廃墟にて
惟風
廃墟にて
恋心って、変な感情だと思う。自分が好きになったら、相手がこちらを好きかどうか関係なくのぼせ上がってしまうの。運よく向こうも私のことを好いてくれたらラッキー。それこそ奇跡。神様(いるのかな?)に感謝。
でも、“そう”じゃなかったら?
“そう”、つまり“向こうは私のことを好きじゃない”なら。どれだけアプローチしても好きにならなかったら?
まあ殺すよね。
だって恋って、ただでさえ短慮なアタシの頭を更にバカに書き換えちゃうから。殺すことしか考えらんなくなるの。アタシのために笑ってくれないんならいらない。かと言ってアタシ以外が原因で死ぬのも許せない。独占欲ってやつ。我ながら強欲!
アクション映画とか殺し屋漫画とかと違って、別に訓練とかしなくても一般的な男性を殺すのって結構簡単なんだ。
もし既に恋人関係とかになってたら痴情の縺れってやつを多少警戒するかもしれないけど、懐いてきて好き好きアピールしてくる娘がいきなり足引っ掛けてきて倒れたところを首刺してくるなんて普通思わないもんね。
そうやってサークルの先輩をシメて、家の庭に埋めた。先輩、そのへんのアイドルよりカッコよくて、子供とかお年寄りに優しくて、モテモテの人だったの。憧れだった。人生最後の恋だと思うくらいにぞっこんだったんだ。
で、恋心の不思議なトコって、また恋ができちゃうことだよね。アタシはまた命懸けって思うほどの恋をした。今度は、片想いじゃなかった。
バイト先の彼の、少し癖っ毛で垂れ目がちなとこに一目惚れしたの。一見線の細そうなスタイルなのに服の下には締まった筋肉がついてて、背も高くて、でもファッションはどこか垢抜けしないとこが母性をくすぐられてグッときちゃった。
性格も優しくて、最初は私が押せ押せだったのにいつの間にか彼が私に誠心誠意尽くしてくれて、他の女には見向きもしない一途で真面目な人で。
でも彼って真面目過ぎてちゃらんぽらんなアタシとはちょくちょく衝突することがあって、些細な口論でうっかり殺っちゃった。殺しに手慣れ過ぎるのも考えものだよね。
でもまあ殺しちゃったものはしょうがないしさ。前みたいに庭に埋めたの。狭い土地だから次埋める時はどっか別の場所にしなきゃなあって思いながら、サークルの先輩の隣にぴったりくっつけるみたいに並べて土をかけたの。
前からよく夜になるとナニカは出てきてたんだ。リビングとか廊下とかに。ボーっと黒い影みたいな感じではっきりしないんだけど、まあ明らか幽霊。心当たり全然あるし。
怖いとかは全然無かったの。むしろもどかしいっていうかイライラしてさ。だって、私に振り向いてくれなかったから殺したんだもん。殺すほど好きだった先輩なの。だから、たとえ幽霊でもまた会えたらむしろ嬉しいのに、向こうはただぼんやりユラユラしてるだけで、ホントに先輩なのかもわかんないし、恨み言言うでも祟ってくるでもないの。死んでもアタシのこと眼中に無いじゃん。何なんだよ、って。
で、例に漏れずって言うのかな、最新で殺したピも化けて出てくれたんだよね。いつの間にか夜中の寝室で私の顔を覗き込んでた。思わず飛び起きたよ。生前と変わらない、垂れた目尻が可愛かった。先輩の幽霊と違ってちゃんとピだってはっきりわかる姿で、アタシすごく嬉しかった。
なのに、彼の後ろにもう一つ影がニュッて出てきて、覆いかぶさるように彼を包んだの。
彼の耳元に影の先端(頭?)が近づいて、そしたら私のことを見つめてた彼がそっちの方を向いて、しばらくしたら抱き締めるみたいに影に腕を回して。
アタシは幽霊語なんか全然わかんないけど、これ影が彼のことを口説いてるんだなって直感でわかった。
だって、今まで散々見てきたんだもん。アタシ以外の人に愛を囁く先輩の姿を。アタシ以外の奴とイチャイチャする様子を。だから殺したんだもん。
最強に苛ついたアタシは、二人を離れさせようと腕を振り回して突進したの。でも幽霊に触れるわけもなくて、ただ一人でジタバタして壁にぶつかっただけだった。
幽霊同士の男達が乳繰り合ってる姿を見せつけられるだけ。
悔しくて、情けなくて、アタシは発作的に首を吊った。自分も幽霊になったら今度こそ二人に触れられると思ったから。
なのに、アタシが幽霊になった途端、アタシが殺した二人はすごく満足そうに見つめ合って仲良く成仏しちゃった。おててを恋人繋ぎとかして。
そこでアタシは気付いた。ああ、ハメられたんだ、って。二人は違う意味でハメてたけど。
アタシが首ったけになるくらい魅力的な二人だもん、惹かれ合うのも当然だよね。それにしたってアタシがあんまりにも報われなさすぎるじゃない。なんて惨めな最期だろう。
そんな風にここでずっと腐ってたんだけど。
ねえ、君、すごくカッコいいね。
一人でこんな廃墟に来る肝の据わり方も良いじゃん。
アタシ、今度こそ運命の恋ってやつをしちゃったかも。
廃墟にて 惟風 @ifuw
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