ナイバイタリティソング

子律

第1話

 おじさんに彼女はいない。あるのは創作意欲やる気と歌詞だけ。


 昔から好きな事しか力を入れて取り組めないタイプだった。授業は国語と音楽以外は聞いちゃいなかったし、テストには意味が無いと思っていたから勉強はしなかった。


 中学生になり好きな女の子が出来た、流歌るかちゃんだ。決してルックスの良い子ではなかったし、校内で虐められているような悪目立ちしかしない子だった。


 俺だって最初は興味などなかった。だが名前に惹かれてしまってな。名前に歌が入ってるんだ、そんなの気になってしまう。


 それから彼女を観察する生活が始まった。


 朝8時半に席に着き毎日同じ本を開いて涙を流す。


 休憩時間になると必ず教室から出て屋上へ繋がっている階段の踊り場で景色を眺めている。


 六限目が終わると髪を結って一番最初に教室を後にする。


 この一連の動きを毎日必ず、一分一秒の狂いもなく行う、まるで新宿のでっかい3Dパネルみたいに。


 そして彼女は学校にいる間一度もトイレに行かない、潔癖症なのだろうか。確かにいつもマスクを着けていて、顔もイマイチ思い出せない。


 今思えばいじめられてるような子が自分の顔を世に晒していることの方が少ないだろう、自信など疾うに失っているのだから。


 トイレに行かないのは潔癖ではなく個室に入るのが危険だから。


 髪を結って帰るのは走って逃げるのに邪魔だから。


 休憩時間に踊り場で景色を眺めているのは屋上への階段が封鎖されているから。


 だが毎日同じ本を読んで泣くのは今でも理解が出来ない。


 俺は自分の書いた歌詞すら完成したら読まないし完成した作品を聴きもしない。だって何度も書いて消してを繰り返して散々読んだんだ、好きな事でも流石に飽きるだろう。


 流歌ちゃんのことを思い出していたら新しく歌詞を書きたくなるんだよな、久しぶりにラブソングでも書いてみるか。

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