第5話 女難

「改めまして、私はエミエラ・カルトバーグです、カイル様のこの後の時間を頂戴しても?」


「え、えぇ、わ、私も辺境の身で友人などおりませんので」


「ふふ、慣れた口調でいいですよ、ここには礼儀作法を気にするような大人は居ませんから」


「ありがとう……助かるよ」


 クッソ、美少女と話せるのは嬉しいけど公爵家だぞ、もしもがあるのは困る。

 胃がキリキリしてきた……


「カイル様はどうして魔眼を恐れないのですか?」


「俺が世間で嫌われてる闇魔法を好きで、カルトバーグ様からは敵意を感じないからかな」


「エミエラです」


「エミエラ様」


「エ・ミ・エ・ラです」


「この場ではそう呼ぶよ、エミエラ」


 このお嬢様、距離の詰め方がエグイぞ。

 これが陽キャ貴族ってやつなのか!?

 普通は腹の探り合いとかするんじゃないのか? 前世でもこういう女子見たことある気がするぞ。


「ふふ、こうやって怯えずに話してくださるのは家族を除くとあなたで2人目ですから、少し気分が上がってしまいました」


「そうだったのか」


「家族にも友人にも恵まれて居ますから……」


 気まずい、話しが続かないぞ、ちょっと背景が重いのも相まってなんて言葉をかければいいんだ?

転生したところで前世は何の変哲もないただの高校生だったのだ、人生経験なんて鼻くそ程しかないんだぞ……


「エミエラはどうやって周りを見てるんだ? ここには1人みたいだし」


「目隠しの下から少し見えているというのもありますが魔力感知が得意で魔力で周りを感じているんです」


 魔力感知、周囲の魔力を感じる技能で魔力操作と同じくらい魔法の基礎で大切な物だ。

 俺も自分の体外の魔力となると全然分からないので相当練度が高いことが分かる。


「もしかしてこれなら、見えるって事か?」


「ネコでしょうか?」


「本当に見えるのか」


 水魔法でネコを作ってみるとエミエラは見事に当てて見せた。

どうやらほんとうに


「ふふ、魔力感知だけは自信があるんですよっ!」


「いいな、俺は最近魔法の練習を始めたからか体外の魔力は感じることすら出来ないよ」


「その歳で魔法ができるならすぐに上達しますよ」


「そう言って貰えるならやる気が出るよ」


 美少女の応援というのは異世界に来てもやる気を出すのには充分以上の効果があるらしい。

 可愛いのに目隠しなんて勿体ない気がする。

 魔眼か、どうにもならない物なんだよな……


「エミエラ、どっちの目がどんな魔眼なんだ?」


「……右が束縛の左が魔力暴走の魔眼ですわ」


「束縛と魔力暴走か、束縛ってどんな効果なんだ? 文字どうり動けなくなるのか?」


「え、えぇ、何かに縛り付けられるように動けなくなるようです」


「じゃあ、魔力暴走は?」


「それは……その」


「言いたくなかったか? すまない、無配慮だったな」


 確かに女性の体についてズカズカと質問するのはあまり良くないことだったな。

 それにしても束縛の魔眼かぁ、見ただけで相手が動けなくなるとかカッコイイな!


「いえ、その、嫌われてしまうのではないかと……」


「そんなに危険なのか?」


「過去にこの魔眼を持っていた人は見た者が未熟だと魔力回路をズタボロにしてしまったそうです」


 魔力回路とは魔力が通る道のことで血管の魔力版というのが1番しっくりくる表現だ。

 それがズタボロになるというのは想像したくもないな……


「なぁ、嫌ならいいんだけど束縛の魔眼で俺を見てくれないか」


「え……」


「いや、未知のものに興味があるだけで決して他意はない」


「そ、その私のことを恐れないでくれると約束してくださるなら」


「カイル・アイルバの名にかけて約束するよ」


「で、では」


 本当に他意は無いぞ、こんな可愛い子になら束縛されてみたいとかそういうのじゃなくて純粋にどういう感覚なのか気になるだけだ。


「行きますっ!」


 彼女は右目を覆っている布をそっとたくし上げた。

 綺麗な真っ赤な目が顕になって見惚れた瞬間俺の体は何かに縛り上げられるように動かなくなった。


「綺麗だッ!? ほ、本当に動かなくなるのかよ」


「き、綺麗っ!?」


「あ、あの、エミエラ? もういいから1回解いてくれないかこれ」


「き、綺麗……」


「エミエラ〜?」


「もう1回! もう1回言ってください!」


「え? あぁ、分かった、……っと凄く綺麗な瞳だと思うよ」


 俺がそう言うとそっと布を戻してエミエラは微笑んだ。

 目が隠れているから少し感情を読み取りずらいけど頬が少し赤く染っているのが月明かりに照らされて見える。

 きっとエミエラが俺の事を見れていたのなら顔が赤くなっているのがバレただろう。

 美少女はずるいな何をやっても絵になるんだから。


「カイル様は学園に通うんですよね」


「あぁ、王都には今年から住むけど入学は3年後だな、また会うことがあれば仲良くしてくれよ?」


「……えぇ、近いうちに会えると良いですね」


 俺はこの時、すっかり忘れていたのだ。

 あの祝福の存在を……


『女難の相』


 こんなにすぐに忘れられてしまった祝福は存在を主張するかのように動き始めるのだった。

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