うつろ
猫又テン
男
生きるということは、俺にとって、苦しみを伴う行為だった。
息を吸って吐くだけで、常人の二倍の労力を使う。圧倒的無駄使い。生命の浪費に他ならない。出来損ないの、人の成り損ない。
何故俺が生きているのだろう。そんな問いもまた無駄なことで、これもまた浪費なのだ。
『人は何故生きるのでしょうか』
何億回と繰り返された思考。
俺の頭にも、纏わり付いてへばり付いて。そんなこと考えても分かるわけがないだろう。人が生きている意味を問うぐらいなら、疑うぐらいならば、皆死んでしまえばいい。無駄なことは出来るだけ避けるべきだった、何故なら、全てが無駄なのだから。
価値、価値、人の価値、俺の価値。俺の心臓が脈打ち血液を流し、脳に酸素を送る価値。紡ぐ言の葉にも価値はあるのだろうか?思考することに価値はあるのだろうか?
無いに決まっている。だってその思考は空っぽの頭で行われているのだから。馬鹿が馬鹿を殺し合う、そんな地獄が広がっているのだから。
眠りの中ですら逃れられない地獄。
瞼の裏に縫い付けられているようで、寝ても覚めても常に俺の傍にいる。奴は今でも俺を捕えて離さない。俺が死んでも、きっと傍にいる。
踠き苦しむ俺を、道化のように嗤うがいい。俺も道化なのだから。馬鹿らしく嗤い、馬鹿らしく嘲笑を浴びる、道化なのだから。
『人は一人では生きられません』
そんなことを最初に言った愚か者を、俺は殺してやりたかった。
何故人は人に縛られる?確固たる個として生きられぬ?それが社会というものだからです。
縛って縛られ、打っては打たれ。
蹴落とし合い噛み千切り合い、互いの骨肉を喰らい血を啜り合う。それが、社会というものだからです。
しかしやはり俺という人は一人では駄目な存在で、社会の中では道化を演じられても、住処に帰ればただの屑肉で、寝床に生えた黴のような存在だった。
己の果たすべき役割もこなせぬ軟弱者。
死に体なんて四文字を希死念慮という形に変えて、それでも何も為すことが出来ない。
無意味、無意義、無価値。
吐き出す空気が、酷く稀少な物に感じられて、それを浪費している己が、罪人のように思える。
民衆が皆石を投げ、罵声を浴びせているような気がする。俺は断頭台の前で跪いて、虚ろな眼には、何も宿していない。
全ては、幻覚。
何もかもが俺の妄想。事実は単純明快。
俺はその真っ直ぐな道が歩めない。
鋭い刃で何もかもを断ち切れればいいのにと、そんな無駄な願いをするばかりだった。
うつろ 猫又テン @tenneko
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