第7話 締め付けられるのも悪くない
あれから1ヶ月が過ぎた。
エミエラも自分の魔眼がどうやって相手を締め付けているのかが分かったらしく試行錯誤しながらどうにか締め付けないようにと頑張っている。
あ、キツくなった、緩くなった……
こんなことを続けていると何か変な扉が開いてしまいそうだ。
「休憩しようか?」
「もう少し! お願いします!」
そしてこの10日で俺はエミエラをかなり好きになった。
諦めずに努力する姿は応援したくなるし、原因を探る過程で何か閃いた時の笑顔とか失敗してしょんぼりした顔とか近くで見ているとどんどん惹き込まれてしまう魅力がエミエラにはあった。
そしてその時は唐突に訪れる。
ふと俺の体が開放感に包まれたのだ。
「「……せ、成功だぁぁ!!(ですぅぅぅぅ!!)」」
「感覚は掴めたか!?」
「掴みました! ふふん! えいっ!」
「あべっ!」
「あっ!? 力加減の練習はしてませんでしたぁぁぁ!!」
「だ、大丈夫、うっぷ」
どうやら本当に感覚を掴んだらしく俺がひしゃげた声を出した瞬間、拘束が消えた。
いやぁ、教え子が成長したことを感じる教師の気分ってこんな感じなのかな……
「カイル様……本当にありがとうございます」
「おう! これで目標の半分は達成だな」
「え?」
「ん? 左目もなんだろ? 最後まで付き合うよ」
「いや、でも……危ないですし!」
「確かに……庭に出よう!」
「ど、どう解釈したらその選択になるんです!?」
確かに危ないな、魔力が暴走した時の1番簡単な対処法は魔力が空になるまで使い果たしてやる事なのだ。
部屋の中だと存分に魔法が使えない、エミエラは頭がいいな。
「よし! ドンと来いや!」
「ほんとに大丈夫なんでしょうか?」
「多分! 死にはしない!」
「死んだら私も死にます! だから死なないでくださいね!」
そう言ってエミエラは左目の眼帯を外した。
エミエラの左目は綺麗な蒼い目をしており、その瞳に捉えられた俺は体が火照るように熱くなり体の奥底から魔力が噴き出してくる。
「っ!?」
「カイル様……?」
「大丈夫、だと思う」
魔力は暴走していない……ただ魔力が増えている気がするのだ。
今も魔力操作に集中していないと魔法が暴発するんじゃないかと思うほど今までに感じたことの無い魔力を感じる。
「止まった……まさかもう操れたのか?」
「キュウ」
「エミエラ!?」
魔力の沸き立ちが止まったかと思うとエミエラが目を回して倒れていた。
慌てて抱き抱えて屋敷に戻り、寝室に寝かせ症状から医者が必要かどうかを判断する。
「魔力切れか……」
エミエラの症状は魔力切れと酷似というか典型的な魔力切れの症状しかなかった。
屋敷にあった魔力ポーションを飲ませて1時間もすると顔色も良くなって起き上がってきた。
「カイル様……」
「起きたのか」
「あの、私は」
「魔力が切れて倒れたんだ、ここは俺の寝室だよ」
客人なんて来る予定がないせいで俺の寝室と屋敷の使用人以外の部屋はそこまで手入れされていないのだ。
未婚の女性をとは思ったがここには大人もいないし最悪、俺とエミエラが黙っていれば無かったことになる。
「カイル様の寝室!? わ、私もう少し寝ててもよろしいですか!?」
「ん? まあいいけど少し耳だけ貸してくれ」
「なんでしょう?」
俺はある仮説を立てたのだ。
ズバリ、エミエラの左目は魔力暴走の魔眼じゃない説〜
安直だと思ったか? そうだよ、俺のネーミングセンスは皆無だからな!
エミエラに俺の考えを話すとポカンとした顔をしていたが要はエミエラの魔眼は魔力譲渡の魔眼では無いかという物だ。
「そんなもの聞いたことがありません」
「あぁ、俺もない、色んな本を読み漁ったけど記述は一切なかった、だからこその試してみたいんだ、手伝ってくれるか?」
「えぇ、私の事ですから少しでもこの目についてわかるなら頑張ります」
「そう言ってくれると思ってたよ、まあ今日はゆっくり休んで明日にしよう」
「……も、もう少しだけここに居ても……いいですか?」
「うん、構わないよ」
エミエラはそれから夜になるまで俺のベットを占領していた。
流石に侍女が迎えに来た時にはそそくさと帰って行ったが何か決意をしたような顔をしていたのはきっと気のせいだ。
「寝れないんだが」
それもそのはず、ベットからはエミエラの花のようなふんわりとした甘い匂いがしており掛け布団なんて被った日には理性が吹き飛ぶ自信がある。
俺はそのまま悶々とした夜を過ごして翌朝を迎えるのだった。
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