孤独の海の小人たち

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 かつての人類は宇宙にご執心だったらしい。

 誰がもっとも早く月に降り立つか? 

 誰がもっとも早く火星に移住するか? 

 誰がもっとも早くメインベルトの荒波を超えて木星の本当の模様をその目で見るか? 

 彼らはじっと空を見上げて、その栄光を我が物にすることを夢見てきたらしい。

 うらやましい、と思う。ときには自らの命すら懸けて暗くて静かな、あまりにも広すぎる孤独の海へと旅立ってゆく。ぼくが子どもの頃に描いた宇宙への夢も、そんな冒険譚だったような気がする。


 だからぼくは宇宙飛行士になったのだ。

 いまではなんの地位も栄誉もない、ありきたりな職業だったとしても。

 



 地平線から太陽が昇り始めるみたいな陽気なイントロが船内スピーカから流れる。

『2352年6月29日。宇宙人スペース・ダスティの皆さま、こんばんは。こちら地球衛星放送局マザー・パラサイト・ストリーム《わしばな》です。本日の放送はわたくし、メーオゥがお送りいたします』

 イントロの後に続いた低く穏やかな声につられてぼくは読書を中断する。もうなんど読み返したか覚えていないほど読んでいるから、しおりも挟まず本を閉じた。ぼくらの船は基本的にラジオを垂れ流しにしている。作業中のBGMにちょうどいいのと、暇つぶしに最適だからだ。ぼくはリビング空間の非常呼集マイクをオンにすると、それに向かって叫んだ。

「アル! 当たり回だ! メーオゥさんがパーソナリティだよ」

 これでやつがどこに──船内だろうが船外だろうが──いようと、ぼくの興奮が耳元で爆音となって届くだろう。案の定、数十秒もしないうちに二人しかいない乗組員の片割れは、のっぺりとしたシルエットの船外服をまとったままリビング空間に姿を見せた、というが寄った実に不機嫌な顔つきで。

「うるせぇぞ馬鹿。いちいち緊急用のチャンネル使うなっつってんだろ。危うく宇宙に放り出されるところだった。つうかなにが当たり回だよ、ほとんど毎回こいつの担当じゃねぇか」

「毎日が当たり回ってことだね」

 アルバートの額に濃い青筋がいくつも浮んだが、すぐに盛大なため息とともに見えなくなる。ちょっとからかいすぎた。

『さっそくリスナーからのお便りが届いておりますので、二、三ほど読み上げていきたいと思います。ペンネーム、「ガニメデよりエウロペ」さん。ありがとうございます。「先日、わたしの妻が出産のため──」』

「ああっ、またダメだった。やっぱり15分オーバーのラグはきついか。地球のやつらがうらやましいよ、お便りレースで絶対的に有利だから」

 ぼくはこの瞬間ほど、このぷかぷかのんきに浮かんでいる船の世話係という自分の仕事を恨めしく思ったことはない。

「だがガニメデだのエウロペだの、このリスナーは木星衛星群にいるんじゃねぇか?」

アルバートはうっとうしそうに船外服を脱ぎ捨てながらどうでもよさそうに言う。ぼくはフンと鼻で笑ってやった。アルバートが投げつけてきたコーヒーパウチが顔面にクリーンヒットしてぐえっと情けない声を出す。

「木星から地球までのラグはいまの位置関係で35分以上。どうやって開始2分のラジオに届けるのさ」

 ぼくはストローをぶっ刺したコーヒーパウチをちゅるちゅると吸った。可もなく不可もない、燻された豆の苦みと酸味が喉を通っていく。

「お前……、ちょっと考えたらわかるだろ」

「なにが?」

 アルバートはいっそ気持ちのいいくらい思い切り馬鹿を見る目でぼくを見た。もうバディを組んで五ヶ月ほどだけど、オブラートに包むという気遣いを学んでくれる気配はない。

「33分前に地球に向かってメッセージを送信したんだよ」

「え、あ。あぁ、たしかに」

 なるほど単純明快だ。ぼくだってどうしていままで思いつかなかったのか不思議なくらいだ。ラジオ局のタイムテーブルは分刻みで決まっているのだ。そうか、ここからお便りを読まれるためには、放送開始15分前に送信しておけばいい……?

『いやぁ災難でしたね。まさか火星への輸送中に出産することになるとは。しかし母子ともに無事でよかったです。ささやかながら、赤ん坊が土星サトゥルヌスに食べられてしまわないよう願っています』

「いやでも、それは……、なんというか、健全なリスナーとしての矜持に背く行為では?」

「しらん、おれに訊くな」

 なんとも冷たくて血も涙もない同乗者は、ひとつ大きく伸びとあくびをすると自室につながるドアを開けた。

「仮眠でも取るの? サボりはよくないなぁ」

「いいだろ別に。頼まれてたソナーセンサーの修理はさっき終えたし、地球も火星も太陽の向こう側だ」

 アルバートは鬱陶しそうに手をひらひらと振りながら、こちらを見ようともしなかった。

「火星は離れつつあるだけで、まだそこそこ近くにいるんだけどな……」

 ぼくのぼやきも無視して部屋に引っ込もうとするから、なぜだか負け惜しみみたいなセリフになってしまう。

「五日後! 補給巡航船とのランデヴーに合わせて火星からエリシウム大学の研究者一行が来船するから。よくわからないけどなにかの研究目的で滞在予定。ちゃんと隅々まで掃除しとこうね!」

「おー、頼んだ」

 ドアがぴしゃりと閉じて、忌々しい相棒の背中を隠してしまう。怒りに任せて握りつぶしてしまったパウチからこげ茶色の液体が吹き出して、こぶし大くらいの球形が目の前を漂う。慌てて吸い取ったら気管に詰まりかけて激しくむせた。

『続いて「カイパーベルトの向こう側」さんから。ありがとうございます。「一カ月ほど前からイアペトゥス基地隊員の間で原因不明の風邪が流行っていると聞きました。世界宇宙開発機構WSDAの恒星間飛行計画に影響が出ないか心配です」』

 ぼくは大慌てでウォーターパウチをむしり開け、中身をじゅうじゅうと飲んだ。

「あぁもう!」

 死ぬかと思った。

『そうですね。わたくしも最近そのニュースを知りました。計画にもなにか支障が出るかもしれません。ですが、心配なさらずとも良いのです。何百年かかろうとも、どんな障害があろうとも、人類は必ず太陽系の外へと旅立つでしょう。そこに新たな発見があるのなら』




 エリシウム大学の研究者たちを乗せた小型輸送船《ピクシー》は、予定時刻きっかりに到着した。てっきり10人くらいの大所帯なのかと思ったら、ドッキングを果たした接続部から顔を出したのはたったの二人だけだった。

「あれ、たったの二人だけ? ほかの方々は巡航船に置いてきちゃったの?」

 ぼくは採光窓ごしに、土星級核融合エンジンを意気揚々と吹かしてものすごい速度で離れていく補給巡航船の軌跡を目で追う。そう無遠慮に訊いたおかげで、年老いた白髪頭のいかにも「学者」なほうの来訪者の機関銃みたいな早口を浴びせられることになった。

「そう、実に嘆かわしいことにたったの二人だけなのだよ! わたしの偉大なる大発見に学内の学徒たちはみな大興奮で教授連中も腰を抜かして驚いていたのだからわたしが研究を次に進めるべく宇宙空間へ進出することを提案すればみな諸手を挙げての大賛同でウン百人という大艦隊になるはずだったのだがいざふたを開けてみればだぁれもついてこようとはしなかった! なんたる悲劇! 科学の熱意はとうに失われたのか! あぁ嘘偽りの似非科学者ども、白衣など脱いでうだつの上がらんゴシップ誌でも読んでいろ!」

 いっきに捲し立てるものだからほとんどなにも聞き取れなった。ただかなりクセの強い人物だということだけはわかる。

「えーっと?」

 ぼくは助けを求めて来訪者のもう片方、きゅっとつり上がった理知的な目をしている年若い研究者のほうを見遣った。研究者は目が合うとぼくの困惑を悟ったのか、ひとつ小さく嘆息するといまだに肩を怒らせる老人の隣に進み出る。無重力下に慣れていない地上人ダウン・ロッツらしいぎこちなさだった。

「うちの教授がいきなり申し訳ありません。こちら、エリシウム大学のニック・ハーバード教授です。専門は実験的次元物理学。わたしはその助手、林遥リンヤオと申します。同大学の博士課程で教授の研究室に所属しています」

 控えめに会釈する林遥に、こちらも慌ててぺこりと頭を下げた。よかった、この人とは難なくコミュニケーションが取れそうだ。

「ようこそ、第八号地球火星間中継船《サ・イラ》へ。ぼくは、いちおう船長のカミラ・サガストゥメ」

 そこまで言って、ぼくの後ろで不機嫌そうに腕を組んでいた暫定副船長のほうを向いてみたけど、ムッと口をつぐんだまま喋り出す気配すらない。

「……こっちは副船長のアルバート・ウィリアムズ。見ての通り、ぼくらも二人だけなんだ。火星から来たならよく知っていると思うけど、いまはこれっぽっちも中継船としての需要がないからね。当面の仕事は船内の整備と、きみたちみたいな来訪者に安全・快適な宇宙空間を提供すること。まぁ、オンボロ船だから快適性は保証しかねるけど、好きなだけ居てくれて構わないから。これからよろしくね」

 そう締めくくってとりあえずハーバード教授に握手を差し出したけど、まったく無視される。というかこの人はぼくの説明を聞いていたのかさえ怪しい。手を引っ込めようか悩んでいると教授の横から伸びた林遥の冷たくほっそりとした手が握り返してくれた。

「サガストゥメ氏、これからよろしくお願いします」

「カミラでいいよ」

 ぼくは林遥の手を上下に軽く振る。話が通じるって素晴らしい。

「それで、きみたちはどんな研究をしに来たの? 大発見だかなんだか聞こえたけど」

 研究、大発見という言葉に反応したのか、ハーバード教授は突然限界まで目をかっぴらいてぼくの顔を射殺すように見つめた。

「そう大発見なのだよ! きみは少しは話が通じるようでなによりだカリサくん。ズバリ言ってしまえばわたしたちはスケッチブックの外を見ようとしているのだな大変無謀で傲慢なのは重々承知だがこの研究の価値はきっと計り知れないものになるとわたしは確信しているのできみは歴史が動く瞬間というものに立ち会えることになるのだから誇りに思ってもらって結構だ」

 ぼくの名前を間違って覚えていることを指摘する暇がないくらいの厚い弾幕トークだ。

「簡単に言うと四次元構造を観測しに来たんです。教授の開発したスコープとプロジェクタを使って……」

「スコープ! まさしくこれはわたしの人生すべてを費やして制作した三次元という籠のなかから脱却するための鍵である。理論の上では完璧だったがそもそもスケッチブックのなかの小人にはどの絵が高次元物体のただのに過ぎないのかがわからなかったゆえに一小人たるわたしは悠久とも思われるあいだ鍵を振りかざして手あたり次第ひたすらに様々な絵のなかから鍵穴を探すしかなかった」

「四次元スコープを使った観測一つ一つはすぐに終わるので、悠久という表現は大げさですね。せいぜい三年程度だったと思います」

 教授のゲリラ雷雨みたいな語りの息継ぎの合間を縫って林遥が補足してくれる。

「そしてわれわれはついに鍵穴を見つけたのだ! スコープが映し出した空間的歪みをわたしはこの目に焼き付けた! 通常の三次元構造物はスコープを通して視ると必ず二次元構造のように錯覚する方向がある。ちょうど一枚の紙を真横から見ると一本の線にしか見えなくなる瞬間のように。だがそれはいつ何時にどの方向から観測しても、! わかるかね? つまりいままでわたしたちが同じ絵という仲間だと思っていたそれは、四次元構造のうちの三次元構造を描いたただのだったのだ。それも本当にほんの少しだけを描写しただけのね」

 教授の言っていることがよくわからなくなってきた。トートロジー的ですらある。ただ目を回すしかないぼくの頭に、林遥の若干呆れているようでもある落ち着き払った声音は良く響いた。

「つまり教授は、手作りした鍵に合う、高次元物体という鍵穴をようやく発見し、いまからその扉を開けようとしているのです」

「な、なるほど?」

 だいたいわかったような、そうでもないような。アルバートはどうだろう、と声どころか音の一つも立てやしない後ろを振り返った。相変わらずの気難しい顔と目が合う。なにか質問することはあるか、というかそもそも話の内容がわかったのか、視線に乗せて問いてみる。アルバートは来訪者に向かって威嚇するように歯を剝いた。

「うさんくせぇ。なんでわざわざ《サ・イラうち》に来る必要があった? ずっと地上の研究室にでもこもってスコープでもなんでも覗いてりゃ良いじゃねぇか」

 警戒感を隠そうともしないで吐き捨てるように言う。でもたしかにそうだ。スコープやら高次元やらの話が本当だとしても、少なくない手間暇をかけて宇宙空間に来た意味はなんだろう?

「そっちのきみは全然話がわかっていないようだね! 理由はさきほどわたしの助手が述べていたじゃないか。これだから科学のカの字も知らない素人は好かんのだよ」

 教授が数世紀前のアメリカンコメディか、と言いたくなるくらい大げさに肩をすくめるもんだから、アルバートの額は瞬時に青筋だらけになる。いまにも獲物に飛びつく狼みたいな顔で教授を睨むので、ぼくは慌てて口を開いた。

「り、理由っていうのは『扉を開ける』こと?」

 教授の隣に佇む林遥に視線でフォローを求めると、わずかに頷いて肯定した。

「つまり教授が発見した四次元構造を詳しく解析するために《サ・イラ》は最適であるとわれわれは判断しました」

「宇宙空間にあって火星の地上にないものが明確にあるじゃないか!」

 教授はぼくとアルバートに向かって熱のこもった演説を仕向けるみたいに両腕を広げて見せた。でも宇宙での生活が長いぼくらは感覚が麻痺しているのかピンと来ない。見かねた林遥がぼくら宇宙人スペース・ダスティの後方を指差した。つられて振り返ると分厚いガラス板と、その先の無限の闇。

「まったく、火星や地球など本当にちっぽけに感じられるな!」

 教授が宇宙に向ける目は、その大河の流れみたいな暴力的な時間のスケールに圧倒されているわけでも、小さなアリが果てなき砂漠を彷徨い歩くみたいなどうしようもない孤独感に恐怖しているわけでもなかった。

「たとえば、三次元の立方体を二次元上に展開するとする。そのとき二次元世界から観測した表面積は何倍になる?」

「えっと……、六倍?」

 ぼくは教授の目の奥に宿る光が気になって、ほとんどうわの空で答える。

「そう六倍だ。そして四次元空間の正八胞体を三次元上に展開したときの観測上の体積は八倍。今度はそれを二次元に展開する……。実にシンプルなかけ算だ、八かける六は四八。このようにたかが四辺をつないだ四角形の集合体の展開図を作るだけでこんなに大きくなる。そして、子細に渡って観測し尽くすために、われわれがいまから展開しようとしているそれは、四次元の構造を持っているのだよ」

 三次元の球が二次元へ展開するときは、一体何倍だ? 球の中心を真っ二つにするように観測できていれば四倍。じゃあ、二次元空間にとってその球が球面と接するだけのだったら? 何倍かなんて計ることすら馬鹿馬鹿しいくらいに、膨大な数字になる。ぼくはふと、教授の宇宙へ向けた視線の意味を悟る。

「四次元球を二次元の展開図に落とし込むことは可能か? その問いの正解は『わからない』だ。ただ一つたしかなことがある。火星、いや地球の表面積すら、たった一枚の設計図を広げるためには。わかったかね? わたしは大きさのわからない紙を広げるのに最適な、際限のない天板を持つ机が欲しかったのだよ」

 この人は、初めから宇宙スペースなど見ていない。その目に映っているのは、自らの探究心と知的好奇心を思う存分心ゆくまで追求し満たし続けるための、単なる空間スペースなのだ。

「その要望をWSDAに熱く語った際に紹介されたのが《サ・イラ》だったというわけだね。腐っても大型の中継船なので、太陽光と海王星級核分裂エンジンによる尽きることのない膨大な電力と、120人が20年餓死しない無駄としか言いようのない備蓄。閑散期でデブリのごとく暇している給料泥棒二人をタダで手伝わせていいというおまけ付き。ここで実験を行うことを即決してすっ飛んできたのだよ!」

 ぼくにはもう色々と理解の範疇を超えていて苦笑いしかできなかったし、後ろのデブリ仲間の顔を見るのが怖かったので振り向きもしなかった。

「さぁ、そういうわけだ! さっそくいますぐ実験を始めようではないか! きみたちはいまから、スケッチブックのなかの小人だった人類のちっぽけな歴史が決定的に変わる瞬間を見届ける立会人なのだよ!」

 教授の演説が終わり、林遥が一歩分距離を詰めてきた。

「まずは展開図を映すためのプロジェクタを宇宙空間に配置しましょう。起動すれば、直線で結んで四角形を形作るように自動で移動するプログラムが組んであります」

 林遥は持参した荷物のなかから四本の円柱状の機械を取り出した。それぞれ二メートルくらいの長さがある。よく見ると真ん中あたりに切れ込みみたいなものがあって、そこが直角に折れてそれぞれが四隅を形成するらしい。

「できれば《サ・イラ》からはなるべく遠い位置に置きたいので、船の外でやり投げのように投げて飛ばします。ですので、船外活動に慣れているお二人のどちらかにお願いしたいのですが……」

 そのくらいならぼくでも問題なくできるだろうけど、アルバートのほうが船外活動には長けている。請け負ってくれないかな、と視線を投げかけると相棒は面倒臭さを隠そうともしないしかめ面になる。それでも組んでいた腕を解いて、頭を掻きながらもしぶしぶ動き出した。

「……チッ。まぁ、給料泥棒なのは事実だし、やってやる」

「ありがとうございます。《サ・イラ》から100メートルほど離れたら一度加速し、適切な距離になったら静止しますから、ウィリアムズ氏はある程度の角度をつけた四方向へ投げるだけで結構です」

「わかった」

 アルバートはそう短く応えながらプロジェクタを受け取ると、宙を漂う船外服を引っ掴んで船外ハッチへと向かった。協力してくれたことをむしろ意外に思いながらその背中を追っていた視線を戻すと、教授は一抱えほどの黒い直方体を壁に固定して、そこに電気ケーブルやらなんやらのたくさんの線を繋いでいた。あれが『鍵』であるスコープなんだろう。

「そういえば」

 ぼくは唐突に、心の片隅でずっと燻っていた疑問を掘り返した。

「きみたちが、とか鍵穴とか呼んでいるものって一体なんなの?」

「あぁ、まだお伝えしていませんでしたね」

 林遥はほんの少し夢見がちなうっとりとした表情をする。教授とともに乗ってきた《ピクシー》に戻ると、業務用の冷凍バッグを手にして帰ってくる。

「意外に身近なものだったんですよ」

含み笑いをしながらバッグから取り出したのは、凍結保存されたチューブだった。林遥はそれを顔の高さまで持ち上げ、空いているほうの手で中身を指差した。




「『鍵穴』はです」

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