第31話 フィール様

〈sideルーク〉




 フィールの魔法のおかげで快晴な朝を迎えました。ダンジョンに太陽はないから快晴かどうかはさっぱりわからないけども。




「おはよ」




「マスター、おはようございます」




 いつも通り、僕より早くフィールは起きていた。




「では、結界を解きますね」




 僕らが寝ている間は襲われるようなことがないようにフィールが結界を張っていたらしい。いや、結界って何って感じなんだけど、まあいつも通り知らない魔法なんだろう。




「後で教えますよ」




「何も言ってないけど」




「反応的に結界を知らないようでしたので」




 まあ、結界の魔法は便利そうだけど。結界の言葉の意味は分かる。おとぎ話とかで出てくることがあるから。




「正直、私にもマスターの時代でどこまで魔法が衰退しているのか分からないんですよね」




「ほとんどの魔法がなくなっていると思うんだけど」




 実際フィールが使っている魔法の中で知っているものなんてほとんどない。




「何が分からないかと聞かれて全部と言われたら答えるのは難しいですよね。それと一緒で、どこから教えたらいいか分からないんですよ」




「それは確かに⋯⋯」




 フィールからすれば一般常識なのだろうし、一般常識が分かりませんって言われてもどう答えればとなると考えると納得できた。




「一から十まで教えていたら、年単位でかかりますからね。必要なところを切り取って教えたほうが今はいいでしょう」




 フィール視点ではそんなに今の魔法は遅れているのか⋯⋯。年単位の魔法の修行は確かに長いなぁ。フィールの体をすべて見つけることができたなら、その時教えてもらってもいいかもしれない。


 なんて、フラグじみたことを考えていると、




「そろそろ、行きましょうか」




 荷物をしまったフィールがそう声をかけてきた。いろいろと荷物は散乱していたのに一瞬で片付いていた。




「休むことはできたし、行こうか」




 そうして僕らは、再度ダンジョン内の探索を始めた。


 ダンジョン内での一泊だったわけだが、フィールの魔法というか空間収納の中の道具で快適な睡眠をとることができたので、疲れは完全になくなっていた。フィールがいるだけで探索もとても楽になるな。⋯⋯まあ、それにより僕の力不足が際立ってしまうわけだけど。




「また、卑下的なこと考えてますね」




「そんなに分かりやすいかな」




 一瞬で気づかれてしまったことに僕は驚く。そこまで分かりやすいようにふるまっているつもりはなかったのだけど。




「分かりやすいですよ」




「分かりやすかったんだ⋯⋯」




 流石に、そんな考えが漏れているなら空気が悪くなりそうだし隠せるようになっておかないと。




「まあ、分かると言っても、私以外には隠せてると思いますよ」




「フィールも僕がそう思っているのが伝わったら嫌でしょ」




「いえ、慣れてきたところです」




「⋯⋯それはそれであまり聞きたくなかったかな」




 慣れられるほど、考えていたんだな、僕。本当に、そうなると気を付けたほうがいいだろうな。フィールは自分にしか分からないと言ってるけど、要するに話しているうちに気づくってことだろうし。




「⋯⋯今はそれでいいです」




 フィールは僕の様子を見て、そんな言葉をこぼす。なんだか呆れられているような気がするのは気のせいだろうか。僕は抗議するようにフィールを軽くにらむ。




「とりあえず、朝食です」




 そう言ってフィールは虚空に手を伸ばし、パンを取り出して僕に差し出す。空間収納の中に入れていたのだろうが⋯⋯




「僕は餌付けされる犬じゃないんだけど」




 餌につられて機嫌を直すほど素直じゃないぞ。




「では、必要ないですね」




「待って待って、食べます」




所詮食事を人質に取られた僕は弱い立場にいたようで、抵抗むなしくフィールの下につくしかなかった。




「全く、仕方ないですね」




 そう言って、優しく僕にパンを渡すフィール様。




「ありがたや、ありがたや」




「⋯⋯ふざけてるんですか?」




 フィール様は辛辣だった。僕はその悲しみを飲み込むようにパンを飲み込む。




「⋯⋯まずいですね」




 フィールが突然そう一言呟いて、僕の体をつかむ。そして、そのまま後ろに飛ぶ。




「何があったの?」




 突然そんなことをされたら驚くのだろうけど、いつもの訓練時に飛ばされるよりも遅いためか、割と僕は冷静だった。




「⋯⋯へぇ、君たちが持っているのか」




 目の前から男の声が聞こえてきた。




「おおよそ、その少女が取り込んでいるんだろう」




「何のことでしょうか?」




「君たちだって、そんな力を持っているんだ分かっているだろう?」




 その男のそばに何かの機械が置かれていた。


 取り込む、力か⋯⋯。フィールに注目していることから考えると、おそらくフィールの体のパーツを持っているのだろう。つまり、これだけ探し回っても見つからなかったのは、この男がすでに確保していたから、ということか。




「さて、分かりませんね」




「まあ、それならそれで構わないが」




 とぼける僕にそんな反応が返される。




「君たちから力を奪うだけだ」




 フィールの力は規格外だ。目的は分からないが、大概のことはできるのだろう。


 そして、その一部を男は持っている。様子を見るに、横に置かれた機械に力を流し込んでいるのだろう。フィールの力は一般人には取り込むことができない。肉体の強度などの問題があるのだろう。だから、機械に取り込ませてその力を制御するのか⋯⋯。しかし、これは僕がフィールといるから分かることだ。あの男にそれが分かったとは到底思えない。人間に取り込ませずに、機械に取り込ませる選択をしたのは偶然だと考えるのが妥当か。




「君と私の力は幸いにも、死んでも取り出せる、存分に殺し合おう」

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