第4話

モンスターの背中へ跳びかかり、肩口にナイフを突き立てる。


「っ──効かねぇ!」


手応えがなさすぎる。鱗が硬すぎて、刃が弾かれてやがる。


「うおおおっ!!」


叫びながら、ナイフを連続して叩き込む。刃先が跳ね返り、手に衝撃が走った。


「クソがっ……!」


しがみついたまま、モンスターの背をよじ登る。巨体が暴れ回り、ビルの壁を破壊しながら走り出した。


「こいつ……!」


振り落とされまいと必死で食らいつく。腕力だけじゃ持たない。脚も胴も、全身を使って絡みつく。


「なんでこんな化け物が……!」


唸る俺の声を聞いたのか、下でフードの男が笑った。


「無駄だよ!」


「うるせぇ!」


叫び返し、さらに高く登る。頭だ。こいつの頭なら──!


モンスターが巨体を振り回し、鉄骨の柱を叩き壊した。破片が降り注ぐ中、必死にバランスを取る。


「──あと少し!」


頭頂部に到達した瞬間、全体重を込めてナイフを振り下ろす。


「ぶっ刺されぇぇぇッ!!」


ガキィン!!


信じられない音が鳴った。ナイフは、また弾かれた。


「はあっ!?」


あり得ねぇ。どんだけ硬いんだこいつ!


「……なら!」


ナイフを捨て、拳を握る。剥き出しの拳で、モンスターの頭をぶん殴った。


ドゴッ!!


骨がきしむ感覚。だが、確かに手応えがあった。


「効いてる……!」


もう一発。さらに一発。


拳を振るたび、モンスターの体が震える。


「ほらよっ!」


モンスターが呻いた。ぐらりとバランスを崩す。


今だ。


渾身の力で、モンスターの眼窩を目指して拳を叩き込んだ。


ぐしゃり。


鈍い音とともに、目が潰れた。


「オラァァァッ!!」


さらに追撃。もう片方の目も叩き潰す。


視界を奪われたモンスターが暴れ回る。俺は一気に首筋へ移動した。


「ここなら──!」


首の付け根。わずかに鱗が薄くなっている。


拳を固め、全力で叩き込む。


ゴキリ、と骨が砕ける音がした。


モンスターが仰向けに倒れ込んだ。


「うおおっ!!」


俺も飛び退き、間一髪で押し潰されるのを避けた。


「っはぁ、っはぁ……!」


荒い呼吸を整える。倒れたモンスターは、ピクリとも動かない。


勝った──!


「……嘘だろ」


下からフードの男が呟いた。


「こいつ……一人で、あれを……!」


「で?」


俺はゆっくり歩きながら、フードに近づいた。


「お前、次はどうする?」


フードは一瞬、怯えた顔を見せた。


だが、すぐにニヤリと笑う。


「悪いが、俺もタダじゃ転ばねえ」


「まだ何か隠してんのか」


「──こいつを見ろよ!」


フードが取り出したのは、赤黒く光る短剣だった。


「そいつ……!」


直感が叫んだ。あれは、普通の武器じゃない。


「適合者用の、抹殺兵器だ!」


叫ぶと同時に、フードが短剣を突き立ててきた。


「甘ぇんだよ!」


とっさに横へ飛ぶ。短剣が地面を貫く。


バチバチと火花が散った。


「……やっぱり、ヤベェなアレ」


息を呑む。あんなもん、まともに食らったらただじゃすまない。


「これで仕留める!」


フードが再び飛びかかってきた。


「させるかよ!」


俺は拳を握り直し、真正面から迎え撃った。

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