002 ミナトのスキル



「わだじが……わだじが悪いんでずうぅ~!」


 うーむ、また見事に泣きじゃくっておられますなぁ。俺より年下だと言われたら、普通に納得してしまいそうなほどだ。


「わだじが書類に押すハンコを間違えだばがりにぃ~!」

「そうだな。不採用のはずが採用になっていて、その書類が通っちまったわけだ。ギルマスである俺をスルーしてな」

「だ、だってだって! 不採用ならギルマスを通す必要ないじゃないですかぁ!」

「それは前のギルマスの時のルールだ。研修で習ったはずだぞ!」

「……そうでしたっけ?」

「あー、もういい。ひとまず説教は後回しだ」


 なるほどね。今のやり取りで、俺も大体読めたわ。

 要するにこのドジっ子受付嬢のおかげで、現在とてもややこしい状況になっちまっているってわけだ。俺は仕事のことなんざよく分からんが、とんでもないポカミスをしたということだけは分かる。


「ったく……おかしいとは思ってたんだよなぁ」


 滝谷さんが頭をガシガシと掻き毟った。


「中学を出たばかりの小僧なんかに、ダンジョン管理の仕事を採用するなんてよ」


 そうなのだ。それこそが俺の申し込んだ求人内容だった。

 静岡県富士宮市のとあるダンジョンを管理する――それが何故か県を跨いで、俺が住んでいた町のギルドに来ていたのだった。


「お前さんもお前さんだ。よくこんな疑問だらけの求人に応募してきたもんだな」


 すると滝谷さんが、今度は俺に話の矛先を向けてきた。


「普通は同じ神奈川県内で探すもんだろ?」

「住み込みで募集してたのが、マジでそれしかなかったんですよ。選択の余地なんてありませんでした」

「藁にも縋る、ってか……あながち分からんでもないがなぁ……」


 俺も別に全てを理解してもらおうとは、これっぽっちも思っちゃいない。ただ事実を話しているだけだからな。

 本当に選択の余地なんてなかった。

 全てを失ったも同然の状態で、『ええいままよ!』とリアルに思いながら新幹線に飛び乗ったあの日のことは、恐らく一生忘れないだろう。

 あの日というか、今朝のことなんだけどな。

 まぁそれはどうでもいいか。


「でも俺、ダンジョンの管理だったら、普通にできると思いますよ?」


 滝谷さんに改めて進言する。俺も今後の生活がかかっているんだ。お帰りください的な流れになるのだけは、なんとしてでも避けたい。


「俺の能力的に、むしろそっち向きかなと」

「それだよ!」


 滝谷さんがため息交じりに言った。そして俺が提出した履歴書に、思いっきり手のひらを叩きつける。


「なんだよ、このお前さんのスキル……『ダンジョンテイマー』とかいうのは!!」


 いや、なんだよも何も、言葉どおりのスキルなんですが。

 俺からすれば、これ以上にないくらい分かりやすい名前のスキルだ。しかし滝谷さんはどうもそうではないらしい。

 とりあえず質問されていることは確かなので、ここはちゃんと答えておこう。


「ダンジョンをテイムする能力ですね」

「サラッと言ってくれたな」

「事実なんで」


 むしろこんなところで嘘をついたところで、すぐにバレるだろう。十六歳になりたてのガキでさえ、それくらいのことは分かるってもんだ。

 それを見越しているらしい滝谷さんも、改めて深いため息をついてくる。


「……たまにいるんだよ。少しでも良く見られてぇからって、履歴にふざけたようなスキルを書くヤツが」

「らしいですね。そんなことをしても、ギルドに出した瞬間はじかれるって聞きましたけど」

「あぁ、そのとおりだ。これもきっとその一種だろうと思ったんだが……」

「書類は普通にはじかれませんでしたよね?」

「むしろスルッと通ってきたよ。逆に目を疑ったわ」


 滝谷さんが改めて、俺が提出した応募書類を凝視する。


「ギルマスとして改めてもう一度確認させてもらうが……このダンジョンテイマーとかいうのは、ダンジョンをテイムするってことでいいんだよな?」

「はい、それで合ってます」

「ダンジョンの魔物をテイムする……とかじゃなくてか?」

「そっちじゃないです。文字どおり、ダンジョンそのものをテイムする感じですね」

「……う~む」


 なんか滝谷さんが腕を組み、悩ましげな声を出す。数秒ほどテーブルを見つめていたかと思いきや、急にその顔を上げてきた。


「ちなみに今、この部屋にウソ発見器的なものを仕掛けてるんだわ」

「あ、そうだったんですね」

「これまで見事に反応が出てねぇから、お前さんが本当のことしか喋っていないことも分かっちまう。だからこそ……なんだよなぁ」


 そして再び悩ましそうにする。滝谷さんが何を求めているのか、ここまで来れば俺でも分かる。


「もしよければ、これから試してみましょうか?」


 だから話を進める意味も込めて、俺はそう提案したのだった。


「探索者が見向きもしない小さなダンジョンであれば、すぐにテイムできますけど」

「……それがいいかもな。百聞は一見に如かず、とも言うし。分かった!」


 パンッ、と両膝を叩きながら、滝谷さんがニヤッと笑ってくる。


「ミナト! お前にはこれから試験を受けてもらう。こっちで指定したダンジョンをテイムしてみせろ。それを確認次第、この話を進めることとする」

「はい、分かりました!」


 俺も気合いを込めて返事をする。何としてでもこれをクリアしなければ、今日寝る場所すらなくなってしまう。


 よーし! いっちょ頑張っていきまっしょぉーっ!!



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