好きだった子をメイドにしたら、俺の部屋でこっそりナニかしている
かがみゆう
第1話 メイドさんは夢を見せてくれる
「さあ、召し上がって」
テーブルに料理が並べられ、柔らかい声でささやかれる。
その声の主が一礼して、俺のそばに立つ。
茶色の長い髪に膝丈のメイド服をまとった、信じられないほど美しいメイドだ。
そう、我が家にはメイドがいる。
巨大な洋館――フィクションの舞台としてはよく見るこんな建物は、現代日本ではただ住みづらいだけだ。
あまりにも広すぎて、Wi-Fiの子機が一台や二台じゃ追いつかない。
こんなデカい洋館は、ただの高校生、それもズボラな部類に入る俺が維持するのは不可能だ。
掃除をするだけで、冗談抜きで日が暮れてしまう広さなのだ。
“
旧邸は父から押しつけられたもので、ここに住めという命令への拒否権はなかった。
ただ、その父も使用人を雇うことに文句はないらしい。
それどころか、父から毎月振り込まれる生活費には、最初から使用人の人件費が含まれていたという。
そんなわけで、旧邸でメイド一人を雇うくらいはなんでもない。
だが、俺はメイドの雇用については慎重になるべきだった。
今となっては心からそう思う。
「不味い……」
「清宮くん、なにか言った?」
俺のそばに立っているメイドが、じろっと睨んできた。
「い、いや、不思議な味がするシチューだなと……」
「そう、よかった」
別に褒めてないぞ。
そう思いつつも、彼女の前で余計なことは言えない。
「…………」
俺は無言で、テーブルに置かれたシチューをすすっていく。見た目はゴロゴロ野菜が入った、美味しそうなホワイトシチューなのに。
なぜこんな、痺れるような酸味や炭でも齧ってるような苦みが伝わってくるんだろう?
「この
「そ、そうだな……」
最近では、このメイド――清耶香が意図的に複雑な不味さを醸し出す味付けをしていると疑っているほどだ。
もしそうだったら、侮れない技術ではある。
「清宮くん、そのパンを千切ってシチューにつけて食べるのもいいわよ」
「ちなみにこのパンは?」
「もちろん、私が朝からせっせとコネて焼いてみたのよ。清宮家の食卓に出来合いの物なんて並べられないから」
「余計なマネを……」
「ハァ?」
「なんでもないです、食べられるだけで感謝です」
メイドに敬語を使う主、それが俺だ。
いや、強い者に敬意を払うのは生き物としての本能だろ?
清耶香が手ずから焼いたというパンは、ガチガチに堅くて人間が噛み砕ける硬度じゃない。
あまり味がないくせに、シチューに浸して食べると絶妙なハーモニーを醸し出して不味い。
だが、メイドというのは言ってみれば“主の生活の支配者”だ。
どちらが支配者でどちらが従属しているか、見方によっては簡単に逆転してしまう。
「清耶香が俺の食生活を握ってるからな……メイドのご機嫌を損ねて、栄養不足になるだけならまだマシ、毒でも盛られたら……」
「全部聞こえてるのだけど、聞こえるように言ってるわよね。それ、ちょっと食べさせて」
「え?」
「メイドが一緒に食卓を囲むわけにはいかないから、ここに私の分はないでしょ?」
「普通に一緒に食ってくれていいんだがな……」
清耶香は食事中は、いつも俺の横に立ったままだ。
なんかプレッシャーかかるから、普通に隣に座ってほしいが……。
「いいから、食べさせて」
「マジか……ほら」
「うん。んー……あむ」
俺がシチューをスプーンですくって、清耶香の口元に差し出す。
清耶香はためらいなく、ぱくりとそのスプーンをくわえた。
「不味い……こんなの食べるなんて、清宮くんってドMのド変態なの?」
「ドをつけた上に変態まで付け加えるなよ」
おまえが言う“こんなの”をつくり上げたのはどこのメイドなんだ?
「まあ、ぶっちゃけ不味い。リアクションが取れない笑えないレベルの味なんで、救いようがないな」
「そこまで言うとは、さすがクズのご主人様ね」
「ご主人様の前に絶対につけちゃいけないワードだな、それ」
だが認めよう、俺はクズだ。
主としての立場をいいことに、メイドに言いたい放題言ってしまう。
あとのことを考えないなら、言えるんだよな。
「でも、クズだものね。メイドがいないと生きていけないわよね?」
「そのとおり、クズの俺には料理下手のメイドくらいがちょうどいい」
「清宮くん、もしかして私を慰めてくれてるの?」
「……別に」
「慰め方、ヘタクソすぎない? もっと普通に思いやりを見せてくれてもいいのに」
「クズに思いやりを期待しないでほしいな」
「……思いやり、あると思うけど」
「…………」
清耶香は、わずかに顔を赤くしてそっぽを向いた。
どうも俺、クズになりきれないらしいな……中途半端だ。
「あ、一品出し忘れていたわ。ごめんなさい」
「え? い、いや、忘れたままでも別に……」
なんとかシチューとパンをたいらげつつあるのに、この上さらになにを?
希望が見えてきたところで地獄を見せるとか、ウチのメイドはやり手だな。
「ほら、これは……どう?」
「どうって――な、なにしてるんだ!?」
俺の横に立つメイドが、スカートをめくり上げて、太ももと――白い下着がちらりと見えている。
「わ、私……料理は下手だけど、身体だけは良いから」
「俺が身体目当てで雇ってるみたいだろ!」
実際、清耶香はスタイル抜群だ。
胸はなんと圧巻のGカップでメイド服の胸元を大きく押し上げ、それでいて全身はすらりとしている。
「不味い料理の口直しに、デザートの私を召し上がるのはどう?」
「め、召し上がらな――こう、もうちょっとだけスカートを……」
「クズは欲望に忠実ね」
清耶香は無表情のまま頬を赤く染め、さらにスカートを持ち上げてみせた。
白いパンツがさらにあらわになり――前面に赤いリボンがついているところまで見えてしまう。
「おお……って、そこまでだ!」
「今さら聖人ぶらなくてもいいのに」
「いや、パンツはちらっと見えてるほうがいい。あまり丸見えだと趣がなくなる」
「ド変態は合ってたと思うわ」
メイドが蔑みの視線を向けてくる。
その視線、これはこれで悪くない。
「同じクラスの女子をメイドにして、命令して恥ずかしい真似をさせる……あなたは男子の夢を叶えたのね」
「清耶香は男子に偏見があるようだな」
だが、クラスメイトの女子――しかもクラスで一番、いや学校で一番といっていい美少女が一つ屋根の下にいて、メイド服を着て仕えてくれて。
しかも、命令すればなんでも応えてくれる。
夢のような状況と言っていいだろうが――
「私は家事は無能だけれど……」
清耶香はスカートをつまんでいた手を離し、俺の耳元に口を寄せてきて。
「ご奉仕しますから、なんでも命じてくださいね」
「…………っ」
優しく、丁寧な口調でささやいてきた。
時々、こうして“メイドの敬語”で話しかけてくる。
正直なところ、たまらなく強烈だ。
清耶香ほどの美人がメイドとして仕えて、メイドとして命令に従ってくれる。
こんな夢のような状況があっていいのだろうか?
夢のような状況だからこそ疑う。
夢のような状況だからこそ、必ず裏がある――俺はそういう
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