スライム討伐

 アルシャラの外に広がるアスリー平原。

 馬車が走りやすいように街道が平坦に整備され、交易路に沿って馬宿などの設備が置かれている。

 街道から外れた場所には泉とそこへ流れ込む川があり、ブルースライムをはじめとする水場を好む生物が生息している。

 

「あれが、ブルースライムか。我の知る姿とは大分違うな…」

 アンカラの視界に映る五頭のスライム達。

 泉の近くを青い体をプルプルさせながら闊歩している。

「で、ペータとやら。スライム如きにそこまで怯える必要はあるか?」

 茂みに隠れながら震えているペータにアンカラは馬鹿にしたような声色で問いかける。

「モ、モンスターは危険な存在なんです。ぼ、僕の村もモンスターに襲われて…」

「なら、なぜ冒険者になった?」

「や、薬草の採取などで、日銭を稼いで生きていこうと思ったんです。で、でも上級冒険者さんの話を断るわけにはいかなくて…」

(なんだこいつ)

 ペータの薄弱さに内心ため息をつく。

 冒険者ギルド曰く、採取依頼でも場所によってはモンスターと遭遇することはある。

 一応、モンスターの出没しない安全なエリアでの依頼もあるが、危険手当やモンスターの素材報酬がつかないためどうしても報酬が安くなる上にランクアップもできない。

 キャリアをどんどん上げたいのであれば当然、危険な依頼も積極的にこなす必要があり、ほとんどの冒険者たちはそうしているらしい。

「…日銭を稼ぎたいのなら、ほかの仕事もあるのではないか?」

「その、面接で緊張しすぎて質問に答えられなくなってしまって、そ、それで落とされ続けて…」

「…我の足を引っ張る真似だけはするなよ?」

 呆れながら、ギルドから支給された鉄の剣を静かに引き抜く。

「いくぞ、スライムども!」

 群れに突入するや一頭を討伐。

 奇襲に慌てて逃げようとしたもう一頭を両断する。

「次!」

 走って追いかけて二頭を討伐。

 もう一頭は洞窟に逃げ込もうとしたところを仕留める。

「これで半分か。それにしても斬りにくい剣だ」

 力尽きたスライムを双眸に収めながら、剣の切れ味の悪さに悪態をつく。

(スライムは柔らかいモンスター。それでも力を込めねば両断できぬとはな)

 鞘に納め、ペータの様子を確認。

 ブルースライムの死体に近づき、剥ぎ取り用のナイフを使って心臓部にあたる魔石を手早く集めている。

 モンスターからとれる魔石は討伐の証になるほか、魔法道具の素材や宝飾品として価値がある。

 一方で品質は個体差によって大きく異なるほか、魔石鉱山で安定して採掘できる魔鉱石と比べて入手量が絶対的に少ない。

「な、何とか取れました」

「よし、残りを狩るぞ」

 ペータを連れて川に沿って歩く。

 そこには楽しそうに水浴びをしているスライム達。

 大きめの二頭のスライムと三頭の小さな子供のスライムが飛び跳ねながら遊んでいる。

「あれも…狩るんですか?」

 一家団欒の親子を狩ることに抵抗を覚えたペータに、アンカラは「当然だ」と返す。

 チャキッと音を立てて剣を抜き、急襲。

 濡れることも厭わずに小さい三頭をまとめて狩ると、大きな二頭もそれぞれ討伐する。

躊躇ちゅうちょないんですね…」

「ためらえばこっちが殺される。敵に情けをかけてやる必要はない」

 アンナ達に助けられたことを棚に上げつつ、スライムの死体を川からあげるとペータと一緒に魔石を剥ぎ取る。

「むっ、思うように剥げん」

 細かい作業は苦手なのか、魔石が思うように剥ぎ取れない。

「ぼ、僕が代わりましょうか?」

「よい、自分の作業に集中し…」

 ペータを叱ろうと顔を向けた刹那、アンカラの言葉が止まる。

「もう終えたのか?」

「はい、四頭ともしっかり剥ぎ取りました」

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