異世界帰りの俺、TS魔法少女になっても筋肉で全てぶん殴る

☆ほしい

第1話

――魔王を、ぶっ飛ばした。


俺――いや、今は「私」か――神楽カイは、異世界〈エルデ=ガルド〉で数えきれない修羅場を乗り越え、ついに魔王デスロード=ザイガスを拳一発で粉砕してやった。


「これで……終わった、か!」


ボロボロの服、血だらけの拳、地に膝をついた俺の前に、すべてを見守っていた聖女様が涙ぐみながら微笑んだ。


「カイ様……本当に、ありがとうございました……!」


「へへっ……当然だろ……?」


ふらりと立ち上がり、天を仰いだ俺の視界に、輝く光が満ちる。


聖女様が祈りを捧げると、世界中に流れていた瘴気が一斉に晴れ渡り、町にも村にも、笑顔が戻る。


これでようやく、長かった戦いにも終止符を打てたわけだ。


もう思い残すことはない。


「カイ様。あなたは、約束通り……元の世界へ帰還できます」


聖女様がそう告げたとき、俺は胸を張って答えた。


「おう! 帰ったら……ステーキ食って、風呂入って、ぐっすり寝るぞー!!」


ガハハと笑った瞬間、眩い光が俺を包み込む。


そして――



――目が覚めたら、そこは見慣れた……ようで、どこか違う現代世界だった。


「ん、ここ……どこだ?」


起き上がって、周囲を見渡す。ビル群が並ぶ都会、だけど路地裏に魔法の紋章が刻まれていたり、空に浮かぶ巨大なリング状の構造物があったりと、異世界ファンタジーめいた装飾がそこかしこに混ざっている。


「ふーん……まあ、細けぇことはいいか!」


異世界帰りにちょっとくらいファンタジー混じってたって、驚くほどでもない。


問題は、俺のこの身体だ。


「……うわ、うっす! 筋肉どこいった!?」


今の俺の身体は、どこからどう見ても華奢な美少女だった。しかも、ふにふに。ぷにぷに。


前に鍛え上げた鋼のような筋肉はどこにも見当たらない。


いや、正確には――完全に消えたわけじゃなかった。


「むむむ……力を込めると、ちゃんと動くな」


ちょっと拳を握っただけで、バチバチと音を立てて体内エネルギーがみなぎる感じがする。


筋肉は見えないだけで、存在そのものは異世界仕様だ。つまり――


「見た目美少女、中身ゴリマッチョ!! 最高じゃねぇか!!」


腕をぶんぶん振り回しながら笑ってると、通りすがりのOLさんたちが「きゃっ」と逃げていった。


「……まあ、外では少し大人しくしてた方がいいか」


自分でもわかるくらい挙動不審だったからな。仕方ない。


さて、現代っぽいけど現代じゃないこの街で、どうやって生きていこうか。


……と思ったら、突然、目の前に、赤と白の水玉模様の傘みたいな生き物がぽよーんと降ってきた。


「うわっ!? な、なんだお前!?」


「カイ様!! 私、ミルフィ! あなた専属のサポート妖精です!!」


「え、専属? 妖精? サポート?」


「はいっ! あなたにはこれから、この世界を守る使命が課せられていますっ!」


「ほう……なるほど?」


異世界帰りに現代異世界で魔法少女とか、もはや笑うしかない展開だな!


「任せろ!! この俺、いや、私、神楽カイ! 異世界仕込みの魂と拳で、この世界だろうがどこだろうが、全部まとめて守ってやるぜッ!!!」


拳を天に突き上げると、ミルフィがぽよぽよ跳ねながら拍手してきた。


「さっすがですぅー! それじゃあ、まずは変身しましょう!」


「変身?」


「はいっ! これが変身アイテム、『ソウルブレスレット』です!」


ミルフィが取り出したのは、ゴツめの金属製のブレスレット。


なんかこう、魔法少女ってもっと可愛いアイテム使うイメージだったけど……まあいいか!


ブレスレットを受け取って、腕にはめる。


すると――


「『マッスル・フレア・チェンジ!!』って叫んでください!!」


「よっしゃあ! 『マッスル・フレア・チェンジッ!!』」


ドゴォォォンッ!!


爆発的な光が俺を包み、次の瞬間、派手なフリルとリボンがついた、でもどこか戦闘服っぽいデザインの衣装に包まれていた。


「うおおおおっ!? 派手ッ!? でも……動きやすい!!」


変身後の身体は、異世界仕様の気配がさらに強まってる。


これなら、どんな敵が来ようがぶん殴れる気しかしねぇ!


「カイ様っ! 初任務ですっ!! 近くのショッピングモールに、アベレーター(怪物)が出現しましたっ!」


「了解!! 目標、ぶっ倒して、ショッピングモールを守る!!」


よーし、燃えてきたあああ!!


異世界帰りの筋肉魂、この世界でも全開だッ!!!

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