体力測定はドキドキハラハラ! 先輩の視線はゴールテープ!
わいわい、きゃーきゃー!
新学期が始まって、少し暖かくなってきた今日この頃。今日の体育の時間は、全学年合同の体力測定! 体育館やグラウンドは、ジャージ姿の生徒たちで、いつもよりずっと賑やか。わたし、
(うぅ……。体力測定、苦手だよぅ……。運動神経、あんまり良くないし、みんなの前で、かっこ悪いところ見せちゃったら、どうしよう……。しょんぼり……)
特に、この反復横跳びは、リズム感と瞬発力が大事だって言うけど、わたし、どっちも自信ないんだもん……。周りの子たちが、軽やかにステップを踏んでるのを見ると、ますます緊張しちゃう。
「はい、次、小鞠さん!」
先生に呼ばれて、わたしは、おそるおそるスタートラインに立った。深呼吸をして、合図と同時に、えいっ!て横に跳ぶ!
右!左!右!左!
(わわわ! あたふた、あたふた……!)
頭の中では、軽快なリズムを刻んでるつもりなのに、体が、ぜんぜん言うこと聞いてくれない! 手と足が、ばらばらに動いてるみたいで、まるで、壊れかけのおもちゃのロボットさんだよぅ……!
「ぴーっ!」
終了のホイッスルが鳴って、わたしは、ぜぇぜぇ肩で息をしながら、その場にへなへなーって座り込んじゃった。記録は……やっぱり、あんまり良くなかったみたい……。うぅ、恥ずかしいよぅ……。
わたしが、しょんぼりうなだれていると、ふいに、体育館の入り口の方から、聞き慣れた声がした。
「おやおや、これはまた、見事なまでの運動音痴っぷりを披露しているねぇ、小鞠。その、生まれたての小鹿のように覚束ない足取りと、陸に打ち上げられた魚のような息遣いは、観衆に、ある種の哀れみを誘うには十分すぎるが」
ひゃあっ!?
びっくりして顔を上げると、体育館の入り口のところに、ジャージ姿の
「せ、せんぱい! い、いつからそこに……!?」
「つい先ほどから、だが? きみの、その、芸術的なまでにぎこちない動きは、遠目からでも、十分に僕の注意を引いたよ。……さては、新たな創作ダンスでも考案中だったのかね? それならば、もう少し、独創性に磨きをかける必要があると思われるが」
うぅ~~~! そ、創作ダンスじゃありません! わたしだって、真剣にやってたのに!
「だ、だって、難しいんですもん! 反復横跳びなんて、大嫌いですぅ!」
ぷくーって、ほっぺを膨らませて抗議するけど、先輩は、くすくす笑ってるだけ。もう、先輩のいじわる!
「まあ、いい。気を取り直して、次の種目も、その調子で、周囲に笑いを提供したまえ。きみのその、ある種の『才能』は、この殺伐とした体力測定の場において、貴重な清涼剤となるだろう」
せ、清涼剤だなんて……!
わたしが、むーっとして先輩を睨みつけていると、先輩は、ひらりと手を振って、体育館の奥にある、3年生の測定場所の方へ歩いて行ってしまった。
(もう! 先輩のばかー! 見てなさい! 次の種셔トルランは、ちょっとだけ得意なんだから!)
反復横跳びは苦手だけど、実はわたし、持久走とか、長い時間同じペースで走るのは、意外と嫌いじゃないんだ。ちょっぴり悔しい気持ちと、先輩に見返してやりたい気持ちで、胸の中が、メラメラ燃えてきた!
そして、ついにシャトルランの時間がやってきた!
「ぴっ、ぴっ、ぴっ……」
電子音に合わせて、みんなが一斉に走り出す。わたしも、自分のペースを崩さないように、深呼吸しながら、丁寧に、丁寧に、ラインを踏んでいく。
(大丈夫、大丈夫……。いつもの練習みたいに……。落ち着いて……)
最初は、みんな元気いっぱいだったけど、だんだん、電子音の間隔が短くなってくると、息が上がって、脱落していく子が増えてくる。でも、わたしは、なぜか、今日はいつもより体が軽い気がする。さっきの先輩の言葉が、逆にわたしの背中を押してくれてるみたい。
(先輩、見てるかな……? 見てなくても、いいもん! わたし、頑張るんだもん!)
気づけば、周りで走ってる子は、もう数えるくらいしかいなくなってた。わたしの呼吸も、だんだん苦しくなってきたけど、歯を食いしばって、足を前に出す。
「……すごいじゃん、小鞠!」
「頑張れー!」
クラスの子たちの応援の声が聞こえる。嬉しい……! もうちょっとだけ、頑張れるかも……!
そして……。
「……小鞠さん、すごい! 学年女子で、今のところトップだよ!」
先生の声が、体育館に響いた!
え……? わ、わたしが……トップ……? うそ……!
限界を超えて、わたしは、その場で、へなへなと座り込んでしまった。でも、心の中は、今まで感じたことのないくらいの達成感でいっぱいだった。
ぜぇぜぇと荒い息を整えていると、ふと、視線を感じた。顔を上げると、少し離れた場所から、さっきまで3年生の測定をしていたはずの先輩が、じっと、わたしの方を見ていた。その表情は、いつもの、にやりとした感じでも、からかう感じでもなくて……なんだか、すごく、驚いているような、それでいて、ほんの少しだけ、何かを認めたような……そんな、複雑な顔。
わたしと目が合うと、先輩は、すぐに、ふい、と顔を逸らして、何事もなかったかのように、仲間たちのところへ戻って行った。
(……せんぱい、見ててくれたのかな……? 今の、どんな顔だったんだろう……?)
先輩の、あの、一瞬の表情が、わたしの頭から離れない。もしかしたら、わたしの頑張り、ちょっとだけでも、先輩に届いたのかな……?
今日の出来事は、いつもの「きゅん」とは少し違う、でも、すごく、すごく、心に残る宝物になった。体育館の喧騒、苦手な反復横跳び、意外なシャトルランの記録、そして、先輩の、あの、見たことのない表情。
また明日、先輩に会ったら、なんて言われるかな? きっと、また意地悪なことを言われるんだろうけど……でも、もしかしたら、ほんのちょっぴりだけ、いつもと違う言葉が聞けるかもしれない。そんな、小さな期待を胸に抱いて、わたしは、少しだけ軽くなった足取りで、体育館を後にした。
たとえ、明日もまた、先輩に「やれやれ、昨日はまぐれで良い記録が出たようだが、それで有頂天になっているようでは、先が思いやられるな」なんて、やっぱり手厳しいことを言われちゃうとしても、ね!
きゅんって鳴っても、ないしょだよ? 〜 恋色こまりんココロころころダイアリー 一文字一(いちもんじはじめ) @kotonohairoha
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