第1章「アドベンチャーが始まる」

異世界で目覚めた俺と謎のシステム

 静かな草原の道をゆっくり歩きながら、俺は広がる景色に目を奪われていた。風がそよぎ、草のざわめきだけが耳に届く。でも、どこか落ち着かない気持ちもあった。怖いわけじゃない。ただ、ここがどんな場所か全然わからないからだ。この新しい世界の不思議さに、俺は冷静でいようと自分に言い聞かせた。


 歩きながら、さっき手に入れたパネルを開こうとしたそのとき、突然、遠くから騒がしい声が聞こえた。まるで戦いの叫び声のようだ。眉をひそめて音の方へ急ぎ足で向かう。「なんだ、あの声は?」と小さく呟きながらも、気にせずに歩みを進めた。


 茂みを抜けると、そこには狼の群れと戦う一団がいた。彼らは疲れ切っていて、追い詰められているのが一目でわかった。


「もう持ちこたえられない!引こう!」誰かが叫んだ直後、大きな狼の一撃で倒れてしまった。


 俺は混乱しながらも考えた。「俺にできることは…?」戦う自信はなかった。もし爪が一度でも当たれば終わりだ。しかし、倒れた冒険者のそばに落ちていた剣が目に入った。


「この剣を使わせてもらう!」思わず叫んで、近づいた。


「待て!近づくな!あいつらは危険だ!」声が聞こえたが、俺は無視してゆっくりと剣を手に取った。


 どう戦うか必死に考えながら、体に備わったチートシステムを起動する。システム画面が目の前に現れ、まだ理解できない選択肢が並んでいる。焦りながらもステータス画面を開くと、


「名前:中村 慶一なかむらけいいち、レベル:1、HP/MP:∞、ジョブ:なし」


 その∞のマークを見て、目を見開いた。「無限?本当に?」混乱しつつも、「剣の使い方は…?」と思ったが、操作方法はわからなかった。


 ふとパネルの設定を見ると、「オートモード:オフ」と書かれていた。何も考えずにそれをオンにする。


 数分後、気がつけば目の前にいた狼たちはすべて倒れていた。戦いの中心に立つ俺を、冒険者たちは驚いた目で見つめている。俺自身も何が起きたのか理解できなかった。


「誰だお前は?」女性の冒険者が目を見開いて聞いてきた。


「俺か?中村 慶一なかむらけいいちだ。ただ通りかかっただけだ。」冷静を装いながら答えた。


「本当にありがとう、けいいちさん!」彼女は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


 冒険者たちは俺に感心している様子だったが、俺は心の中で「オートモードって何なんだ?」と呟いた。あまりにも強すぎると感じたからだ。


 商人の男が大きく体を揺らしながら、「本当に助かった!君がいなければ俺たちは全滅していた」と感謝を述べた。


「いや、気にしないで。けいいちでいいよ」と俺は肩をすくめた。


「もう一度、ありがとう、けいいちさん!」全員が声を揃えて言った。


 俺は苦笑いしながら、「まあ、偶然通りかかっただけだから」と答えた。


 その後、彼らが町に来ないかと誘ってきた。


「ここから先は危険だから、助けが必要なんだ。感謝の気持ちも込めて」と商人が真剣に言った。


 少し興味がわいて、「町?美味しい食べ物はある?」と聞いた。危険よりも食べ物の方が気になっていた。


「もちろん!町は楽しいことがいっぱいあるよ!」と商人は笑顔で答えた。


「じゃあ行こうかな」と俺は決めた。


 道中、彼らが話してくれた。


「この狼たちは普通じゃない。リーダーがいるんだ。普段は弱い者や単独の旅人を狙う。」


「なんで君たちを?」と俺。


「俺たちが興味深い物資を持っていたからだ。肉とか食料とか。俺たちを脅威だと思ったんだろう」と女性の冒険者。


 俺は頷きながら名前を聞いた。


「ゲンゾウ・マーテル、商人。」

「ティオ・フェルン、剣士。」

「ミラ・エルウッド、治療師。」

「キール・ロウエン、若い弓使い。」


 そして、数時間後に町に到着した。町の門は大きく開かれていて、上には風に揺れる旗が掲げられている。中からは賑やかな市場の声が聞こえ、商人たちの掛け声が響いていた。町の道は石で舗装されていて、遠くには高くそびえる警備の塔が見えた。冒険者たちのパーティは、俺にさらに親しげに話しかけてきた。


「けいいちさん、あなた、ここに住んでいる人?」とティオが尋ねた。


「けいいちさん、すごくかっこよかったです、狼と戦っていた時」とミラが言った。


「えっと、けいいちさん、冒険者ですか?」とキールが聞いた。


 俺はその質問にちょっと戸惑いながらも答えた。


「うーん、ここの出身じゃないんだ。遠くから来たんだよ」――ちょっとだけ嘘をついた。「そんなにすごくないって。ただの通りすがりさ」


「えぇ?」と、みんなが驚いた様子を見せた。


 ティオがもう一度聞いてきた。


「じゃあ、けいいちさんはどうやって食べてるの? ここではお金が必要じゃない?」


「じゃあ、ギルドに登録して、依頼をこなすのもありかも」と誰かが言った。


「うーん……それもいいかもな。簡単な依頼でも探してみよう。でも、どうすりゃいいんだ?」と俺は答えた。


「それなら、冒険者ギルドに行かなきゃ。いろんな仕事があるし、君にもできる仕事がきっとあるよ」と商人が助言してくれた。


「わかった、行ってみるよ」と俺は頷いた。


「ギルドに登録したら、君に合った仕事をくれるよ」とミラが言った。「そうすれば、もっとお金も稼げるから!」


 そうして、俺たちは冒険者ギルドへ向かって歩き出し、途中で商人とは別れた。


 ギルドに向かう途中、妙な感覚を覚えた。うまく言葉にできないけど、誰かに遠くから見られているような、そんな気がした。振り返ってみたが、広がる青空と行き交う人々しか見えなかった。


 ――けど、なんかおかしい。


 そのとき、耳元でふわりと優しい声が聞こえた。


「君は……この世界の住人ではない」


 俺は驚いて、すぐに辺りを見回した。けど、そこには誰もいなかった。ただ、風が静かに吹いているだけだった。


 俺は首を振る。「ただの気のせいだろ」と呟き、自分に言い聞かせた。


 だが、その場から足を踏み出す前に、空に一閃の光が走った。何か、あるいは誰かが、遥か上空から俺を見ているような感覚があった。その光に引き寄せられるように、自然と目が向いてしまう。


 そして、確信した。


 ――これは、忘れられない冒険の始まりだ。


 ギルドに向かいながら、その不安な感覚をなんとか無視しようとしたけど、足取りは重く、胸の鼓動は止まらなかった。


 次に何が起こるのか……。


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