わたしが活動休止するわけ

天照うた @詩だった人

出発

 4月29日、七時。私は一つの近況ノートを投稿した。


「【重要】活動を休止します」


◇◆◇◆◇◆


 数週間前、新学期がスタートした。仲の良い子も、信頼できる人も、部活の仲間も……みんな、クラスが離れてしまった。


 私は引っ込み思案だ。周囲に望まれたことだって満足にできないし、うまく人とコミュニケーションをとることも覚束ない。

 今、笑顔を浮かべられているか……自分には、わからない。


 学校の生活の中では、ペアで活動をすることが多くある。

 授業内はもちろん、教室移動や休み時間の時だって、みんな誰かと笑顔を浮かべている。

 ……私は、大抵ひとりだ。


 友達が居ないってわけじゃない。誰とも話せない、ってわけじゃない。

 けれど、がここにはいない。


 引っ込み思案な私は、寂しがり屋でもある。

 誰かが隣にいないと安心できなくて、誰かに私の価値を認めてもらえないと生きていけない。


 だから、書いた。

 カクヨムここのみんなは、私のことを認めてくれた。ここに居るときだけ、私は私のまま誰かに認めてもらえる気がした。


 けれど……私の手は、止まってしまった。

 クラス替えのストレス。笑顔を浮かべていることの辛さ。たまにズキッと痛む頭――。

 全てが私を襲った。いつもは自然に動いていたはずの手が、ぴたっと止まってしまった。


 この物語だって、四苦八苦しながら書いている。一語一語、どの言葉を使えばいいか、どんな構成にしたら良いか――。

 前までは頭の中で自然に浮かび上がっていたそれが、どこかへ消えてしまった。


 そこで初めて、私は恵まれていたなって実感したんだ。

 今までは、辛いときに私の小説は鋭さを増して、良い小説になると思っていた。けれど、今の私には良い小説が書けない。


 前までの私には、辛くたって隣で肩を叩いてくれる友が居た。全部頼り切ることのできる、信頼できる人が居た。

 だけど、私は怖い。きっと、今「辛い」って言えばみんなは助けてくれる。だから、怖いんだ。私は、みんなの人生を邪魔してしまう。みんなに、迷惑を掛けてしまう。


 だから、誰にも頼れない。けれど、1人は怖い――。

 そんな私は、カクヨムに固執してしまった。自分が書くことにしか能がないと思って、ひたすら書こうとした。


 ……けれど、そのことでさえも、今の私には、できない。

 カクヨムに居ると、ずっと『書かなきゃいけない』って思ってしまっている。そのことを、ユーザーさんに言われて気づいた。


 新しい、景色が見たい。

 周囲のみんなに支えてもらうんじゃなくて、自分ひとりで、きれいな景色が見たい。


 今回の活動休止期間を設けたのは、決してここが嫌いになったからじゃない。

 自分勝手な、私のわがままだ。


 きっと、ひとりの世界は辛い。

 現実にはたくさんの闇がある。私はずっと下を見ていた。たくさんの人に、『こっちだよ』って手を引っ張ってもらっていた。けれど、手を離されたならば、私は前を見ないといけない。


 きっと、何回も転ぶ。

 きっと、何回も嗤われる。


 そのたびに、『過去のままでよかった』と思ってしまうかもしれない。


 けれど、このままじゃダメだ。これが、私が選んだ道だ。


 何度けたって、何度嗤われたって絶対に挫けない。私は、私がいることの意味をこの世界に見い出しにいく。



 だから、それが終わるまで待って欲しい。5月10日。私は、この日に帰ってくる。



 それまで、少しだけ旅に出かけます。


 ――みんな、いってきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしが活動休止するわけ 天照うた @詩だった人 @umiuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ