『双星リベルテ ──この支配された学園で、俺たちは自由を叫び、運命を壊す』
ミヮコ
第1話「ヒビ割れた空と、まだ知らない戦場」
世界は、まだ知らないまま進んでいる。
自由と選択肢があると思い込んだまま。
だけど──この空には、もうヒビが入っている。
四月の朝。
天鏡学館(てんきょうがくかん)・第三区校舎。
空は澄んでいるのに、どこかざわついた気配が漂っていた。
「──おい、霞(かすみ)。起きてるか?」
「起きてる。っていうか、さっきからうるさい」
制服の襟を直しながら立ち上がる兄・暁 蓮司(あかつき れんじ)と、
書類を睨みつけたまま椅子から立ち上がる妹・暁 霞(あかつき かすみ)。
「──おい、霞(かすみ)。起きてるか?」
「起きてる。っていうか、さっきからうるさい」
制服の襟を直しながら立ち上がる兄・暁 蓮司(あかつき れんじ)と、
書類を睨みつけたまま椅子から立ち上がる妹・暁 霞(あかつき かすみ)。
双子。けれど、表と裏のように違う二人。
「今日の模擬戦、また上級生と組まされるらしいぜ。
俺たち、注目株らしいぞ」
「……"監視対象"って意味だと思うけど」
軽口に見せて、本当は分かっている。
ここは、ただの学校じゃない。
天鏡学館──幼稚園から大学院まで貫く国家直属の特別育成施設。
表向きは「次代のリーダーを育てる場」。
けれど実際は、コード──人が覚醒することで発現する異界の力を持つ者を集め、管理し、選別するための監視施設だった。
その力は、誰にでもあるものではない。
「核(コア)」と呼ばれる何かに触れてしまった者だけが、目覚めてしまう。
蓮司と霞は、それを知る数少ない存在だった。
「じゃ、行こうか。"才能の発表会"へ」
「さっさと終わらせて、帰って寝たい」
二人は静かに笑い合い、訓練フィールドへと向かった。
訓練棟には、すでにざわついた空気が満ちていた。
「次、暁 蓮司・暁 霞。第3フィールドへ」
アナウンスの声に、教官たちが一斉にタブレットを起動させる。
蓮司はいつものように拳を握り、軽く腕を回した。
霞は静かに端末を確認。戦術分析を頭に叩き込む。
二人の前に立ちはだかるのは、火属性の上級生と、金属操作系のコンビ。
「コード適性、上位2%。さて、どこまでやれるか見せてもらおうか」
「いけるな、霞」
「いつも通りに。無茶は最小限で」
「最小限でぶちかます。任せろ」
霞は溜息をつく。
蓮司は、笑う。
開始の合図。
次の瞬間、蓮司の体が爆発的に加速した。
「圧縮質量、限界近くまで集中──」
拳に宿る重力の塊が空気を砕き、火球を叩き潰す。
霞は背後から回り込む金属杭を見切って、重力の流れを変える。
「三歩右。回避して、回し蹴り」
蓮司は即応し、飛び跳ねるように金属使いの懐に踏み込み──
バキィッ!!
沈む。
相手の防御ごと地面に叩きつけるような一撃。
残った火属性の生徒も、霞の足元に重力の渦が生まれ、動きを封じられたまま蓮司の拳に沈む。
たった数十秒。模擬戦、終了。
「──勝者、暁 蓮司・暁 霞ペア」
教官たちの間に、微妙な空気が走る。
驚きと評価、そして──警戒。
蓮司と霞は、お互いに目を合わせた。
笑っているけど、どこかでわかっている。
これは、見せすぎた。
その日、夕暮れ。
霞はひとり、訓練棟の裏にある古い扉の前に立っていた。
ふと、視界の端がきらりと歪む。
──そこに「ヒビ」があった。
誰にも見えない空間の綻び。
現実と、異界の境界。
(やっぱり、ここにも……)
霞は視線を外し、歩き出す。
と、その背後から声がかかる。
「なーんか、ピリついてるねー?蓮司先輩、霞先輩」
七瀬 路(ななせ みちる)が手を振りながら駆けてくる。
「あんな模擬戦、伝説ですよ! わたし、10回見返しました!」
「見過ぎだろ、それ」
蓮司が苦笑し、霞もわずかに口元を緩めた。
その横で、神城 優真(かみしろ ゆうま)がくわえた棒アイスを口に放り込みながら言う。
「……気をつけた方がいい。上が、動いてる」
「どういう意味?」
「明日、"特別な来訪者"が来るってさ。
……しかも、クリフォトの使いだって噂だ」
一瞬、沈黙が落ちる。
霞の視線が、ゆっくりと西の空を見上げた。
(空が……割れていく気がする)
それはまだ、誰にも言えない。
けれど、確かに"始まっていた"。
──第1話・完。
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