第13話 時間つぶし

〈sideルーク〉




 僕らは素材の査定が終わるまで待たないといけない。そういうわけで、ギルドから出て、街の中を歩く。この間にしておいたほうがいいことがあるかと考え、今日の宿屋を決めていないことを思い出す。ギルドに戻った時に聞いてもいいが、戻った時に立て込んでいたら聞けない可能性もあるか。今のうちに聞いておいたほうがいいだろう。




「すいません。宿屋を探してるんですが」




 僕は、ベンチで休んでいる女性にそう声をかけた。




「宿屋ですか⋯⋯。そうですね、あちらに見える『小鳥のさえずり亭』がいいって聞きますよ」




 女性は、向かいの通りにある一軒を指さしながら言う。




「私は泊ったことはないんですが、評判はいいです」




 まあ、街に住んでいる人がわざわざ宿屋は使わないか⋯⋯。




「分かりました。後で行ってみます、ありがとうございました」




 僕は女性にそう感謝を告げてその場を後にする。とりあえず、資金を確保できたら件の宿屋に行ってみよう。どんな宿屋かは行ってみてから確認するので大丈夫だろう。




 とはいえ、これだけで査定までの時間を潰せているわけではない。まだまだ時間が余っている。ダンジョンに行ってみようにも、日はもうすぐ落ちそうになっている。これから行ったら、今日中に帰れるか怪しい。


 かといって、行く当てがあるわけではない。⋯⋯というか、どこへ行こうにもお金がない今、冷やかしにしかならない。




「⋯⋯急に立ち止まってどうしました?」




 どこへ行こうか悩んだ末に立ち止まっていたらしく、そんな僕を見たフィールがそう声をかけてくる。




「いや、どこで時間潰そうかと思ってね」




 誤魔化す必要もないので僕は、素直にそう答える。




「⋯⋯私が喧嘩でもします?」




 どして?フィールは近くで乱闘騒ぎになっている冒険者らしき人たちを横目にそう告げる。ちなみに周りの人たちは、賭け事に興じている。これもなんで?


 ⋯⋯することがないとはいえ、喧嘩させるわけにはいかない。




「止めてきましょうか?」




 そんな様子を見ていたからか、フィールはそう告げる。




「いや、しな⋯⋯」




「おい!何ガン飛ばしてんだ!」




 僕が否定しようとした矢先に、僕らに見られていることに気づいた、喧嘩中だった冒険者が声を怒声を響き渡らせる。⋯⋯周りで賭け事している人たちはいいんですか?




「⋯⋯」




 どうしたものか⋯⋯。ここで言い返すなら僕も巻き込まれる。いや、もう巻き込まれてるか。僕は、相手の姿を確認する。ギルドマスターほどではないが筋骨隆々な肉体を持ったいかにも強そうといった見た目の男だった。⋯⋯僕が巻き込まれようものならすぐにけちょんけちょんにされてしまう。




「⋯⋯私がやりましょうか?」




「やめて」




 フィールの提案は即却下する。フィールが参加すれば、まあ、余裕で勝てるだろう。ただ、僕としては喧嘩の事態を避けたいので、参加はやめてほしい。




「⋯⋯とりあえず、逃げるか」




 この場に居たら、喧嘩に巻き込まれてしまうことは確実。流石に、追いかけてくることはないだろう。そう考えた僕は、フィールを連れて、その場から駆け出すのだった。






「はぁ、はぁ」




「⋯⋯」




 息切れする僕と、全くそんな様子を見せないフィール。⋯⋯やっぱり、フィールと僕の差は大きいのか。




「ここまでくれば大丈夫だよね?」




「⋯⋯」




 ここまで逃げておけば、時間がたって僕のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。


 かなり走ったせいか、全く見覚えのない場所にたどり着いた。⋯⋯初めての街だから大体の場所は見覚えのない場所になるのだが。




「さて、ギルドに戻ろうか」




 特にこの場所に用事はないので、ギルドに戻ることにする。時間をつぶせそうな場所もないし。


 そう考えた僕は、来た道を引き返す。




「こっちのほうが早いです」




 フィールは、来た道とは違う方向を指しながらそう言う。方向音痴を疑うところだが、言っているのがフィールだから、僕はそれに素直に従う。


 それから、しばらく歩くと見覚えのある通りが見えてきた。フィールはどうやってこの道に気づいたのだろうか。




「探知の応用です」




 フィールは心を読んでか、そう口にする。探知というのは、魔力を広げてあたりの様子を察知する魔法らしい。フィールに聞くまで知らなかった魔法だ。


 そして、僕らはギルドの中に再度入りなおす。




「戻ってきたか。もう終わっているぞ」




 ギルドの中に入ると、作業員の男が僕たちにそう声をかけてきた。僕たちは、彼のいるカウンターに向かう。




「⋯⋯査定結果としてはこんなもんだな」




 男は、そう言って僕たちに数字の書いた紙を見せる。そこには、魔物素材の査定結果の値段がずらりとならんでいる。⋯⋯特に問題はなさそうだな。


 何か査定ミスがありそうな部分がないことを確認する。




「これで大丈夫です」




「分かった、じゃあこれが金だ」




 そう言って男は、僕に麻袋を渡す。ちらりと中を確認して、中抜きがなさそうなことを確認してから懐にしまう、ふりをしつつ空間収納に入れる。




「またの利用お待ちしています」




 誰かに仕込まれたのか、今までの様子から想像できないような敬語で僕たちは見送られつつ、その場を後にするのだった。

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