第22話 助けるしかない
〈sideとある冒険者〉
「貴方が私の弟を誘拐したんですね」
とある冒険者が男に向かってそう言い放つ。その部屋は、豪華に彩られ、高価な家具であふれている。そして、この屋敷の主人である男は貴族
「いきなり訪ねてきてそれかね」
男はそう言って一つため息をつく。
「色々と調べてみると、貴方に誘拐されたという証言が多く出てきたんですよ」
「さて、仮にそのような証言があったとして、私が誘拐するメリットは?」
「さあ、理由までは分からないけど、偶然というには多すぎる人数が、貴方を嵌めるには多種にわたりすぎている人が証言していた。流石に、これで嘘なら手間がかかりすぎている」
「⋯⋯想定外だよ。ばれない様にやったつもりなのだけど」
男はくつくつと笑いながら立ち上がる。
「で、あなたの目的は何?」
「目的?直にわかるさ」
そう言って、男は片手を振り上げる。
「侵入者だ!捕らえろ!」
「生憎さま、私は冒険者の中でも強いほうでね。簡単に捕まる気はないわよ」
瞬間、その部屋にどっと、騎士たちが流れ込んでくる。完全武装した状態であり、この展開に備えていたようなそんな印象を受ける。
しかし、その兵士たちは次々と倒れていく。冒険者が駆け回り、騎士たちは体勢を崩す。結果、完全武装が仇となって立ち上がることが難しく、さらにその上にまた別の騎士がと折り重なっていく。
「⋯⋯なるほど。口だけではないようだな」
すでに男からは丁寧な印象は消え失せている。
「さて、頼みの綱だろう騎士は全滅したわよ」
「ふふ、だからどうした?」
男はそう言って再度手を挙げる。
「っ!」
冒険者はその場から一歩飛びのく。先ほどまで彼女のいた場所には大きな凹みと騎士の一人が立っていた。
「⋯⋯馬鹿力すぎでしょ」
冒険者の額に冷や汗がにじむ。先ほど躱すことができなかったら、きっとすでに命はなかっただろう。
「力だけではないぞ」
「がっ!」
騎士は一瞬で冒険者との距離を詰め、その腹にこぶしを打ち込む。ズシリと鈍い音が響き渡る。
「――っ!」
騎士はさらに追撃を仕掛ける。それを冒険者は腕で防御する。
が、その衝撃を受け止めきることはできず、壁に叩きつけられる。ガラガラと壁は崩れ落ちる。
「⋯⋯何とか防御できたようだが、その腕ではもう戦えまい」
「⋯⋯」
冒険者の腕はあの拳を正面から受けたからかだらりと垂れ下がり、まったく力が入っているようには見えない。実際、壁が崩れ落ちるほどの衝撃を腕だけで受けたのだ。ダメージは相当なものだろう。
「さあ、ここからどうする?」
貴族の男は嘲るようにそう言葉を口にする。すでに満身創痍の冒険者と馬鹿力の騎士、勝敗は目に見えているだろう。
「だからと言って、諦めるわけにはいかないのよね」
自分に言い聞かせるように冒険者はそう口にして、貴族の男を睨みつけるのだった。
〈sideルーク〉
「どう?フィール?フィールの体はありそう?」
それから僕らはダンジョンの奥辺りまでやってきていた。
「はい。おそらくそろそろだと⋯⋯」
フィールはそこまで口にして立ち止まる。
「この先に人がいるようですがどうしますか?」
「人かぁ⋯⋯。どんな様子か分かる?」
一応ここはダンジョン内なので人がいるということはよくある。そのため、今までも何度か人とすれ違いながらここまで来ていた。
しかし、フィールはその時は何も口にしていなかった。つまり、フィールからして異常な人ということだろう。
「⋯⋯おそらくダンジョンの探索に来たわけではなさそうですね⋯⋯」
探索に来たわけではない、か。だとすると、ダンジョン内部に研究に来ているとかだろうか。確かにダンジョンは不思議な現象、物体に溢れている。それを研究するという学者もかなり大勢いることだろう。
もしくは、ダンジョン内部で窃盗をする盗賊だろうか。実際、盗賊として生きている人間もいる。当然、見つかったらアウトなのだけど。しかし、盗賊となる連中は大概入り口付近から中間くらいに居て、こんなに奥にはいない。ここまで来れるなら、わざわざ盗賊なんてしなくても稼ぐことは可能だからだ。身元とか、そういうものは冒険者にはほとんど関係ない。
「⋯⋯男が数名と⋯⋯気絶した人が一人ですね」
なるほど。その気絶した人が起きるまで待っているって状況か⋯⋯。だったら納得だし、過剰に警戒する必要はないかな。
「ただ、かばっているとかではないですね。気絶している人を連れてきたって感じだと思います」
「つまり、誘拐と」
「⋯⋯可能性はあります」
思っていたよりも、闇のある人たちのようだ。
「どうしますか?迂回することもできますが」
それは決まっている。
「助ける」
「⋯⋯はい」
フィールには何となく分かっていたようで、僕の言葉を聞いてやや嘆息しつつそう返事をする。
「⋯⋯!」
「どうかした?」
フィールが何かに反応して、僕はフィールにそう問いかける。
「⋯⋯急ぎましょう。手遅れになります」
フィールはそう言って、駆け出した。僕もなんとか、それについていく。フィールも全力疾走しているわけではなく、僕がついてこれる最高のスピードで。
「さて、つきました」
フィールは曲がり角の前でそう言って足を止めた。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
いくら僕のついていけるスピードだからと言って僕にとっては全力疾走だ。僕はもう満身創痍と言っていいくらいに疲労していた。とはいえ、疲れているからと言って休憩するわけにはいかない。
僕は深呼吸を一つして、呼吸を整える。
「さあ、行こうか」
「分かりました」
軽く息を整えてから、僕はフィールにそう声をかける。そうして、僕らはその現場に乗り込むのだった。
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