無彩色は笑わない

徒華

第1話 モルガナイトの下で

昔から自分が嫌いだった。

真っ黒な髪の毛にやぼったい瞼。

いつも「眠いの?」と言われる。

影でひっそりと生きるのがお似合い。

名前も嫌い。

黒原というそれっぽい苗字なのに陽菜という正反対の名前。

私は太陽にはなれない。

高校生になっても別に変わろうとも思わない。

変わったって無駄なのだ。

せいぜい陽キャに目をつけられないよう波風たてないよう進級、卒業。それが目標。

そんな私は静かに2年生に進級した。

特に部活にも入っていないからお昼を何となく共にする子しか友達もいない。

「今日も終わった。」独り言を言いながら校門を目指す。

季節は春。桜が綺麗に咲いて太陽にキラキラと輝いている。

「まぶし…。」何となく見てられなくて視線を下げると

ドンっ。顔のあたりに衝撃が走る。

誰かにぶつかったのだ。そう思った瞬間に冷や汗が出る。

「ごっ…ごっ…ごめんなさい!ま、前見てなくて!」

速攻で頭を下げる。と上から焦ったような声が聞こえる。

「えっ!そっそんなに謝らないでくださいよ!大丈夫ですから!私もモルガナイトに見とれてたので!」

モルガ……ナイト?

頭をあげるとそこには小柄な女の子。

少し明るい茶髪に黄色がかった瞳。

ひと目でわかる。可愛い子。

最悪だ…。そう思っていたら

「わぁ!すごい綺麗な瞳ですね!オニキスみたい!髪もすごい綺麗!うらやましい…。」

とその子は言う。

「え、えぇ…。」

「あっ!ごめんなさい。癖で…。」

彼女は頭を掻きながら言った。

「全然…そんな綺麗なんかじゃないです…。」

そんなわけない。目の前のあなたの方がよっぽど綺麗です。

「いやいや!めちゃくちゃ綺麗ですよ!オニキスなんてすんごい綺麗でばっちし合ってますよ!」

目をキラキラさせながらぐいぐい来る。

「私!宝石大好きなんです!自分の目は琥珀に近くて好きは好きなんですけどやっっぱり澄んだ綺麗な色に憧れちゃうんです!」

「ほ、宝石…。」

「でも君の目はまだまだ磨けます!せっかくの瞳なんです!キラッキラにしましょう!」

「ちょ、ちょっと待って!」

だんだんすごい方向に向かう話に思わずストップをかける。

「私なんて…全然可愛くないし…そんなキラキラとかそういうキャラじゃないし…あなたが誰かも知らないし…。」

きょとんとしていた顔の彼女は私の言葉に真っ赤になる。

「あっ!ごめんなさいまた突っ走っちゃった…。私は1年3組の日野怜奈です!」

あっ年下なんだ。眩しいな…。

「私は2年1組の黒原陽菜です。よ、よろしく?」

「先輩だったんですか!ほんとにごめんなさい!無礼なことして!」

ガバッと音がしそうなくらいの勢いで頭を下げられる。

「全然気にしてないから頭あげて欲しいです…。」

今の構図私がいじめてるみたいになってるからぁと焦りながら言う。

そして頭をあげた彼女は何かを言いたそうにした後縋るような申し訳なさそうな顔をして言った。

「あの…先輩が良ければさっきのしたいんですけどいいですか…?」

「えっ。どれの話?」

「先輩キラキラ計画です!」

「い、いやさっき言ったみたいに私…キラキラみたいなタイプじゃないし…。」

「だからこそするんですよ!人間皆原石!その中でもすんごい綺麗な瞳してるんです!いや瞳だけじゃなくて髪もなんですから活かしましょう!別にイメチェンする訳じゃなくてなんて言うんだろう磨くみたいな感じです!」

ダメですか…?と子犬みたいな目で見つめられると断りづらくなってしまう。

それに少しだけ変われるなら…変われるなら…。

小さく頷いていた。

その瞬間彼女は顔をぱあっと輝かせてありがとうございます!と言った。

「じゃあ早速連絡先交換しましょ陽菜先輩!」

「ひ、陽菜先輩?!」

突然の下の名前に驚く。

「ダメですか?可愛い名前だなぁって思って!」

「苗字じゃだめかな…?恥ずかしくて…。」

「その理由なら却下です!」

「そ、そっか…。」

「先輩も私の事下の名前で呼んでくださいね!下の名前で呼ぶことも仲良くなることの第一歩ですから!呼んでみてください!」

「れ、怜奈ちゃん?」

「そうですそうです!その調子です!これからよろしくお願いします!」

楽しみだなぁなんて呟く彼女に私はとんでもないことになったかもと内心焦る。

「じゃあ陽菜先輩また明日!」

「あ、またね…。」

ルンルンと帰る彼女を見送り一息つく。

「これからどうなるんだろう。」

柔らかい風が頬を撫でた。

桜の花びらがひらひらと落ちてくるのを手のひらで受ける。

どうやら今日の出来事を世界も喜んでいるようだ。

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