第15話 虚弱聖女と理由

 私たちは、本来の姿に戻ったラメンテの背中にのって、レイ様を迎えに行った。

 王都からどんどん離れていく。レイ様、一晩でどれだけの距離を進んだのだろう。彼の体力に驚きを隠せない。


 そのことをルヴィスさんに話すと、


「まあ、あいつは体力馬鹿でもありますからね」


 と心底呆れたように返答していたけれど。


 初めてラメンテに乗って空を飛んだときは、驚きと恐怖しかなくて景色を見る余裕なんてなかった。


 だけど改めて広がるルミテリス王国を見ると、やはり緑が少ない。畑も広がっているけれど、あまり育っていなさそうだし、川だって水量が少ないのか、細く見える。


 ラメンテが力を補給出来なかった影響が出ていたのだと、改めて思い知らされる。


 そのとき、


「レイがいたよ!」


 ラメンテが叫んだかと思うと、ゆっくりと降下し始めた。ラメンテの力で落ちないとは分かっているけれど、この降下する際の浮遊感はどうしても慣れず、ラメンテのフワフワな毛を掴んだ。


 大丈夫かと振り返ると、ルヴィスさんはラメンテの身体にしがみつき、青い顔をして固まっていた。


 凄くあなたの気持ちが分かります、ルヴィスさん……


 ラメンテの四足が地面に着くと同時に、


「え? ラメンテ!?」


 レイ様の驚き声が、私たちの鼓膜を震わせた。ふわっと身体が持ち上がり、私とルヴィスさんの身体も地面に着地する。

 地面に足をつけたルヴィスさんは、そのままふらつき、ラメンテの身体に手をついていたけれど。


 代わりに私がレイ様の元へと駆け寄った。


「レイ様!」

「せ、セレスティアル! それに、ルヴィスもいるのか!? どうして?」

「どうしてじゃないっ!!」


 この大音声は、ルヴィスさんだ。


 先ほどまでふらついていたとは思えないほどの力強さでレイ様に近づくと、彼の両肩を掴み、強く揺さぶった。

 わわわっ、とレイ様が声をあげるが、ルヴィスさんは気にとめることなく、揺さぶり続ける。


「何も言わずに勝手に城を出て……何を考えているんだ!」

「確かに何も言わなかったが、書き置きはしていたはずだが?」

「へりくつはいい!」


 たたきつけるようなルヴィスさんの叫びに、私とラメンテの身体がびくりと震えた。


 る、ルヴィスさん、怖い……


 きょとんと目を丸くしていたレイ様の表情が、申し訳ないものにへと変わった。


「……確かに、配慮が足りなかったな。俺が悪役になることに協力してくれていたお前には、きちんと話しておくべきだった。済まなかったな、ルヴィス。そして今までありがとう」

「いや、だから何で勝手に一人で暴走するんだ!」

「この国はもう安泰だ。演じていたとはいえ、国民からの信頼を失った俺が王位に居続けるのは問題だろ? だから――」

「違う……んだよ……」


 次の瞬間、ルヴィスさんの頭がうなだれた。


「皆……貴族たちも国民も皆、お前がわざと悪役を演じていることを知っていたんだよ。俺たちは騙されたフリをしていただけなんだ」


 え?

 ど、どういうこと!?


 レイ様もさすがに衝撃を受けたのだろう。

 目を丸くし、今度はルヴィスさんの両肩を掴んだ。


「ど、どういうことだ!? 俺の演技は完璧だったんじゃなかったのか!?」


 いやいや、って、そこ!?

 ルヴィルさんはルヴィスさんで、


「あんな下手くそな演技が、完璧なわけないだろ! 速攻でばれてたぞ!」


 と言い返しているけど、そこじゃないよね?

 今大切なのは、そこじゃないですよね!?


 私の心の声が通じたのか、レイ様が小さく咳払いをすると、両腕を組みながら再度ルヴィスさんに訊ねた。


「で、どういうことだ? 何で俺に騙されたフリをしていたんだ?」


 それを聞いたルヴィスさんは、ちらりとラメンテを見ると、観念したようにゆっくりと口を開いた。


「お前が……この国のために死ぬことを、避けるためだ」


 え?

 レイ様が、ルミテリス王国のために、死ぬ?


 まさか、と思ったけれど、レイ様の表情が陰り、ルヴィスさんから視線をそらしたのが、答えだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る