融合魔術士は異世界の常識をぶっ壊す
賀張
プロローグ
「…お願…い………やめて……お願い!やめてぇッーーー!」
ララの目の前でゴーザの首が弧を描くように飛んだ。鮮血を撒き散らせながら宙を舞った首は、ララの足元に無造作に転がり落ちる。ララの絶叫が冷たい迷宮の壁に反響し、空しく消えていく。ゴーザの手には、最後の砦として、仲間を護ろうと必死に突き出したボロボロの大盾が握られていた。盾は閃光でも受けたかのような穴を数ヶ所開けながらも、主の意志を尊重するかのように、最後まで盾としての護る、という役割を全うしていた。しかし残念ながら、もっとも護りたかった主を護ることは叶わなかった。
ゴーザの横で息を引き取っているユリウスは、全身、鋭い刃に何度も切り刻まれたかのように、痛ましいほどに裂かれてた。自分で施した治癒魔術の痕跡があちこちに見られたが、ユリウスは自身の治癒を最小限に、残りの魔力を仲間の治癒と支援に割いていた。普段の言動からは想像しづらいかもしれないが、最も思慮深く、最も仲間のことを案じていたのがユリウスだった。
リーラの姿は既に無い。跡形もなく消失している。残っているのは、リーラが愛用していた木製の杖とその杖を握っている右手のみ。その杖はかなりの年季が入っているが、母から受け継がれた杖を替えることなく使い続けた。その杖を見るだけで、リーラの優しい笑顔を思い出す。今その杖から伝わるのは、悔恨のみ。
絶望に暮れ、大剣を握る力すら失ったララが、その場に腰を落とす。立ち上がる気力も、叫ぶ声も、全ては霧散した。彼女の視線の先にあるのは、迫りくる殺意の刃。それを見据えながらも、避けようとすらしない。パーティーの元気印で、常に明るく皆を引っ張っていた太陽のような人。俺を救い上げ、可能性を見出だしてくれた大切な人。常に俺を心配し、性根が曲がらないように見張ってくれていた。自分では、「私は姉みたいなものよ!」と言っていたが、俺はそんなララを姉としては見れなかった。特別な感情。ただ、この感情は夢を叶えるその時まで、決して明かさないと誓っていた。いつか必ず夢を叶えるその時まで。だが、現実は酷く残酷であり、ララの首に刃が迫る。
「あ”ァァ!……あ”ァァ!……あ”ァ!……ッ!!」
言葉にならない声で叫ぶ俺の前を、何かが横切るのが見えた。その直後、ララに迫った刃は別の者が間に入ることによって、身代わりとなった。その者は、胸から背中にかけて剣を生やしながら、俺の方を向く。
「…………あ”ァ…………!?」
「すま…ねぇ…セ……ナ」
悔しさを滲ませた表情のまま、目の光を失っていった。その表情には、夢を叶えられなかったこと、自分の力が及ばなかったこと、大切な仲間、そして親友を護れなかったこと、様々な想いが込められていた。
「あ″あ″ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
俺と同じ夢を持ち、夢を叶えるために競いあったライバルであり、親友でもあるリオンが、命の灯火を消した。リオンがいたからここまで強くなれた。リオンがいたから夢を笑われても我慢できた。リオンがいたから、冒険者になれた。だが、感謝を伝えたくても、リオンの魂はもうそこに無い。いま何が起きているのか、俺には分からなかった。何でこんな理不尽が起きているのか、皆目検討もつかない。
(なぜだ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?)
自問自答して答えが出たところで皆は戻ってこない。手を伸ばしたくても腕がない。走って行きたくても脚がない。声を出したくても、喉が裂けている。信頼のおける従魔は既に殺された。俺に出来るのはただ、地に這いつくばり、絶望を見ることしかできない。その目にララの顔が映る。
「セナ…セナ………助けッ」
ザシュッ……
ララの首が飛ぶ。俺の魂が絶望に染まり、俺の理性を繋ぎ止めていた感情がプツッと切れる音がした。
「お前も、もう死ね」
自分の首に食い込む刃の感触を感じた直後、視界が宙を舞う。抗うことができない「死」を、俺は自然と受け入れてしまっていた。もう全てが手遅れなのだから、仕方がない。そんなことを思いながら、意識が遠ざかっていった。
------
夕焼け色に染まった大空と、空を映す巨大な鏡のような水面がどこまでも広がる不思議な空間。そこに、この世の理から外れた美しさを誇る女性が一人、深い悲しみを宿した顔で夕焼け色の空を見つめる。
「こんなにも早く手が回っているとは…。あの方を死なせてはならない。あの方の力は、必ずこの世界に光をもたらします。私の神戒を破ってでも、救わねば……。覚悟を決めましょう。」
自身に言い聞かせるように呟く女性は、静かに覚悟を固めた。
女性の名は転生神メネス。生物の輪廻転生を司る女神は、神としての戒めを破ってでも救いたい存在がいた。
その者がもつ特殊なスキルは、この世界に巣喰う闇を払える可能性を秘めている。
そのスキルの名は、『融合魔術』。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます