第9話 学校一の不良

「お兄ちゃん、昨日の動画! 反響すごいよ!! チャンネル登録者が30人を一気に超えてる! しかも軒並み高評価なんだ! あれ、かなり眠りやすくさせるみたいでさ!」





 朝起きると妹が絶賛をしながら目の前で叫んでいた。どうやら、あのスキル……



『世界でぶっちぎり1番の子守唄』

・このスキルは『世界でとびっきり1番の美少女声』を使用しているときでないと、使用できない。

・聞いた対象の睡眠効果向上、精神回復

・聞いた対象に睡眠しやすくなる




 どうやら相当効果があるらしい。どうしたものか、ここまで効果があるなら後で永遠にはスキルを話しておくか。




「やっぱり睡眠系ボイスは人気あるみたいだね。かなり高評価の意見だよ。しかもちゃんと効果あるなんて……凄いねぇ。私もレベル10になったらこういうスキルが手に入ったりするかな」

「さぁ、どうだろうな」

「あ、ごめんね、お兄ちゃんは戦闘系スキル欲しかったみたいだけど。私からしたらこのお兄ちゃんも輝いているんだけどね」






 そう言いながらニコニコ笑顔で妹は褒め称える。そんな笑顔を出されると俺も笑顔になるしかない。




「お兄ちゃん、チャンネル登録者30人かぁ。もっといけると思うんだけどねぇ。でも、凄いことには変わりないよ。クラス一つがまるまるお兄ちゃんのファンみたいなもんだもんね」

「そうだな。確かに実質教師みたいなもんか」

「そうだよ!!」





 細かくいうと32人が登録をしてくれているらしい。いや、思っていたよりも凄いなぁ。



 最近ちょっとチャンネル登録者の増え方が大きくなっているようなが気がする。いや、気のせいの可能性もあるけどさ。





「お兄ちゃんが先生かぁ。悪くないぜ。あ、ご飯作っておいたから、ちゃんと食べてからいくんだよー」




 そう言って永遠は部屋から出ていった。今日も制服姿が可愛いと褒めてあげるのを忘れていたな。





 さて、俺もさっさと準備して学校へ向かおうか。






 いつものように自身が通っている青木あおき高校に向かう。早すぎず、遅すぎずの絶妙の足運びで歩き続ける。



 次第に同じ制服の人が多くなってきた。そして、ガヤガヤと騒がしくなってくる。だがしかし、俺はひとりぼっちである。




「……おはよ」

「うお」





 まるで伝説の忍びの如く、気づけば隣に姫乃光が立っていた。おいおい、足音はさせながら来てくれ……





「あの、足音消してきた?」

「あぁ……ワタシダンジョン入ってるから足音消すのが癖になってて」

「某暗殺一家みたいなことを……」





 そう言えばダンジョン内部ではモンスターに気づかれない為に足音を消すこともあるらしい。


 なるほど、これも技術の一つか……流石だ!




「へぇ……俺も足音消せるかな?」

「多分、無理じゃないかな? ものすごく分かりやすいし」

「そ、そんなに足音する?」

「うん。分かりやすい」





 そ、そんな真顔で言わなくても……お、俺だって足音を消せるくらいは出来るんだからね!!





「……ま、まぁ、足音はそのうち改善を」

「そう……教えてあげよっか?」

「え!? いいの!?」

「でも、その代わり……ヴィクたんの話」

「またか」





 まぁ、それくらいなら安いもんだけどな……。だが、姫乃光が隣に来ると一気に視線がこちらに集まるな。


 しかし、注目されてるのは姫乃なのであって俺は隣の肉塊でしかないんだろう。



 ざわざわと辺りが騒がしい……。そして、学校に着いた時、更にざわざわと探しさが大きくなった。



 その理由は……




「お、おい、天龍寺左門てんりゅうじさもんだ。道空けた方がいい……」

「相変わらず怖いなぁ」

「あれで1年かよ」




 ちょうど同じタイミングで学校に到着した天龍寺左門てんりゅうじさもんが原因らしい。


 

 

 天龍寺左門てんりゅうじさもん。黒と金が入り混じっている髪色、全体的に髪の長さは重めのウルフヘアーって感じだ。


 そして、顔が超怖い、顔元に3本の傷が入っている。どうやらモンスターによって傷をつけられたらしい。


 だからこそ、超怖いと学校内で噂だ。冒険者としもBランクだから、強さもあるし余計に怖いのだろう。



 まぁ俺はBランク冒険者は尊敬しており、好きなので割と興味本位で話したことはある……。だけど、皆んなが怖いっていうのも分かるけどね。



 姫乃光もそうだけど、冒険者のランクが高いやつは基本的に生物としての格が違うからビビってしまうのだろう。






「天龍寺くん、おはよう」

「……あぁ」




 一応挨拶したけど、相変わらずあっさりとした返事をするなぁ。天龍寺くんって、俺と同じぼっち登校なんだよね。


 そんでもって、いつも学校サボって屋上でぼぉっとしてる。



 タバコとかは吸ってないらしいけど、不良みたいだなとよく言われている。まぁ、不良なのかもしれないけどね。






 ──その日は、いつも通り授業をこなし昼休みに突入した。




 さて、俺は妹特製のお弁当があるので屋上で食べることにする。まぁ、食べる友達も普段なら居たりするんだけど、鈴木太郎も今日は他の友達と食べるみたいだし。





「……あ」

「あ?」




 そう思って屋上に来たのだけど、先に天龍寺左門が屋上に陣取っていた。フェンスに寄りかかりながらこちらに顔を向けている。




「幸木か」

「どうも……」




 まぁ、怖いけど他に食べるような場所もないしここで食べることにしようか。丁度時間もあるし、ヴィクトルナの動画を確認するか。



 あ、チャンネル登録者が50人超えてる……え? あれ、ここに来て急に伸びてるな。


 だけどさ、これの何がいいのか俺には分からない。この間の子守唄を再生するけど、俺からしたらただの自分の声にしか聞こえない。



 俺がねーんねんころりりよーとか言ってるようにしか聞こえないのだ。やはり俺からしたらこの動画の魅力が分からない。




 コメント欄も割と盛り上がっているようだけど……分からん。ただ、よく眠れたとか疲れが取れたとか書いてあるのを見ると効能はしっかりとしているスキルであり、効果もちゃんとあるのだというのは分かる。



 だけど、分からん。世界で1番可愛い声ってどんなの? 俺は聞いたことないからちょっと気になってるんだけど……



 永遠は俺のことを可愛い声と言うけど、どんな感じなの? 最近気になって眠れないよ? 俺はちょっと不眠気味なんだけど?






「……おい。それ……」

「え?」





 天龍寺左門が気付けば隣に陣取っていた……まさか!? こいつも足音を消す特技を!? 流石はBランク冒険者!!




「どうしたの?」

「……いや、なんでもねぇ」





 天龍寺左門は何か言いたげな顔をしていたが、すぐさま何でもないと言う顔をして屋上に通じる扉を開けて去ってしまった。




 なんか……気になることでもあったのだろうか?







◾️◾️






 危ねぇ……危うくバレるところだったぜ……



 まさか……オレ天龍寺左門、以外にも女神の月光に気付いてたやつが居たとはな……




「幸木のやろう……見る目あるじゃねぇか」




 勝利と月の女神のVチューバー、ヴィクトルナ。オレも最近になって見つけたが……



 マジでマブイ配信者だぜ……ッ




 まだ見つけてから1週間ほどしか経ってねぇが……こんなにもハマってしまった配信者は未だ嘗て居ない。


 単純に可愛いと言うのもあるが、癒しなんだ。





 オレは両親が借金を残して蒸発しやがった。その借金をオレは返さなくてはならない。それに加えて、弟と妹が2人ずついる。


 だからこそ、オレは逃げるわけはいけない。以前まではBランク冒険者として稼いでいたのだが……



 少しだけ重積があった。このままずっと冒険者としてやり続けるのが……



 オレがいなければ弟や妹がどうなるかなどわからない。その不安が常に付き纏い始めていた。

 

 


 ──そもそもこんな危険なことをずっとオレだけが……なぜオレだけが……






 いや、弟達が妹達が悪いだなんて思わない。だけど……なぜオレだけが……こんな危険な……






 不満や不平感に徐々にオレは染まって行きそうだった。それもあってか、学校では授業をサボり青空を見上げることも多かった。


 



 だが、そんな綺麗な空を見ていても心には闇が差し込んでいた。


 オレには綺麗な空も、暗く見えていた……










『あなたの夜に、ひとすじの光を! どーもー、勝利と月の女神ヴィクトルナでーす!』






──まさにオレに差し込んだ一筋の光







『えー! ドラゴン神社さん、冒険者なんですかー! すごいですねー! ランクとか、聞いても……?』

【ドラゴン神社:まぁ、Bランクだけど】

『うわぁ! す、すごい!! 凄いですよ! 尊敬してます! 応援してます!! わ、私、Eランクでして……いやー凄いですねー。1000人に1人くらいがBランクですもんね!』

【ドラゴン神社:まぁな】






 アレだ……あまりの可愛さにちょっとカッコつけてしまった。いや、こう言うのが逆に恥ずかしいんだ。


 適当にスカしている感を出してしまってるぜ……



 いや、それにしても超可愛いな。なんつーか、癒しって感じの声だ。





『応援してます! いつもモンスターが出ないように頑張ってくれるドラゴン神社さん、本当に感謝してます!』






 この日から、屋上の空は青色にしか見えなくなった。そうか、オレはこんな素晴らしいことをしていたのかと胸を張るくらいになった。



 だが。




【ライトセイバー(男):ワタシも毎日モンスター駆除してますけどね】

『あ、ライトセイバーさんも毎日お疲れ様です!』

【ライトセイバー(男):正直、ワタシより頑張ってる人はいない】




 あ? なんだこのイキリクソ野郎は……そう、ライトセイバーとか言う意味わからないクソ野郎がオレが何か言うと被せてくる。どうやら、それなりに高ランク冒険者なのだろうが、毎回被せられると腹がたつ。




『ライトセイバーさんも頑張ってますよね! 勿論、ドラゴン神社さんも尊敬してますよ!』




 ……何だこの可愛い天然記念物みたいな子は……素晴らしすぎる。



 ガチ恋とかではないが、素直に癒しとして聞きまくってしまう。どうやら、ヴィクトルナは現在Eランクで、レベル10になるまでも他の人よりも遅い中で冒険者をしていたらしい。





『私は冒険者、Eランクでレベル10になるのも他の人よりもずっと遅くて、あはは、3年もかかっちゃいました……才能なかったんですよねぇ。だから、冒険者してる人は尊敬してます!』





 本人も嫉妬が無いわけではないと言っていたが、それでも冒険者を尊敬は忘れていないような姿勢だった。


 ……低ランクでも頑張ってるやつがいるか。オレも……







「ヴィクトルナ……マブイ女だぜ」







 屋上を去り、廊下を歩く。歩いているととある声が聞こえてきた。





「幸木のやつ、低ランクなのに冒険者まだやってんのかよ?」

「アホらしいよなぁ」

「才能ないんだから、頑張っても無意味」

「──だって、レベル10になるのに3 馬鹿だよな」





 ──ガシャン!!!




「──おい、テメェら今ヴィクトルナの悪口言ってたか?」



 おい、詳しく聞こえなかったがヴィクトルナの悪口言いやがったか? 必死に頑張っている勝利と月の女神を馬鹿にしたのか?



 壁を蹴り、悪口を言っていた3人を睨んだ。男2人、女1人。誰だがしらねぇがまさか、女神の悪口を言ったのか?





「え!? あ、い、いや。ち、違うって!!」

「お、俺たちは幸木! 幸木勝利!! の話!!」

「そ、そうよ!」





 あ? んだよ、まどろっこしいな。




「っち、紛らわしいんだよ」





 そう言って3人の元をさった。そうか、ヴィクトルナの話ではなかったのかよ。だが、基本レベル10になるまでかかる期間は一般的には半年だ。



 レベル10になるまでに3年を費やすなんてケースはオレも初めて聞いた。あ、いや2回目か。


 さっき屋上に居た幸木、あいつもレベルアップが人よりも遅いとか何とか言ってやがたったか。だから、前にもオレに冒険者のコツを聞いてきた。




 こんな稀なケースは殆ど聞かねぇから勘違いしたじゃねぇか。




 何がともあれ……女神の悪口は許さねぇ。



 自分が尊敬する、自分が好きなのを馬鹿にされて笑ってる野郎は人間じゃねぇ。



 次も女神を馬鹿にしてたら、キレる。

 




「幸木、お前は3年も冒険者やってるんだから才能ないって気づけよ。馬鹿だよなぁ」

「また、藤木沼か。前も聞いた」

「いや、お前まだ冒険者やってるんだろ? 意味ないってやめろって。アホらしくて馬鹿過ぎだろ」







──おい、てめぇ……。オレは思わず、自身のクラスではない教室に潜り込んでしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る