神の宣告で世界にダンジョンが現れた――なのに俺のジョブは“商人”!?

くろろ

プロローグ

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西暦2025年XX月XX日。



それは、どこにでもある、退屈で代わり映えのない一日になるはずだった。

「えーっと、今日のバイトは……夜か」

東京都下の小さなアパートで、今井亮太はスマホのカレンダーを確認しながら、ソファにごろんと横たわった。


彼は二十一歳のフリーター。日雇いや短期バイトを掛け持ちしながら、最低限の生活費を稼いで暮らしている。

目指すのは、FIRE(経済的自立と早期リタイア)。

誰にも縛られず、誰にも期待されず、好きなときに好きなことをして生きていく――それが亮太の、ささやかだが揺るぎない目標だった。


だが、その日、世界は一変する。

「……え?」

昼下がり、突然、スマホが勝手に光り始めた。

それだけではない。部屋に置いてある古いテレビ、ノートパソコン、タブレット端末、あらゆるスクリーンに同時に映像が映し出された。

画面の中に現れたのは、白銀の髪を持つ青年だった。

異様なほど整った顔立ちと、空気を震わせるような神々しいオーラ。見間違うはずもない、明らかに人ならざる存在。


【地球に住まうすべての者たちよ】

【我が名は、"神"】


唐突な宣言に、亮太は言葉を失った。

だが、神は続けた。


【本日をもって、地球に"ダンジョン"が出現する】

【それは汝らへの祝福であり、試練である】

【ダンジョンで得た恩恵は、誰にも奪われることなく、己自身の力とせよ】

【すべての者に、祝福を】


宣言が終わった瞬間、世界中が――いや、現実そのものが変わった。

空から光の柱がいくつも降り注ぎ、大地に"穴"を穿った。

それは見た目こそ自然にできた洞窟のようだったが、ただならぬ気配を放っている。

テレビのニュースが速報を流し続ける。

「緊急事態です! 日本全国、世界各国に謎のダンジョンが突如出現――」

「政府は国民に対し、冷静な行動を――」

「各地でパニックが――」


街も、人も、すべてが混乱していた。

しかし、亮太はソファの上で冷めた目をしていた。


「ふーん……で、俺に何の関係が?」


興味なさそうに欠伸をしながら、再びスマホに手を伸ぼうとした、その瞬間だった。

目の前に、青白い光の画面がポップアップした。



【ようこそ、プレイヤー】

【ステータス画面を開きますか?】


「……は?」

冗談じゃない。なんでゲームみたいなことが現実で起こってるんだ。

だが、恐る恐る『はい』を選ぶと、そこには信じられない情報が表示された。


名前:今井亮太

年齢:21

ジョブ:商人 Lv.1

スキル:ポーション製造 Lv.1【ユニークスキル】

パラメータ

HP:10/10

MP:10/10

STR:5

VIT:1

AGI:3

DEX:5

INT:1

WIS:1


「商人って……なんだよ、これ」

剣士や魔術師のような派手なジョブではない。

それどころか、パラメータもお世辞にも強いとは言えない。

一番目についたのは、スキル欄に書かれた【ユニークスキル】の文字だった。

「ポーション製造……?」

スキルをタップすると、簡単な説明が表示された。


【ポーション製造】

【消費MP10にて、ポーションを1本生成可能】

【素材不要。】


「……素材いらないのはすごいけど、消費MP10って……俺、MP10しかねぇじゃん」

「試しに……作ってみるか?」

消費MPは10。

今の自分のMPをすべて使い切る計算だ。

だが、考えても仕方ない。

「えいやっ!」

意を決して、スキルを発動した。

瞬間、手のひらに淡い光が集まり、小さな小瓶が現れる。

中には、透明に近い薄緑色の液体――回復ポーションだ。

「うわ、本当にできた……!」

感動も束の間。

次の瞬間、ズシンと重たい疲労が全身を襲った。

「っ……!」

膝が崩れ、そのままソファに倒れ込む。

(……やば……)

膝から崩れ落ち、そのまま意識を手放した。

──夜。

目を覚ました亮太は、真っ暗な部屋で天井を見上げていた。

スマホを掴み、時刻を確認する。



【23:42】


一瞬、意味が分からなかった。

だが次の瞬間、血の気が引いた。

(バイト……!)

シフト開始は、22時。

完全に――ぶっちぎっていた。

「うおおおおおおおっ!!」

リュックを掴み、靴もろくに履かず、玄関を飛び出す。

コンビニまで、全力疾走。

冷たい夜風が肌を刺す。

だが、それ以上に、亮太の心を突き刺していたのは――

バイト先で待っている、店長の怒りだった。

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