第9話 実技授業
今日から待ちに待った実技訓練が始まる。実技訓練の目的は、ズバリ魔力量の向上。この世界では、魔力量がその者の地位を決める。魔力量を増やすことで、下位の大陸から上位の大陸へ移住できる構造だ。言い換えれば、魔力量こそがこの世界における「力」そのもの。だからこそ、どんなに勉強ができても、どんなに武術の素質があっても、魔力量が低ければ下位の大陸から抜け出すことはできない。
魔力量を上げる方法には、大きく分けて2つのパターンがある。
1つ目は 鍛練による魔力量の向上。スキルを発動させ、魔力を限界ギリギリまで消費することで、魔力の器に負荷をかける。この負荷が積み重なることで、魔力の総量が増えていく。簡単に言えば、筋トレと同じだ。ちょっと動いた程度では筋肉がつかないのと同じで、魔力量を増やすには徹底的に魔力を使い尽くすことが必要になる。
2つ目が 魔物の摩核を破壊すること。魔物の持つ摩核を砕くことで、その魔物の魔力が自身に流れ込み、魔力量が上昇する。魔物が強ければ強いほど、その影響は大きい。だが、これは実戦向けの方法であり、まだ学校にいる俺たちが実践する機会はない。3年目になれば、課外授業で魔物と遭遇する可能性もあるが、教師達が対処するため生徒が戦闘を行うことはない。そのため、俺たちが今行えるのは前者の方法のみだ。
つまり実技訓練では、スキルを習得する過程で魔力を極限まで使い果たし、器に負荷をかけることで魔力の絶対量を引き上げる。高学年の先輩達が授業を終えた後、毎回ヘトヘトになっていた理由がようやく分かった。
訓練学校中庭の区画の一つ、体力錬成スペースに整列した俺たち2年生。いよいよ実技授業の1限目が始まる。基本的に俺たちが訓練学校で学ぶのはスキルレベル1の3つのスキルだ。
『身体強化系統スキル』
自身の体を魔力で強化することで、驚異的な力を発揮することができるスキル。
『武術系統スキル』
魔力を使って、武器や格闘技の動きを強化するスキル。使う武器や戦法によって内容が変わる。
『魔術系統スキル』
魔力を使って、魔法を発動するスキル。
俺たちは卒業までに、これらのスキルを習得する。今日の最初の授業は「身体強化系統スキル」だ。
頭の中で復習をしていると、実技授業の担当となる教師が俺たちの前に立つ。全身に獣のような気迫を纏い、身の丈は2mを優に超え、鎧の下から見えるごつごつとした節のある腕は、岩をも砕きそうな太さだ。加えて、眉間に深く刻まれたシワと、睨まれるだけで震え上がるような眼光は、クラス全員を萎縮させるには十分だった。そう、まるで熊のような体躯。なのに、髪型はオールバックにセットされ、髭は綺麗に整えられており、清潔感がにじみ出ている。
「実技授業を担当することになった、ガルバだ。俺は元Aランク冒険者だった。冒険者としての経験と知識を活かして、お前達の糧となれるよう全力で指導を行っていく。よろしく頼む。早速だが、授業を始めていく。」
そして声も落ち着いたよく通る声で威圧感が全くなく、しかし威厳がある。なんともギャップが凄い。クラス全員が違う意味で困惑している。
「身体強化は、魔力を体の特定部位に流すことで、肉体の性能を引き上げる。それが、このスキルの本質だ。肉体のリミッターを外すというわけではなく、魔力で肉体をコーティングすることで力を上乗させ、性能を何倍にも上昇させる、とイメージするといいだろう。」
丁寧な説明で基礎的な部分を説明し終えると、「少し見ていろ」と言って、ガルバ先生は俺たちから離れた位置で片脚を地面に突き立てるように踏み込む。次の瞬間、すさまじい勢いで俺たちの目の前まで移動してきた。気づいた時には、ほんの一瞬しか経っていなかった。
「このように、脚に魔力を効率的に流せば驚異的なスピードで移動できる。腕に流せば、重たい武器でも軽々と振れるようになる。ただし、流し方を間違えて全身に魔力をバラ撒けば、疲れるだけで魔力の無駄使いになってしまう。ただ流せば良いというわけではない。」
そういうと、ガルバ先生はおもむろに歩きだし、前列に並んでいた俺の前で止まった。
「お前の名は?」
「セナ・ユナフィーです。」
「よし、セナ。お前は10km走れと言われたら、体力配分をどのように工夫する?」
「えっと…10km走れる体力を温存しながら走ります。」
「そうだな。10km走れと言われて、スタートから全力疾走するやつはいないな。」
満足のいく解答だったみたいで、再び全員を見渡せる位置に戻って行った。
「魔力の使い方も同じだ。少しずつ魔力を流していけば長時間魔力を使えるが、爆発的な力は発揮できない。だが一気に流し込めば、一瞬だけ爆発的な力を発揮できる。その反面、魔力の消費が増え、魔力枯渇に陥るまでの時間が短くなる。状況に応じて、メリット・デメリットを考慮したうえでどう魔力を流すかが求められる。つまり、適切な部位に適切な量の魔力を流すための”魔力操作”が必要不可欠だ。前置きが長くなったが、今日は魔力操作の訓練を行っていこう。」
ここでようやく実技が始まった。
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