第十八話「勘違いでも、本気だった」
「佐倉くん、放課後ちょっといい?」
教室を出ようとした瞬間、背中から呼び止められた。
朝比奈詩音(中身)は、一瞬で心臓がバクッと跳ねた。
声の主は、花咲 瑠璃(はなさき るり)。
クラスでも明るくて、男子ともよく話すタイプ。
陸の隣の席で、よく笑っている子。
(な、なに!? なんかやらかした!?)
緊張しながら振り向くと、瑠璃は少しだけ頬を赤くしながら、笑っていた。
「ちょっと、話したいことがあるの。屋上、来てくれる?」
(あれ、これって……もしかして……)
心の中に、イヤな予感が走った。
屋上の風が涼しくて、しばらく無言のまま並んで立った。
瑠璃が口を開いたのは、数分後だった。
「最近の佐倉くん、ちょっと優しくなったよね」
「……そ、そうかな?」
「うん。言葉もやわらかくなったし、気配りも増えたし……。
なんか、人としてすごく素敵だなって思うようになった」
(う、うわあああ……これ、完全に告白モードなんじゃ……!?)
「ずっと気づかないふりしてたんだけどね。
たぶん、私……佐倉くんのこと、前よりずっと、ちゃんと見てるんだと思う」
頭が真っ白になった。
(ダメだ、中身、女なんだよ!!!)
でも、口ではこうしか言えなかった。
「……ありがとう。でも……俺、そんなに立派な人間じゃないよ」
「そんなこと、わかってる。完璧な人なんていないし。
でも、変わった今の佐倉くんが……私は、すごく好き」
その一言で、確信した。
これは、本当の陸が好かれてるわけじゃない。
陸くんの体で、陸くんとして生きている私に向けられた感情だ。
(どうすればいい……?)
優しく否定すればするほど、彼女の目がまっすぐになっていく気がして、怖かった。
瑠璃は最後に小さく笑った。
「勘違いだったとしても、私は本気だったから。……それだけ」
そう言って、屋上のドアへ向かっていく。
止めようとしたけど、何も言えなかった。
その夜。
スマホを開いて、陸(中身)にメッセージを送ろうとして、止めた。
(……言うべきか、言わないべきか)
もし伝えたら、陸くんはどう思うんだろう。
好きだと言われたことじゃなくて、
その好かれた存在が、自分じゃないってことに。
しばらく画面を見つめたあと、
私はメッセージ欄を閉じた。
(この気持ちは、私が勝手に背負うしかない)
風が通り抜けた気がした。
それはどこか、寂しくて、少しだけ切なかった。
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