未来に進む

あれから更に何ヶ月か経った。

 兄とルカは相変わらず忙しそうにしている。聖者は常に人々に求められ、休む暇もない。それでも兄は召喚前に比べるととても充実していて楽しそうに見える。

 兄とは滅多に会えないがルカは兄に報告する為か時々俺の様子を見にきている。

 その時に兄の好きなものや好きなことなんかを聞きにくる。聖者の面倒を見るのはそういうところも気にしなきゃならなくて大変なんだな、と思ったが、ルカは心なしか楽しそうにしているように見えた。そうやって楽しめる人が聖者の面倒を見れるのだろうか。

 ユーリも兄やルカ程の忙しさではないが聖者補佐の仕事を頑張ってこなしている。手隙になった俺に文字を教えにきてくれる。

 例の実家の出来事は暫くユーリの気持ちを落ち込ませたが、時間が解決したのか俺が役に立てたのか、心なしか出会った時と比べてよく笑うようになった気がする。自分に余裕ができたからか人当たりも多少柔らかくなり、最近では他の聖者補佐や使用人たちと談笑する姿を見かけるほどだ。

 俺はといえば残念ながらこれといった進展はない。ユーリから文字を教わり、必要に応じて兄の仕事に同行する。やっている事は呼ばれた時と大差ない。

 折角暇を持て余しているしこのまま同じことを繰り返すだけなのは勿体無いとちょっとしたバイト……小遣い稼ぎをすることにした。とはいえ外には出られないので誰にでもできる雑用とかちょっとした手伝いをする程度だ。

 ここ最近でまとまった金ができたのでユーリに指輪を贈った。恋人に贈るアクセサリーは異世界でも指輪らしい。ユーリに指輪を贈りたいと知った兄はそれは大層盛り上がったそうで、わざわざ商人がやってきて指輪を見せにきた。

 流石に高級な物は手に入らなかったので自分の予算の中で色々決めてもらった。そういえばルカも同じ商人から指輪を買っていた。俺が買ったものより高そうだったが。

 あいつにも指輪を贈りたいと思う相手がいるのだろうか。

 その後ユーリを呼び出して指輪を見せた。俺の小遣いから出したからあんまり高いやつじゃないけど……と言うと

「いいのか?お前の貴重な小遣いなんだろう……?」

 と少し申し訳なさそうにしていた。

「お前にこれを渡すために働いた。あんまり好みじゃなかったか?」

「……いや、嬉しい。……とても」

 俺はユーリの左手を取り薬指に指輪をはめた。ユーリは嬉しそうに指輪を眺めていた。どうやら気に入ってもらえたようだ。

「ありがとうナオ」

 頬を染めて微笑むユーリはとても美しかった。頑張った甲斐があったというものだ。

 俺とユーリは唇を重ねる。この世界で俺にできることはまだ少ない。

 それでも俺はやれる事を探し続けよう。2人で穏やかに生きる為に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

付属品の俺と聖者のなり損ないは腫れ物同士仲良くしていくことにした むむに @mumuni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ