第4話 改革へ。第一歩-兄さん含む
布団を蹴飛ばしてしまったせいで、体が凍えてしまった。
暖かくして寝たはずなのにもかかわらず、芯から底冷えしている。
「ハロルド、かわいい..」
まだ覚めない目を起こして天井を見上げていると、恥ずかしくなる言葉が聞こえた。
兄さんは本当に僕のことを可愛いと思っているらしい。
少し顔が赤くなった。というか、兄さんは寝ているのか?
隣で寝ている兄さんの顔を覗いた。
うん、間違いなく眠っているはずだ。
体が凍えて布団から出れないのは困る。
僕は外でラジオ体操をすることにした。
前世の僕がラジオ体操をしたのは小学生の時の夏休み。
僕は覚えているだろうか?
頭の中で音楽を流し、リズムに合わせて身体を動かす。
身体が軽快に動く。
振り付けはあっていない気がするが、少なくとも体操にはなった。
少し周りを見てみると、ところどころに家があるだけで、
他は一面降り積もった雪で覆われていた。
「ちょっと、暮らすのは難しそうだ。」
僕はフルンを快適にできるだろうか。
昨日の続きで付近の人に挨拶しに行ってきた。
「こんにちはー」
「なんだい?」
「あ、僕は最近来たハロルドというものです。」
この地域に来る人は大体が追放者だと聞く。
だから僕達にも物怖じしないし、生きていける。
だけど、生きていけるでは駄目なんだ。
生活を豊かにし、楽しく暮らせることで余裕が生まれる。
余裕があれば、きっと。
「お〜い、ハロルドー!!」
僕を呼ぶ声がした。
振り返るととんでもない勢いで突っ込んでくる。
ぶつかる!_ギリギリ急停止。
兄さんは少しふてくされて言った。
「起こしてくれよ!ハ...朝の日課ができなかったじゃないか」
「起きたときに眠たそうだったから!」
兄さんは朝起きたときにはもう起きてるイメージだったし。
そもそも兄さんは皇太子だったはずなのに、あんな
追放されたんだよ。
あ、そういえばたぶん皇太子は姉さんになったんだよな。
頑張ってるかな。まあ、少なくとも兄さんよりはまともだろう。
「兄さん、僕は一つ考えていることが在るんです。」
「何を?」
僕は、フルンを快適にする。という話をした。
「それは現実味がないな。人員はどうするんだ?気候は?魔物は??」
さすが兄さん、皇太子だっただけあって頼りがいがある。
「そこを一から探したい、というつもりです。」
「難しいぞ?計画を立てなければいけないし、そもそもここは流刑地だ。
豊かにさせてはならない、と王国法典に書いてある。」
思ったより前世と同じぐらいの労力がかかるらしい。
まさか、豊かにさせてはならないなんて...。
「内密に、行います。国を作る覚悟です。」
「言ったな。国を作るとはとんでもないことだぞ?」
どんどん追い詰められていく。
「いえ、良いんです。」
「そうか。それなら、俺がサポートする!」
なんとかうまくいきそうだ。
僕は、この町を快適にする!
「じゃあ、まずは歓迎パーティに行こう!」
「オッケー!」
僕達は楽しい生活を目指して、まずはパーティに行った。
「こんにちは。皆さんお集まりのようですね。
では、始めましょう!」村長が呼びかけて乾杯する。
さあ楽しもう!
じゃあさっそく食べようかな。
んん?
「何だこれ?」
目の前には食べれそうにない、しなびた野菜に少しの魚。
王城での生活といくら違うとわかっていても、これはおかしいぞ?
冬とはいえ、こんなにも採れないものなのか。
「兄さん、これ見てよ」
「うん。何?」
僕は兄さんに説明してもらった。
どうやら、フルンではそもそも普通の生き物が捕れにくい。
さらに、追い打ちをかけられていて、取っていいものが決まっているという。
この国にとって、フルンは「辺境」ではなく、れっきとした「牢獄」だという
ことか。
「父上が改正していればよかったのに。もう、ハロルドの件に加えて...」
兄さんは父上に対してまだ当たりが強い。
以前の会議では、自分が王となって頑張る。みたいなことを語っていたのにな。
「なけなしの食料なのかもしれない。味わって食べろよ!」
兄さんはそう言って他の人に挨拶しに回った。
この国は、いわば弱小国だった。
外側の圧力に耐えながら、内側にも心を配る。
だからこそ歴代の王は街を回り、外国と話し合い、ときに自らを犠牲にして。
それが良かったかはわからない。
苦心の結果が、「フルン」なのだろう。
「あれがハロルド君じゃないかい?トロントさんが言ってた、あの子かい?」
僕の話をする人たちの声が聞こえて振り向いた。
トロントさんは街の人に伝えてくれたようだ。知ってもらう手間が省けた。
「どうも、こんにちは。」
「あっ、こんにちは。フルンには慣れたかい?」
僕の話を喜々として聞く人達。
「はい、おかげさまで随分と慣れました。」
「それは良かった。楽しんでいきなよ!」
僕はこの人たちに好かれたようだ。
快適な生活、QOLのアップのため頑張ろう!
それから何人かの人に話しかけられ、喋り、疲れが出てきた。
そんなとき、村長から知らせが入った。
「皆さん、歓迎会の主役のアミレス君からお知らせです。」
兄さんは何を話そうとしているのだろうか。
「こんにちは!皆さん、アミレスです。フルンに来たばかりですが、
よろしくお願いします!あそこにいるハロルドと来ました、弟です。」
兄さんの自己紹介かと腑に落ちて僕は食事に戻った。
「実は今日、言いたいことがあってこの会を開いていただきました。
皆さん、この国に不満はありますか。」
すぐに会場が静まる。
兄さんは平然と、堂々として言ってのけた。
何を言えばいいか不安な雰囲気が広がる。
「ーあの、ずっと思ってました。」
真っ直ぐに視線が刺していく。
一人の人が手を上げた。
「どんなことですか?」
兄さんが問う。
「自分は、確かに罪を犯してここに来ました。
でも、一緒に来た友達は冬の寒さで倒れて死にました。
あの行政官の建物を作るために。」
気まずい空気が流れた。ところが兄さんは満足そうだ。
「わたしも、です。
お腹が空いて仕方なくて、パンを盗んだんです。
確かに悪いことだとは分かっていました。
反省もしています。だけどここに送られて、その日わたしは倒れました。
トロントさんが助けてくれなければ、わたしは死んでいました。」
一人の人に触発されて少しずつ、明かしていく人が増えていく。
この国は、一つの角度から覗けば良かったかもしれない。
でも「フルン」を作り、閉じ込めたことは必要ではなかった。
本当に悪いやつもいるのだろう。
隠れているのだろう。
しかし反省している人がいて、悔やみ切れない人がいる限りこのまちは
変わらなければならない。
それが僕の考えだ。
その為には豊かにならなければならない。
この世界は生きにくい。
前世の、日本という国も一つの視点から見れば生きにくかった。
それでも多くの人が心地よくなければ日本はあそこまで発展しなかった。
だからこそ、僕達は変えてきた。
「皆さん、それぞれ不満があります。俺も不満があって、ここに来ました。」
兄さんはみんなに語りかけた。
「この国を変えるために、まずこの街を変えましょう!
そのためにはみなさんが必要です。どうか、協力してください!」
一斉に皆が声を上げた。
この世界を変えるために。日々の生活をより良くしようとするために。
僕はその声に鳥肌が立った。
人は、集まることで強くなると。
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