第8話 フローライト

白霧さんと出会い、部活へのビジョンが少し開けてきた気がした次の日私たちは図書室へ集まっていた。

部活会議……ではなくテスト前の勉強会だ。

示し合わせてではなく行ったら彼女が来たって感じ。

「あっ!陽菜先輩!」

「お疲れ様。怜奈ちゃん。」

カリカリ、カリカリ。

勉強中というのもあって会話はない。

部活の話…するかな?と思いチラリと様子を伺うが彼女は黄色がかった瞳を大きく開けてノートと向き合っていた。

話しかけれる雰囲気じゃないな。

私も古文のプリントに目を落とした。

集中していると時間は早く進む。

あっという間に最終下校時間だ。

光陰矢の如しってこんな感じなのかな。

夏は短しとも言うしね。

夏……か。夏休みまでに部活作れたらいいんだけど。

窓の外でまだ沈みそうにない太陽を見て夏を感じる。

「先輩どうしたんですか?」

かなりぼーっとしていたのか怜奈ちゃんが心配そうに声をかけてくる。

「なんでもないよ!ただだいぶ日が長くなってきたな〜って思ってさ!」

その言葉に怜奈ちゃんも窓の方をむく。

「確かに……。真っ赤な太陽だ。ルビーみたい…。」

そっと手を伸ばす彼女の目には真っ赤な太陽が映っていた。

「ルビーか。」

どんな宝石なの?と聞こうとした瞬間に優しい声が後ろから響く。

「2人とも〜そろそろ閉めちゃうわよ?」

「あっわかりました。」

「ほんとだ!気づかなかったです!」

ごめんなさい〜と言いながら怜奈ちゃんは私の横を通り抜けていった。

「先輩も、行きますよ?」

「うん!ごめんね。」

ルビーのような太陽に背を向けて図書室を出た。

帰り道はテストの話ばっかり。

「今回で赤点かどうか決まるんですよね……。やだなぁ補習とかなったら!」

「前回30点下回ってないなら多分大丈夫だよ!」

「いやいやもし一桁点とか取っちゃったらどうするんですか!」

「逆にそんなことある?!」

そんな会話をしているとあっという間にお互いの家。

あまりに部活の話も宝石の話もなくて少し戸惑う。

本当は部活なんていらないんじゃないか。そんな事が頭によぎる。

「先輩大丈夫ですか?今日ぼーっとしてません?」

様子が変な私を心配して声をかけてくれる。

「あ、うん!大丈夫!」

「ゆっくり休んでくださいね?ではまた!」

「うん!じゃあね!」

そこでルビーの話とか部活の話とかできない私はやっぱり弱虫だ。

そんな日が1日、1日と過ぎていく。

怜奈ちゃんも普段と変わらないまま。

私だけが焦っていく感じがする。

部活を創立するためにやることは沢山あるのに何も進まない。何も言えない。

夏が終わってしまう。虚しさが私を包み込んでむせるぐらい暑いはずなのに脳の奥は冷えていった。

夜ベッドに寝転がりながらSNSの記事をスクロールする。

ずっともやもやしながら。私だけなのかな。

「ん?」

ある投稿で記事が止まる。

『長続きする付き合いの方法』

あ、これカップル用だ。関係ないね。

別の記事にとんだつもりが間違えてその記事を開いてしまった。

「あっ、開いちゃった。」

『ちゃんと気持ちは伝えること。』

正直ドキッとした。

『人は自分とは違います。些細な不安や不満は大きくなると自分でも手をつけられなくなります。その前にしっかりお互いに気持ちを伝えて話し合いをしましょう!』

人は自分とは違う…か。確かに。

じゃあこのままもやもやしてるだけじゃ何も伝わらないし解決もしない…んだ。

胸が苦しくなる。伝えるの、怖い。

熱量のすれ違いが怖い。

「うーん…。」

スマホを枕元へ投げ出して天井を見上げる。

そりゃいつかは言った方がいいし、ただでさえ不機嫌とかモヤモヤしてる時顔に出やすいから。

「言えるかな…。」

ピロン♪

その時通知音が響く。

画面を開くと怜奈という文字。

どうやらチャットが来たらしい。

「陽菜先輩!明日も図書室行きますか?わかんないとこあるので聞きたいです!」

テス勉かな?

「うん。行くよ。」

送信ボタンを押して気づく。

「言うなら今しかないな。」

まだ既読のつかないチャットを見て私は文字を打ち込む。

最悪消せばいいし!

「部活のことそろそろ話したいかな?って思うんだけどどうかな?全然暇な時とか、テスト終わってからでいいんだけど…。」

保険をかけにかけたLINEを意を決して送る。

「やっちゃった…。」

未読の時間が続く。目の前にいないのに気まずい。

時間がゆっくりに感じる。

「あーもうダメだ!耐えられない!消そう!」

たまらずメッセージを長押しする。

編集メニューがでて削除を押そうとした瞬間。

「ひっ!」

チャットの横には既読の文字。

見られた!

どう返ってくるんだろう…既読無視とかされたら耐えられない。

ぎゅっと目をつぶると少ししてポコンという音が響く。

恐る恐る目を開くとそこには了解というスタンプだけ。

あーもう終わりなんだ。絶望していると画面にもうひとつチャットが浮かぶ。

「テス勉のことばっかりで頭すっぽ抜けてました!そろそろやらないとですね!言ってくれてありがとうございます!2日後の金曜日とかどうですか?」

普通の返信。

「へ?」気が抜けて間抜けな言葉がこぼれる。

言って大丈夫だったんだ。

上手く言葉がまとまらなくてOKというスタンプを押す。

そこで安心した私は睡魔に襲われて眠ってしまった。

2日後にむけて英気を養うように。






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無彩色は笑わない 徒華 @adabana_writer

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