第39話
ヴィルトとエコルが去った闘技場でまたしても実況のアンザが叫ぶ。
「続いて第三試合! エックス選手とオルガ選手の戦いだー!」
両選手同時に入場してくる。
黒いフードを被ったうえで仮面まで付けて素顔をとことん隠したエックス。
対するは老年の男。白い聖職者の服を纏った杖をついた男、オルガ。
「さぁ試合開始です!」
オルガが飛行の聖術を使い地上から数センチ浮かび上がり、後ろに飛ぶ。それと同時に攻撃の聖術を使用。
白く輝く光弾を放つ。一発や二発ではない。十数発だ。
「ふん」
エックスはつまらぬとばかりに鼻を鳴らし、剣を抜く。
白く輝く剣は何かしらの道具でコーティングされているとわかる。元の材料はわからない。
その剣を持って自身に向かう光弾を斬り裂き防ぐ。
「白虎」
続いてオルガが更に術を行使する。
粒子が集い白く輝く虎が二体、生まれ出る。高位の聖術を使った疑似生命体だ。
知性を有さぬがある程度の自立性を持ち術者の意志通りに動き、敵を攻撃する術だ。魔法でも同じことが出来る。
魔王の魔物製造能力はこの術の最高位版と言ってもいい。
「おおっとオルガ選手虎を出した! これで数の上ではエックス選手が不利だ!」
「虎か」
二体の虎が地を駆けエックスに襲い掛かる。
エックスもまた虎と同じように走り出し、片方の虎に急接近。剣を振るい正面から一体斬り裂く。
続いて二体目に対し空を斬る様に剣を振るい、三日月上の白い飛ぶ斬撃を放ち、両断する。
「天剣!」
オルガが術名を叫ぶ。
生み出されるのは人ほどの大きさがある剣だ。数は百程。
百の剣が達人の剣のように動きエックスに襲い掛かる。
「あっーと! 残念ながら虎が一瞬にしてやれてしまった! だが負けずと次の術を発動だ!」
「ちっ!」
流石にこれにはエックスも舌打ちをし、剣をもって迎撃する。
だが上下左右全方位から襲い掛かる剣全てに対処する事は人間にはまず不可能だ。
しかしながらエックスも大会出場の上位者。剣を持って迎撃し、一本ずつ破壊する。
だが次第に肩に左足、腹と斬られてしまう。
「
エックスは術名を叫び、剣に光を纏わせる。
瞬く間に剣が光り輝く巨大な──余りにも巨大すぎる剣に変貌する。
全長は四十メートル。剣の腹は大の男が三人は乗れそうな程に大きな剣だ。
その剣をエックスは振るう。何かを仰ぐかのように振るう事で飛んでいる全ての天剣を破壊する。
当然射線上にオルガもアンザも居る。
アンザは獣人らしく地面を掘って潜り、オルガはバリアの術を張って防ぐ。
術が終わった後、残ったのは二人の選手だけだ。
遅れてアンザが顔をひょっこりと出し、顔だけ出した状態で器用に叫ぶ。
「おおっとエックス選手大規模な術を行使! 天剣を全て砕いてしまったぁー!」
アンザが叫び終わると同時にエックスが突撃。だがオルガが空中から白い鎖を飛ばす。
拘束術だ。しかも高位の術である。当たりさえすれば聖力や魔力の行使を封じる事が出来る。
エックスは触れることなく回避。走る事で鎖を避けながらオルガに突撃する。
脅威的な速度での接近だ。脅威に感じたオルガはバリアの術を行使する。
バリアの鼻先までエックスが接近。剣を振るいバリア事中のオルガを斬った。
「がっ……」
オルガは苦悶の声を上げ、大地に伏した。
「決着ぅぅぅぅ! エックス選手バリア事切り裂きオルガ選手を両断! 勝者、エックス選手だぁ!」
ふん、とエックスは鼻を鳴らすと剣を仕舞い、闘技場を後にした。
■
「ふぅ……」
控室で一人、女がため息をついた。
歳は十七かそこらだろう。金髪碧眼の整った容姿をしている。
左目の下に傷があるがそれがチャームポイントにもなっている。
ウルフカットの髪型。身長は百七十センチ程度と女性としては高めだろう。
「気合を入れねば……」
女、ローニャは試合を前に緊張していた。
自分は何処まで勝ち進めるのか、戦えるのか。そう考え始めると緊張してたまらない。
「大丈夫。僕は強い。僕は強い。僕は強い……」
『ローニャ・アルテリシア選手! カイ選手! 入場をよろしくお願いします!!!』
控室に声が響き渡る。
「よし、頑張るぞ!」
ローニャは椅子から立ち上がり、武具を手に闘技場の中へと進む。
暗い通路を通っていけば会場内の歓声が聞こえてくる。
先日は人が多くてあまり感じられなかったが多数の視線を感じる。
向こうから歩いてくる男をローニャは見つめる。
身長は百七十五センチ程度。平均的な身長の男だ。
靡く黒い髪に赤い瞳。黄金色の山羊の角に蝙蝠の翼。服はタキシードを着ている。
腰にはレイピアを差している。実用性よりも鑑賞性の方が強いレイピアだ。
(つよい)
単純な魔力量、エネルギー量で言えば自分より上だとローニャは判断する。
流石にヴィルトやアンタレスよりは劣るが、それでも多い方だ。
観客席から「カイ様~!」といった女性の黄色い声援が聞こえてくる。
「……随分と人気者なのですね」
ローニャは思わずそう呟いていしまう。
「そうだね。何時だって実力ある者は噂になる物さ」
ふっ、とカイは髪をかき上げ恰好を付ける。
「では……試合開始!」
カイとローニャが武器を抜いて構える。
両者構えたまま動かないまま一分が経過する。
「動かないのかい? なら……こちらから行くよ!」
カイはレイピアを構え突進。優雅に進む。
カイの刺突に対しローニャは盾で防御。突きを防ぐ。
(おっも!)
ローニャはカイの突きの重さに絶句する。
只の一撃の威力が高い。見た目からは想像できない筋力をしている。
「ほらほらほらほら!」
カイは続けて突きを放ち続ける。突きのラッシュだ。
「カイ選手怒涛の連撃だぁ! ローニャ選手盾で防ぐことしか出来ないー!」
実況の言う通りローニャはどうにか盾で防ぐことしか出来ていない。
(一旦距離を!)
ローニャはそう考え足に聖力を籠め後ろにジャンプ。距離を取ろうとする。
だがすかさずカイも前にジャンプ。距離を詰める。
カイのレイピアの突きがローニャの顔面に当たりかけた瞬間。ローニャは飛行の聖術を使い体を無理に動かす。
イナバウアーのように体を曲げ、回避に成功する。
そのまま横に飛行。距離を取り、体勢を直す。
「俺の突きをここまで避けるとは……なかなかやるじゃない」
ふっ、とまたもカイは恰好を付ける。
「……決勝に行くと約束したので。貴方程度に負けてられないんですよ」
ローニャは挑発の為にわざと強い言葉を使う。
「まだ強がるのかい? 魔力量では俺のが上だ。戦わずともわかるだろう?」
「保持エネルギー量で勝負が決まる訳ではないでしょう? 勝負はまだまだこれからですよ」
ローニャは剣を構える。
「今度はこちらから行きますよ!」
ローニャは剣を構え突進。カイに急接近する。
剣を正面から振り落とさんとするが、カイはレイピアを使い反らす。
(レイピアで反らす? どんな強度を……)
レイピアは突きに特化した武器だ。横の衝撃には弱い。
それで反らすなんて芸当が出来るという事は、余程の素材で出来ているか、魔力による強化が凄まじいか、両方かだ。
ローニャは続けて連撃を放つ。一撃の威力は弱め、手数に特化する。
「ローニャ選手転じて連撃だ! カイ選手はレイピアで反らしていくぅ!」
ローニャは剣を振るい、攻撃を続けていく。
右から、左から、上から。
だが全てレイピアで反らされてしまう。
「せやぁぁぁ!」
ついにローニャは聖力を込め、大技を使う。
詠唱こそしないが
流石にこれは回避しないとまずいと思ったのかカイは後ろにジャンプして避けようとするが距離が足らず受けてしまう。
ローニャは後ろに飛び距離を取る。
「ぐっ……強いね。君」
光の中から苦痛に塗れた顔をしたカイが出てくる。
非常につらそうだ。
「行きますよ!」
それを好機と捉えたローニャは攻撃に転ずる。
「せやぁぁぁ!」
雄たけびと共に剣を振るう。
カイも攻撃を反らすが、全てを反らせる訳ではなくなっていた。
カイの体に小さな傷が次々と刻まれていく。
「ちっ」
カイは距離を取ろうとバックジャンプするも、その動きを読んでいたローニャも前に出て攻撃を続ける。
(捌ききれ──)
「せやぁ!」
ローニャは雄たけびと共に剣を振り上げ、カイの胸に一文字の傷をつける。
ローニャは数歩後ろに歩き、距離を取る。
カイは片膝をついてしまう。
「……まだ続けますか?」
「……当然。続けるとも」
カイは胸の傷を再生しながら立ち上がる。
(再生能力……厄介ですね)
実戦ならば再生持ち相手ならば心臓か頭部を狙って破壊すればいいが、こういう場だと厄介にも程がある。
多少傷を与えたところで再生されるため、大技を使わないといけなくなる。
だが出力を誤れば相手を殺してしまう。こういった場では厄介である。
「さぁ……今度はこちらから行くぞ!」
カイはレイピアを構え突進。
レイピアの突きをローニャは盾で防ぐと同時に聖力を解放。周囲一帯を吹き飛ばす。
そして剣を振るい、カイの右腕を斬り落とした。
更にタックルをかまし、カイを吹き飛ばし地面に転がさせる。
聖力の光が消えたのち、ローニャは剣をカイの首元に向ける。
「まだ続けますか?」
先程と同じ言葉を繰り返す。
「……いや。俺の負けだ」
諦めた顔と声で、カイは負けを認めた。
「決着! 勝者、ローニャ・アルテリシア選手!」
アンザが大声で叫んだ。
「立てますか?」
ローニャはカイに手を差し伸べる。
カイは左手でローニャの手を掴み、立ち上がる。それと同時に再生能力を活性化させ右腕を新しく生やす。
「……強いな。君。ああ、こういった感情は何年ぶりか──俺は君に惚れてしまったようだ」
「は?」
カイの唐突な言葉にローニャはぽかんと口を開けてしまった。
「俺は君が好きだ。ローニャ・アルテリシア。俺と付き合って──いや。結婚を前提に付き合って欲しい」
「……はぃぃ?! 無理です無理です! 初対面の相手と付き合うとか無いでしょう普通!」
「だが君とは剣を交わした間柄だ。知らない仲ではないだろう?」
「いや無理です僕こう見えて貴族なんでお断りします!」
「そうか……ならば俺も貴族になって君を迎えに行くとしよう。待っていてくれ」
「そのままどっか行っていてください」
カイは実にいい笑顔で闘技場を去るのだった。
「……なんか大変そうですね」
アンザが同情する様にそう呟いた。
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