『大暗パン』

やましん(テンパー)

『大暗パン』


 『大暗ダイアンパン』は、いわゆる賢者(エリート)には見ることも食べることも触ることもできない、庶民のためにのみある、最高級のあんぱんである。


 その美味しさは、言葉に尽くすことはできない。


 開発したのは、わが王国の開祖とされる、オリジン王であるとされるが、確たる証拠はない。


 名前は、『海王星』の大暗班から来たらしい。


 ちょうど、1500年ほどまえに、当時の探査宇宙衛星が、その現象を発見したとされる。初代国王が、まだ若き日のことだったとされている。



 かなり薄い皮に、甘さはやや控えめなあんこが入るのだが、このあんこがただ者ではなく、皮とあいまって、不思議な力を発揮するらしいが、その製法は、オリジンパン工房にのみ伝えられる。


 特徴は、まずは、なんといっても、所謂エリートには、なぜだか、その姿が見えないことである。


 その科学的な根拠も、まだわからない。


 オリジン王は、エリートではなかったとされている。


 王は、いわゆる落ちこぼれから身を起こし、回りのエリートたちが自滅して行くなかで、長い寿命を保ち、ついに最後まで生き残ったため、王となった稀有な存在である。


 ただし、歴史上の偉人の常として、謎が多く、実在しないのではないかと疑う学者もある。


 しかし、常に、反証として持ち出されるのが、この『大暗パン』なのであった。


 栄養価はかなり高く、食べすぎると太るという、欠点もあった。


 しかし、太るということからも、実在することは疑いを入れないわけである。


 逆に言えば、『大暗パン』が見えて食べられるものは、エリートにはなれないのである。


 

 だから、王国では『パン食い試験』が、よく、抜き打ち的に行われている。


 やりかたは、いたって簡単で、そのあたりの軒から吊り下げたり、床に並べたり、運動場のトラックに敷いたり、食堂でふいに出したりするのである。


 『大暗パン』には、決まった形がなく、様々な様相にされている。


 しかし、見えている人は、当然に避ける。


 あるいは、食べるわけだ。


 賢者(エリート)は、素通りしてしまうのだ。

 

 出されても食べられない。


 賢者さまは、気の毒なわけなのである。




    🥯🥯🥯🥯🥯🥯🥯🥯🥯🥯

 

 

 『大暗パン食えぬものこそ


        世の誉れなり』



 『見えても食うな


      食えても食うな


          大暗パン』



 『上手な大暗パンの避けかた。~『週刊 賢者の友』から。』


 『大暗パンはおおばけする。見えないこつ教えます。』



 その他、さまざまな、『大暗パン』のトリセツ書籍が出されていた。


 わが王国は、思想信条の自由が保証されていて、たとえば政府関係者などを平和的理論的に批判することも罪にはならない。


 だから、大暗パンのトリセツがあってもおかしくはないのである。


 じつは、上手に隠しとおした有名人もあるとされている。


 もちろん、微妙な秘密事項に当たるし、そこは、言論の自由、プライバシーの保護があり、いたずらに暴くことはできないが、暴露データも多数世に出されていた。


 また、もしかしたら、不正なことが、政府内部で行われたのではないか、という疑惑も、ときたま浮かんでは消えた。


 某大臣と、某大企業の社長が、秘密裏に『大暗パン』を食べるパーティーを開いていた、『大暗パン事件』というのもあったのだが、結局は闇に消えた。


 

   🥐🥐🥐🥐🥐🥐🥐🥯🥐🥐🥐


 

 ぼくは、大暗パンを普通に食べてきた。


 それで、なんの問題にもならなかったのである。


 ただ、このところ、やたら、高くなったのには、参っている。原料が入手困難になっているらしいが、はっきりしないのである。


 経済的に、買えなくなってきたわけである。


 庶民には、『大暗パン』が買えない世の中になってきたというわけなのだ。一大事である。


 では、いま、食べているのは、いったい、どういう人たちなのか?


 かなり、関心を集めている。





          おわり







           🙇🙇🙇





        やましんのおはなし




   🐻🐻🐻🐻🐻🐻🐼🐼🐼🐼🐼🐨🐨🐨🐨🐨
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『大暗パン』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る