自称魔女っ娘が私に求婚してきて、まじで困ってます!

tataku

第1話

「ねぇ、ゆかりちゃん。私ね、昨日ようやく魔女になれたんだよ。あのおばあちゃんがようやく認めてくれたんだから!」


 そんな馬鹿みたいなことを、大真面目な顔で言われた。


 これが俗に言う――中二病、というやつか。


 そんな奴、初めて見たよ。


 私たちはもう、高校一年生だっていうのにね。


 因みに、私の目の前にいる少女はクラスメイト。


 だけど、一度も話したことなんてない。


 そんな彼女にいきなり呼び止められた。


 学校の中ではなく、下校している最中に。


 友達とは先ほど別れたばかりで、今は細い路地裏。


 今、この世界には私と彼女しかいない。


 そんな中、多少の薄気味悪さを感じてしまうのは仕方がない話だ。


 そして、誰だって同じことを思うはずだ。

 


 お前、頭大丈夫なのか? と。

 


 ――今は、五月中旬。

 


 確かに暑くはなってきたけれど、頭がおかしくなるほどの気温ではない。


 しかもこいつ、今日は学校を休んでいる。なのに、私服ではなく制服姿。


 つまり、サボりだったわけだ。


 顔に似合わず、不良だったのか?


 まぁ、別にいいんだけども。


 だって私には、何の関係もない話だから。


「ふふふ、これでようやく私も一人前なんだよ、ゆかりちゃん!」


 目の前のロリ美少女は腕を組み、何だかご満悦みたいだ。


 っていうか、いきなり名前で呼ぶなよ。


 しかも、ちゃん付とかまじで止めてくれ。


 私はそんなガラじゃないんだから。


 あぁ、文句が言いたい。


 だけど、彼女を刺激するのはだけは止めた方がよさそうだ。


 だから私はにこやかな顔で、


「そうなんだ、よかったわね。それじゃあ、私――忙しいから」


 そう言って、ゆっくり後ずさることにした。


 目の前にいるこいつは、多分やばい奴だと――私の本能が訴えている。


 だから、さっさと避難するべきだ。


「何か大変なことでもあるの? それなら、私が力になれると思うの。ううん、絶対力になるよ。だって私、魔女になれたんだから!」


 奴は無遠慮に距離を詰めてくると、いきなり手を握ってきた。


 ちんまいこいつは、子犬のような目で私を見あげてくる。不覚にも、可愛いと思ってしまった。


 こいつは小学生――のような見た目。


 そして、あまり見慣れぬ北欧系美少女。そんな奴から詰め寄られたなら、誰だって同じ感想を持つはずだ。例え、明らかにそれがやばそうな奴だったとしても、可愛いことだけは認めざるを得ない。

 


 くりくりお目々から覗く青い目と――"ふわふわ"な金色の髪は腰まで伸びており、思わず触りたくなってくる。

 


 なにせ、昔憧れたお人形が、人として私の前に現れたみたいなのだから。



 ……。



 あぁ、我慢。



 我慢だ……。



 だから私は、目を閉じることにした。



 それにしても、お人形かぁ……。

 


 それで思い出したけども――私、昔はお人形みたい、と言われたことがある。



 そう――こけしみたいだね、と!

 


 向こうは決して悪口のつもりはなかっただろう。

 

 しかし、私はショックだった。


 原因は――おかっぱ頭のせいだと結論づけ、それ以来ずっと髪を伸ばしてきた。


 だが最近、手入れが面倒くさくなり、いつも通う美容室で私に似合う短い髪型をオーダーした。そして、再びおかっぱ頭の私を見ることとなる。


 ふふふ……まさに、地獄ね!


 だけどもう、流石に現れないとは思うけど。私をこけし扱いするような輩は。


「ねぇねぇゆかりちゃん、なんで目を閉じてるの?」


 そんなの、お前の顔を間近で見たくないからだよ。


「……」


 何だか、圧を感じ――薄く目を開くと、とんでもないものが間近に控えていた。そう――目前に、美少女の顔が存在していた。


 なんだこいつ――私とキスでもするつもりか!?


 私は奴の手を振りほどくと、慌てて距離を離した。


 不覚にもドキッとしてしまった。


 それが、とてつもなく悔しかった。


「な、何なのよ、あんたは」


 奴は下唇に指を置くと、首を傾げてくる。


 な、何という、あざとさ!


 自分の可愛さを自覚してないと、決してできない仕草だ。


 まぁ、確かに美少女だとは思うけどね!


「もしかして――ゆかりちゃん、魔女のことも忘れちゃった?」

「ば、馬鹿にしないでよ。それぐらい知っているから」


 そう、魔女とは物語の主人公を襲う怖いおばあさんで、なぜかとんがり帽子を被っている。そして――巨大なオタマで、巨大な鍋の中をひたすらかき混ぜる(もしかしたら結構筋肉質なのかもしれない)悪い人間だ。


「よかったぁ」


 と、美少女がほっと胸を撫でおろし、笑みを浮かべ喜んだ。

 


 ……いや、いいのか?

 

 

 悪いイメージしかないんだけども。


「そ、それにしても、一体あんたは何なのよ」

「ん?」


 だから、いちいち首を傾げるな。


 可愛い――とか思っちゃうだろ!

 

「そもそも、あんたと私には何の接点もなかったでしょ。なのに、なんでいきなりこんな話――しかも、学校の外ですんのよ」


 私はクラスの中でも目立たないグループで静かにエンジョイしている。だが、こいつは違う。スクールカースト上位のギャルたちに囲まれ、いつも可愛がられている。まさに1軍女子と呼ぶに相応しい女!


 そんな彼女とは、一度も話したことなんてない。


 やたら、視線が合うなぁーとは思っていたけども。


 だけど、そのことを友達に話したら何かめちゃくちゃ鼻で笑われた。


 正直、いまだに納得ができていない。

 


 ――突然、奴は深い溜息を吐きやがった。

 


 ば、馬鹿にしてんのか?


「分かってはいたことだけどぉ……」


 と、奴は愚痴っぽく呟くと、


「やっぱり、私とゆかりちゃんが紡いできた愛の記憶が消されているのは――寂しいなぁ」


 と、なんだかわけのわからないことを口走り、人差し指をいじいじとしだした。


「な、何が言いたいのよ、あんたは」

「うん――まぁ、だから仕方ないんだよ」

 

 と、奴は項垂れた顔を上げる。


「だって――おばあちゃんから、魔女と認められるまでは恋人絶対禁止って言われていたし、ゆかりちゃんとの接触も絶対禁止って言われていたからね」


 と、意味の分からないことを言い出した。


「だからね、ずっと我慢してきたんだよ。偉いでしょ?」


 別に、偉くはない。むしろ、私のほうが偉いだろ。こんな奴の相手をわざわざしてあげてるんだからさぁ。


 だから誰か褒めろよ。


 今すぐに!


「でもね、もう我慢しなくていいんだぁーと思うと、本当に嬉しいんだぁ。これで昔約束したみたいに、ずっと側にいられるよ、ゆかりちゃん!」


 実に、嬉しそうに奴は笑う。


 それにしても、昔っていつの話だ?

 

「だからね、ゆかりちゃん。私と結婚しよ!」


 色々、話がぶっ飛びすぎぃ!


「な、なんでいきなり、結婚なのよ!」


 恋人が欲しかったんじゃないのか?


 っていうか、私――女ですけど?


 つーか、なんで私?


 色々と突っ込みどころが多すぎる。


「そんなの、決まってるよ!」


 と、奴は叫んだ。


「私が、ゆかりちゃんを大好きだからだよ!」


 ……。


 あぁ……分かった。


 これは、あれだ。


 何かの罰ゲーム。


「――私のことが、好きなの?」

「ただの好きじゃないよ、大好きなんだよ!」

「私の、何を好きだって言うの?」


 答えられるはずがない。


 だってそれは――嘘だから。


 だって私自身、私のこと――大っ嫌いだから。

 

「そんなの、色々あるよ!」


 何もないから、色々って言葉に逃げ込むのだ。


「初めは――ひと目惚れだったの」


 ますますありえない。


 私は、普通以下だから。


 あんたとは違う。


 特別なあんたと、私は違うのだ。


 意外と――ショックかもしれない。


 こんな、悪戯をするような奴だとは思っていなかったから。


 話したことなんてなくても、多分――好ましくは思っていた。


 認めたくはないけど、自然と――目で追ってしまっていた。


 だけど、だからこそ――腹が立つ。


「だってゆかりちゃん――」


 私が、何だと言うのだ?


「こけしみたいだから!」


 あぁ!?

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