらわれるようにして、馬車に連れ込まれた。いつもの私ならあーれーみたいなこと言ってるんだろうけどね。さすがにそんなことはできないわけで。
「まもなく、王都に到着します。勇者様」
「はい。わかりました」
私が走るよりも遅い馬車に揺られ、王都に着くらしい。
多分、この身体能力も勇者の力ってやつなんだろうけどね。かといって、走って行くのでは連れていくイケメンのメンツが立たないらしい。まあね、私も女の子ですからイケメンに頼まれれば従いますよ。……何回、馬車を壊そうと思ったかは覚えてないけども。
馬車さんはよく耐えたよ。うん。
「……到着しました」
そんな感じに馬車に労いの言葉をかけていると、王都にたどり着いたらしい。……馬車を壊そうとしていたのは私だって?そんな記憶はないなぁ。
「こちらの宿でお待ちください。王に確認を取ってまいります」
まあ、王様にすぐに謁見はできないよね……。それまで、自由時間と……遊ぶか。
「すぐに確認して戻ってまいります」
およ?これは念押しされたか?……迷う。迷うが、とりあえず、遊びに行かないほうがいい。そんな気がする。
それから、三十分くらいして、イケメンさんが帰ってきた。確かに、遊びに行っていたら帰ってきていたかは微妙なラインだ。
「王の準備が整ったようです」
「早いですね。わかりました」
王様の準備って三十分くらいで終わるんだ。あれかな?王冠とかは常にかぶって生活してるのかな?
「はい。ではお連れします。マナーなどはある程度失礼がなければ大丈夫ですので」
マナーは多少教えてほしいかなぁ……。私何も知らない一般庶民ぞ。挨拶も何も知らないぞ。……まあ、淑女モードでいけば大丈夫か。
「よく来たな。勇者よ」
そうして私は王様の目の前に突き出されていた。ただの謁見ですが……。
「お初にお目にかかります。王様」
膝をついて首をたれ、言葉を放つ。この国で一番偉い人だからね。天下のフィールちゃんといえど、失礼するのは怖いわけですよ。室内だから天はないけど。
「うむ。汝に災厄の討伐を命じる。やってくれるな?」
ふむ。偉そうじゃない。この爺さん。殴り飛ばしてやろうかしら。相手がどんなに偉くとも心で思うのは自由だからね。セーフセーフ。
「はい。謹んでお受けします」
怖いなぁ怖いなぁ。怖いですねぇ~。災厄ですってよ。どんな、苦難に満ちた戦いが待っていることやら。
しかし、勇者フィール、この私が倒さなければ世界は救われないのだ。仕方あるまい。苦労することになるだろうが、全力を尽くす。それだけよ。
「では、お主に旅の仲間をつけよう」
わかってるじゃないの、王様。勇者と言えば苦難を共にする仲間ですよね。
「入ってくるがいい」
王様がそう言った瞬間、二人ほど謁見の間に入ってくる。
「紹介しよう。まず、賢者のデイビット。そして聖女のマーガレットだ」
賢者に聖女か……確かにそれっぽいけども、そんなに強そうな印象を受けないなぁ。どちらもひょろっちいというか、なんというか。魔法専門だろうから分かるけども、こんな人たちが旅についてこれるのかはなはだ疑問である。
……まあ、見た目で判断するのはよくないよね!実際、旅を共にすると頼もしい仲間になるかもしれないし。
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