忌我の海
風見 黄鵝
第1話 忌我の海
「私は人間にはなれないのでしょう」
お気に入りの水族館に逃げ込んできた少女。
……深海 一花は届かぬ手をペンギンへと伸ばしながらぼんやりと息を吐いた。
「それならペンギンになりたいなぁ」
ペンギンでなくてもいい、せめて、人以外になりたかった。
こちらの話が分かっているのかいないのか……
目の前のペンギンがちょこんと首をかしげる。
「幽霊でもいいなぁ」
心霊スポットに突撃したらなれるだろうか。
他の人には見えない火事、蠢く影、化け猫。
昔から割と霊感が強い方なのでなれるかもしれない。
「グァー」
ペンギンが返事をしてくれた気がした。
潮の香りが鼻をつく。
「心霊スポットってこういう所でいいのかなぁ」
ペンギン達に別れを告げて向かったのは近所の海の近くにある小さな神社。
財布の中を漁って五円玉を見つけたのでお賽銭を投げておく。
鈍い音を立てて落ちていったそれを見ながら両手を合わせて祈った。
『人間辞められますように』
目を開けても私は人間もどきのままだった。
「何か見つからないかなぁ」
見つかるはずがないと知りながらも神社の周りを散策する。
「ん?」
大きな看板のような物を見つけて立ち止まる。
それには、神社の成り立ちのような物が書かれていた。
『昔、この土地には漁村がありました。
小さな村ながら、魚をとって平和に暮らしていました。
しかし、ある時に村を飢饉が襲いました。
食料不足に困った村人達は村から人を追放していきました。
追放された人々は飢餓感に耐えきれずに次々と海に飛び込んでいきました。
哀れに思った海の神様は人々を神の使いへと変え、飢餓の苦しみを代わりに受けました。
空腹になった神は村を食べてしまいました。
人々は空腹の神を鎮めるためにこの神社を建て、供物を捧げる代わりに願いを叶えてもらうようになりました。
飢餓之海神社』
なかなかにグロかった。
というか、見た感じ誰も供物捧げてない今は空腹の神はどうしているのだろうか……
背筋が冷える。
海から何かに見られているような気がした。
しかし、神の使いとかいうのは面白い気がする。
私も神の使いにしてもらえないだろうか。
飢餓状態で海に飛び込めばいいだろうか?
何かヤダな。
忌我状態でネットの海じゃ駄目だろうか。
スマホで適当にスレッドを立てて忌我の海と書いてポチポチ押してみる。
1 :ファーストペンギン:2025/04/29(火) 16:38:24.51 ID:rAZR6LDV3
忌我の海
波の引く音が聞こえ、スマホにノイズがかかる。
「……!」
目の前に海が広がっているような感覚に襲われる。
心臓の音がドクドクと聞こえ、世界がノイズに包まれる。
もはや、波の音なのかスマホのノイズ音なのか分からない。
1 :ファーストペンギン:2025/04/29(火) 16:38:25.08 ID:Kiganoumi1
忌我の海
次に海を押したら飛び込めるのだと何となく分かった。
「私は人間を辞める」
もちろん、迷わずに押した。
気づいたら海の中で泳いでいた。
美しいフリッパーで羽ばたきながら深くへと進んでいく。
神の使いとなった今、神が弱っていることを嫌でも感じ取ることができた。
私を神の使いにしたことが消える前の最後の悪あがきだったらしい。
手順も正式な物を踏まなかったので存在すら不安定になっている。
……私のせいでは?
『どうにかしなくては』
しかし、もはや実体すら無くなった身体でどうすればいいというのだろうか。
『そこのお嬢さん』
あら、幻聴まで聞こえてきました。
『お嬢さーん』
あれ、幻聴じゃない?
『ペンギンさーん』
『あ、はい』
『よかった届いたね。ちょっと戻ってきてくれ』
海面へと上がると黒いフードと仮面を被った明らかに怪しい男が見えた。
「やあ、君が深海一花だね?」
『そうですけど……誰です?』
「私はとある神の使いだよ、ヒラギと呼ばれている」
『私の神に何か用ですか?』
「神?ああ、その怪異を神と言っているのか」
まあ、人からしたら変わらないかと男は笑う。
『助けて貰ったんです、あなたの神は私を助けてくれるんですか?』
明らかに気分を悪くしたペンギンが画面越しに男を睨む。
「もちろん助けるさ……そこの怪異も一緒にね」
『……話を聞きましょう』
「物分かりがよくて助かるよ」
男はスマホに向けて話し出す。
「元々、君には素質があるから勧誘対象だったんだよ」
『勧誘対象?』
「そう、今はまだ観察期間だったんだけどね。まさか怪異の仲間入りをするとは思わなかったよ」
『そうなんですね』
「君も怪異も弱っていて大変そうじゃないか」
『そうですね』
「私の神の使いになれば2人とも助けてやる」
『なります』
「いい返事だ!決断が早いやつは好きだよ」
私がペンギンになってから1ヶ月がたった。
最近はヒラギに頼まれた仕事をしている。
例えば、ネット上の証拠隠滅とか証拠隠滅とか……
自分達の情報を気持ち悪いくらいに消したいみたい。
まあ、ペンギン仲間を増やしていい許可も得れたしいいんだけどね。
既に仲間は100を超えている。
幽霊になりたいと思う人は案外多いらしい。
生きたくはないけど死にたくもない。
だから幽霊になる。
私と同じ人間に向いてない人達。
そういう人を救い続けようと思う。
彼らには基本的に好きなように行動させている。
一応、規律みたいな物はヒラギに作らされたけどほぼ自由だ。
これからも仲間達と一緒に楽しくやっていこうと思う。
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