第17話
目を光らせながら、俺は膝の上でライフルを指で撫でた。
数時間、気配に神経を尖らせて待つ。
そして──微かな気配を捉えた。
「起きろ、ミア」
「ん……?」
ミアがぼんやり目を開けた。
「敵だ」
その一言で、ミアの顔が一瞬で引き締まった。
「わかった……!」
素早くナイフを取り出し、構えを取る。
成長してやがるな、コイツ。
「──来るぞ」
足音。少なくとも四、いや五人。
建物の下から登ってくる。
「回収部隊か……」
一瞬で判断する。
「ミア、罠の位置覚えてるな」
「うん!」
「なら誘導しろ。無理すんな。動きながら撹乱しろ」
「わかった!」
ミアが小さく息を吐き、影に紛れた。
「よし……」
俺も反対側へ移動し、待ち構える。
やがて、数人の人影が現れた。
「適合者リクト・アークス、確認」
「生け捕りを優先しろ!」
「ミスったら殺せ!」
騒がしい声が交錯する。
「うるせぇよ」
呟きながら引き金に指をかけた。
バン!
狙撃一発。先頭の一人を頭ごと吹き飛ばす。
「敵襲だ!」
「構えろ!」
連中が一斉に武器を構えた瞬間──ミアが飛び出した。
「こっちだよ!」
叫びながら、わざと走る。
「追え!」
連中が釣られて動く。
次の瞬間、ミアが仕掛けた罠が炸裂した。
ガキィン!
鉄パイプが跳ね上がり、一人の胸を貫いた。
「ぐぼぁっ!」
吹き飛ばされた敵が壁に叩きつけられる。
「ナイスだ、ミア!」
俺はすかさず二発目を撃つ。
バン、バン!
二人目、三人目も倒れる。
「くそっ、なんだこいつら!」
残った一人が叫びながら乱射してきた。
「甘ぇ!」
身を翻し、死角からナイフで背後に回り込む。
「うおっ──」
抵抗する間もなく喉元を裂いた。
「っ──終わったか」
一拍置いて、周囲を確認する。
敵影なし。
「リクト!」
ミアが駆け寄ってきた。
「怪我ないか?」
「うん、大丈夫!」
少し血で汚れてたが、傷はない。
「上出来だ」
「えへへ……!」
ミアが嬉しそうに笑う。
「だが油断すんな。今のは偵察隊だ」
「じゃあ……」
「すぐに本隊が来る」
「っ!」
ミアが顔を強張らせた。
「今すぐここを離れる」
「うん!」
すぐに荷物をまとめ、通路を走る。
「リクト、どこに行くの?」
「南だ」
「南……?」
「確か、この先に地下道があったはずだ。そこを抜ければ一気に街外れに出られる」
「わかった!」
走る足音が瓦礫に響く。
だが──
「──クソッ!」
前方から、また気配。
《気配探知》を使う。
数、八。しかも装備が重い。
「リクト……」
「正面突破は無理だ。迂回する!」
ミアの手を引き、建物の影に飛び込む。
敵もこちらを見失ったのか、警戒しながら進んでくる。
「奴ら、待ち伏せするつもりだ」
「どうするの?」
「逆に、裏をかく」
「えっ?」
「こっちだ!」
小声で指示を飛ばし、裏手に回る。
「このまま後ろを取る!」
ミアが必死についてくる。
「絶対に音を立てるな」
「わかった!」
スキル《気配殺し》を使い、存在感を消す。
敵の背中が見えた。
「今だ!」
俺はライフルを振り上げ、一撃で一人の頭を砕いた。
「なっ──!」
敵が慌てて振り返る。
その隙にミアが動いた。
「やあっ!」
ナイフを振りかぶり、敵の脚を切り裂く。
「ぐあああっ!」
膝をついた敵を、俺がすかさず仕留める。
「二人!」
まだ六人いる。
「ミア、カバーしろ!」
「うん!」
ミアが敵の注意を引きながら逃げ回る。
その隙に俺が一人ずつ仕留めていく。
「あと三人!」
「負けるな!」
「わかってる!」
叫びながら、ミアも必死に動いた。
最後の敵をナイフで沈めたとき、俺たちは血まみれだった。
「──っは、っはぁ……」
肩で息をしながら、ミアを見た。
「やったな」
「うん……!」
ミアの目に、確かな光が宿っていた。
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