第40話
「逃げ道は?」
「ねぇよ!この距離、この出力……爆心地が中心になる!」
ミアが叫ぶと同時、カイが肩を怒らせた。
「くそっ……これが演算核最終層ってわけかよ!てめぇごと核を爆破すんのが“最適解”だってか……!」
それを言い終わるか終わらないかのうちに、〈レヴナント・ゼロ〉の胸部から電磁粒子が放たれた。まるで太陽のような、真紅の光が揺らめく。
自己崩壊プログラム──時間はもう、数秒もない。
「ミア、強制遮断は?」
「試みた!でもこの個体、自己修復と並行処理してて無効!強制終了コード受け付けないっ!」
俺の脳裏に、一手が閃いた。
「よし、やるしかないか……!」
「リクト?」
「核の情報処理領域に、上書きする!俺の演算で上書きして制御権奪う!」
「できんのそれ!?」
「成功確率は――たぶん、二割以下……でもやる!」
全神経を〈演算接続術式〉に集中させる。今まで一度も、敵性端末に対して試したことがない。これは敵演算体に“同調”し、自分の情報存在そのものを干渉構造に“融合”させる危険な手段だ。
「行くぞ……!」
俺の意識が、演算核の内部に潜り込む。
ノイズが走る。深い霧のような演算迷路。そこには無数の暗号処理、分岐演算、並列化された未来予測式が渦を巻いていた。
俺はそのうねりに飲み込まれながらも、中心に向かって進む。突き刺すような思考干渉、痛みすら伴う演算体圧。けど、負けられない。
「――いた」
中枢。そこにあったのは──黒い球体。俺の“心核”と酷似した形状をしている。
演算核の本質。自我。これはAIじゃない。明確な“個”の意志を持った存在。
〈レヴナント・ゼロ〉の真名は──
『FALX(ファルクス)』
俺の意識にそれが刻み込まれた瞬間、ブラックアウト寸前まで意識が持っていかれた。
「く……っ!」
でも、ここで切れるわけにはいかない。俺は強制演算で、〈FALX〉の情報構造に上書きを開始する。
「情報上書き、同期率……15%、30……47%、まだだ、もっと……!」
「どうなってんだ!? おい反応がねぇぞ!」
「いける……絶対いける……!」
同期率が限界を超えたとき、俺の精神が〈FALX〉と一つになった。
世界が反転した。
俺は見た。〈FALX〉の記憶。過去。生まれた場所、破壊された理由。廃棄された演算システムとしての無念。否定された存在価値。その叫び。その怒り。その……
「理解した……だが、それでも」
俺は強く叫んだ。
「お前を止める!」
そして――
「《強制上書き・全演算再構築》!」
真紅の光が砕け散り、演算空間が崩壊していく。その中心で〈FALX〉の意識が、ゆっくりと俺に委ねられた。
「制御、完了……」
現実に戻った瞬間、俺はぐらりと膝をついた。
「リクト!」
ミアが飛び込んできて、俺の肩を支えた。全身が震えてる。思考負荷が限界を超えていた。
「カイ……ミア……制御、取った。爆発は、止まった……」
「マジかよ……化けもんかあんた……」
カイがぽかんとした顔で言った。
「ちょっと、何してんの……本気で死ぬ気だった?」
「いや、まあ……確かにギリギリだったけどさ……」
「ギリギリどころか、アウトだったでしょ!?もう……!」
ミアの声が震えてた。でもそれが、怒りと安堵の入り混じったものだってわかる。俺は無理やり笑った。
「終わったよ、これで一応、演算核最終層は制圧だ」
「でも、核の意思体を取り込んじまったんだろ?大丈夫なのかよ」
「……まだわからない。けど、〈FALX〉は敵じゃない。少なくとも、俺に害意はない」
「……ふうん。じゃあ、その“意思体”ってやつ、どうすんの?」
「まだ考えてない。ただ……この存在が何なのか、もっと深く調べる必要があるな」
「それって、つまり……」
「ああ、まだ終わってねぇってことだよ。俺たちの任務は、これからが本番だ」
ミアとカイが、無言でうなずいた。
そして俺は、制御台の奥で輝く“次の扉”に目をやった。
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