君と見た虹
松川 瑠音
君と見た虹
辺り一面を覆う黒く立ち上がる煙、銃火器の関光、防弾の炸裂。それらがこの戦場がどれほど過激であるかを物語っていた。
それはたった一週間での出来事なのにあんなにも栄えていたであろう都市は、見るも無残な姿へと変容し赤黒く燃え上がる炎により建物の残骸や車両を容赦なく焼き尽くされている。
空は薄暗く雲が太陽を覆い隠しゴロゴロと鳴っている。雨こそまだ降っていないが何時降りだしても可笑しくない。
アレンは、このいつ終わるのかも分からない戦いに疲弊していた。
元々アレンは戦場なんて経験もした事のないしがない平民なのだ。殆どの仲間がアレンと同じように国の命令により故郷を離れ、この戦場へと連れてこられているが、訓練もしていない平民がこの戦場で生き残れる筈もなく、多くの仲間が死んでいった。
隊長はこのままあと2日も耐えれば救援が来ると言っていたが、物資も残り僅かなのにあと2日この戦場を耐え凌ぐことなんて出来る筈もない。
ついにパラパラと雨が振り出し始めた。それが合図かのように、突然予想だにしてなかった銃弾の雨がアレン達へと襲いかかる。慌てて反撃するも銃弾を避ける事も出来ず一人二人とその場に崩れ落ちていく。
アレンも例外ではなかった。肩と腹部に衝撃が走り、部位に猛烈な熱を感じる。その瞬間、アレンはその場に崩れ落ちた。それと同時にまるで身体を突き破るかのような痛みがアレンを襲う。経験した事のない痛みに声を出す事も出来ず、痛み苦しむ。
どれだけ時間が経ったのか分からないが、もう銃撃音は聞こえない。唯一聞こえるのはアレンと同じように苦しむ仲間の声だけ。しかし数分もすれば何れ皆死に耐えるだろう。
アレンは最後に故郷で待つ恋人の姿が頭に過った。普段は泣き虫で何かあればすぐ泣いていた彼女があの日だけは、絶対に帰ってきてと涙を堪えながら言ってくれたのに。
約束は叶えられそうにない。
皮肉なことだ。先程まで降り注いでいた雨は止み、視界いっぱいに青空が広がっている。
あぁ。君と見た虹はこんなにも、
君と見た虹 松川 瑠音 @matukawaruto
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