第20話 少女

〈sideルーク〉




 さて、女性から協力を頼まれた僕だけど特に心当たりはないし、すぐにできることはないだろう。当面はフィールのパーツ探しをしつつ情報が手に入ることがあれば多少は動くつもりだ。


 今日から本格的にダンジョン攻略をし始めるつもりだ。一応、一昨日は様子見のつもりでダンジョンに行っていた。⋯⋯何かためになったことがあると言われれば、フィールが強いって再認識できたことくらいだろうけど。


 そう言うわけで、僕らは再度ダンジョンに向かっていた。僕の強化計画は合間を見てやっていくつもりだ。相手がいて情報も分かっていればそれに合わせた訓練とかをするのだけど、情報なんてないし、いるかどうかも不明だから、現状だと訓練のしようがない。通常のダンジョン攻略だけを考えるなら、フィールがいればまず問題はない。⋯⋯僕が居てもいなくても変わらない。


 フィールとともに、ダンジョンに向かう。




「号外、号外!」




 街を歩いているとそんな声が聞こえてくる。新聞屋のようだ。号外って、そこまでの事件でもあったのだろうか。耳を澄ませてみると、どうやら王家の保有する魔道具が盗まれたとか。何の魔道具かは読んでみてごらんとのことだ。




「魔道具って、フィールの力の一部なんだよね」




 魔道具というのは、ダンジョンで発見されたもので、それらの効果は多岐にわたるが中には国宝になるというものもある。以前フィールは、自分の力がものに宿った結果、そんな不思議な道具が生まれると言っていた。




「ですね。現物を見たことはないので何とも言えないのですが」




 ⋯⋯フィールが言ってたじゃん。と思いながら、その言葉を聞き流す。




「気になります?」




 フィールが新聞屋のほうを見ながら言う。確かに、何の魔道具が盗まれたのかは気になるけど、そこまででもないかな。




「いいや、別にそうでもないかな」




「分かりました」




 フィールはそう言うと、前のほうに目を移す。




「やあ、君たち」




 僕らがそこから立ち去ろうとしたときに、突然そんな声が聞こえてきた。聞き覚えのない声であったため、僕にかけられたものではないだろう。そう思って僕らは立ち去ろうとする。




「声かけられてますよ」




 フィールは僕にそう声をかける。




「多分人違いだろうし、気にしなくていいよ」




 僕はフィールをそう説得して、その場から去ろうとする。




「え?いやいや、君たちであってるからね?」




「はぁ⋯⋯。人違いだと思いますよ」




 若干めんどくさい予感を感じつつも仕方なしに、そう返事して、声のほうに向きなおる。




「いや、合ってるからね。恐らく⋯⋯」




「僕としても、貴方のことは知らないんですよ」




 そこに居たのは、見知らぬ少女だった。容姿としては整っているほうだろう。若干不健康そうな雰囲気はあるが。




「別に君たちが知らないから僕が知らないとは限らないからね」




「そうですか、それでは」




 そう言って、僕は再度立ち去ろうとする。




「⋯⋯じゃあね、となると思う?」




「さあ?」




「話進まないからそのノリはやめて」




 少女はため息交じりにそう言葉をこぼした。面倒なことこの上ないが、これ以上無視するのも厳しいか。




「で、なんですか?」




「⋯⋯どうしてこうも僕はいじられキャラになっちゃうのかなぁ」




 少女は、僕の声が聞こえていなかったようで、そう呟いている。帰っていいかな?いいよね?そう考えて僕はその場を後にしようとする。




「ああ、ごめんごめんって。そんなにすぐ立ち去ろうとしないで!」




 突然、僕とフィールの間に割り込むようにして少女が声をかけてくる。




「はぁ、で何の用なんですか?」




「少し、フィールちゃんを貸してもらえないかなぁと」




「⋯⋯どうしてですか?」




 急にフィールが指名された理由が分からず、僕は聞き返す。というか、僕はフィールの名前を出した覚えはない。だというのに少女は名前を知っている。そこにも違和感がある。かといって、知り合いという線も考えづらい。僕らは、別の町から来たばかりだし、フィールと出会って、人に会った回数も少ない。




「⋯⋯分かってるでしょ。彼女の異常な知識は」




「⋯⋯」




 そこまで知られているのか、なおさらこの少女への不信感が高まる。確かに、僕らはフィールの異常性を隠してきたわけではない。とはいえ、すぐにばれるほど極端には晒していないはずだ。




「どこで知ったんですか?」




「さて、どこででしょう?」




「⋯⋯」




「ふふ、分からないだろうけど、僕は敵じゃないよ」




 含み笑いをしながら、そう少女は口にする。なぜだか、フィールのほうに目を向けて。




「⋯⋯分かりました。嘘はないですね」




 フィールは少女を見つめながら、そう口にする。




「やっぱり、フィールちゃんは超能力者みたいなこともできるんだね」




 少女は若干苦笑しつつ、そう言葉をこぼす。




「いえ、流石に人の心は読めませんよ。口にするときの目の動きとかで判断しています」




「それをすごいっていうんだよ⋯⋯」




 少女は呆れ気味につぶやく。




「⋯⋯まあ、とりあえず聞きたいことがあるからフィールちゃんを貸してくれない?」




「分かった」




 これ以上拒否しても、頼まれ続けるだけだろうし。⋯⋯それに、フィールが承諾した以上それに従うべきだろう。僕に彼女を縛る権利なんてないのだから。


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