成仏社の心解き

でんでんみかん

第1章:Those who solve the heart.

はいどうもこんにちは!



オカルト系YouTuberの『チクワ』っす。


今回は、リクエストより「幽霊」について解説していこうと思うっす!



幽霊ーーー。


それは、死者の魂や霊魂が現世に現れた存在で、多くの文化や宗教において、死後の世界や霊的存在に対する信念と深く結びついているものっす。


古くから物語や伝説に登場し、人々の恐れや興味を引いてきたっすよ〜。


特に!仏教の影響を受けた日本の幽霊文化では、死後に成仏できない魂が地上にとどまり、幽霊として現れるという考えが存在するっす。


強い恨みや未練を抱えた魂は、成仏できずにこの世に留まるとされ、時には人に害を与える存在と見なされることもあるけれど、ただ自分の無念を伝えたいだけの場合もあるっす。


このように、幽霊は恐怖の象徴であると同時に、死後の世界や人間の心の深い部分を考えさせる存在っす。


人々の未練や感情がどのようにこの世界に影響を与えるかについて、一種の警告としても機能しているのかもしれないっすね〜。








「ねえ、大丈夫!?」


満月なのに暗く、歩くにつれて闇が深まっていくある夜、ボクは誰もいない路地裏で倒れていたようだ。


心配に思ったのか、通行人が声をかけてくれた。


「どうしたの?何か困っているなら、力になるよ!」


ボクのぼんやりと開いた目に、若い女性の姿が映る。


彼女の明るい瞳やニコニコっとした笑顔が暗い夜道を照らしていて、腰までの長い黒髪や教会の人が着ていそうな白い服が、輝かしく見えた。


「えっと…」


「まあいいや。とりあえず事務所においでよ!休憩しよう」


ボクは『ミズホ』と名乗る彼女に抱えられる。(力持ちな人だな…)


そして、背中に鳥が翼を羽ばたかせたような大きな白い翼を広げると、まるで重力が存在しないかのように軽やかに空を飛び始めた。


下にいる人間たちがざわざわとしながら写真を撮ったり、指を差して子供のように驚く姿も見える。


「と、飛んでる!?」


「本当は人間の前で飛んじゃいけないんだけど…。まあ、大丈夫でしょ!」


彼女は笑って答えた。


「…?」


「というか、キミも飛べるはずだよ!」


いや、ボクはスーパーヒーローみたいに飛べないから。






「あのねミズホ…。確かに『訳もわからず倒れている天使を助けたい!』って気持ちはわかるよ。事務所に来てもらって休憩してもらおうという気持ちもわかるよ。でもね、あれだけ『人前で飛ぶな』って言ってるのに、それでも飛ぶのは流石にどうかと」


「えー別にいいじゃん、緊急事態だったし」


「そういう問題じゃないの!!まったく」


「ごめんって」


「…これで何回目だよっ」


「お詫びに大好きなせんべいを奢るから」


「よし、許す」


…さっきから何の話をしているか全くわからない。


そう思いながらボクは誰もいない荒れ果てた廃虚の一角にひっそりとたたずむ、事務所みたいな建物にいた。


さっき彼女に連れてきてもらって、「まあ、座りなよ」とどしっとしたソファーに座らせてくれて、さらに大好きなアイスクリームをご馳走してくれた。


そして、その横では何やら言っている2人の姿が。


一人はさっきの通行人。


そしてもう一人。


心配そうな目でボクを見る彼女のことだ。


その瞳、顔はどことなく暗いオーラを感じるが、頭の上のうさぎみたいな耳が可愛いので、まあ大丈夫だろう←!?


「あっ、あの…。ここは一体なんなんですか?どうしてあなたは空を飛べて…それにこんな何もない場所にどうして真綺麗な事務所が…?」


「あっ、元気になったのね!よかった…。じゃあ、説明するね」








人には、魂というものが宿っている。



人は亡くなると、魂だけの状態となり、あの世という場所へ行く(いわゆる『成仏した』)。



そこで記憶を洗い流され、再び新しい命として地上へと送り出される。



そんなやり方で生死は管理されてきた。


しかし、それは「うまくいけば」の話。



どうしても消せない未練、燃え尽きない恨み、忘れられない愛。



そんな感情に縛られたせいで、あの世に行けない存在である『幽霊』になってしまった者だっている。



彼らは恨みを解決できないまま、現世でいつまでもさまよい続け、『永遠の孤独』を味わうのだ。



「いやいや、それは可哀想。何とかしてあげたいな…」



人の輪廻転生を管理する神様は玉座でため息をついた。



その周囲には、部下である天使たちが集まっている。



透き通る翼を持った彼らは、とても真剣だ。


「うーん。難しい…」



「なんなら、あの世の社会問題にもなりつつあるしね…」



「じゃあさ、我々天使が直々に幽霊たちの未練を解消して、魂を成仏させるのはどう?」



「お、それめっちゃいいね!」


天使たちが声を揃える。



そこからの議論はわずか数分でまとまった。






天使による『幽霊成仏社』、今、ここに発足。



担当に選ばれたのは、若く優秀な二人の天使、ミズホとサクラだった。



ともに少女で、ミズホは陽気でちょっとお調子者、サクラはしっかり者の相棒。



2人は、天界でも有名なバディだし、これならうまくいきそうだ。



「えっとですね。人間に見つからないように翼をたたんで過ごすこと。ルールは守ること。幽霊たちの未練を解決するのが目的だから、生きている人間にはあまり関わらないこと」


「了解です、神様」



二人は小さくうなずき、手を取り合う。


「じゃあ、頼んだよ!」



「任せてください。さぁ、幽霊たちを救いに行こう」


こうして、2人は現世へと向かった。






「えっと…簡潔に言うと、ここは成仏し幽霊たちを手助けする『幽霊成仏社』といわれる場所で、私たちミズホとサクラはここの担当者なの!」



「なるほど…なんとなく理解できたかも」



「えっへん!私のやってることって、すごいでしょ!」


ミズホは自慢げに手を腰に当て、ぐひひと笑う。



「いや、『私の』じゃなくて、『私たちの』な!」



隣でサクラがツッコミを入れた。


「でも、人間のボクにバラしていいの…?」



「え?いや、キミはどう見ても天使だよ?」


え。どういうことだろう。



私はどこから見ても、誰が見ても人間だ。



そもそもこの世界に天使がいると言う事実さえ今知ったし、第一私は飛んだりもできない。



そりゃそうだ、人間だもの。


「いや、ボクは人間だから…」



「じゃあ鏡を見てみなよ。きっとキミは天使だってわかるか」


しつこいな…と思いつつ、横にある鏡を見る。


「あれ、翼…?何これ…」


ボクの背中に生えていたもの。



それはどこから見ても、誰が見ても翼だった。



大きくて、白くて…。



さっきのミズホのものとそっくり。


「だから言ってるじゃん!あなたは天使なんだって」



「何度も言うけどボクは人間なのー!」




「キミが天使か人間かは一旦置いておこう」



静かに、でも真剣な声でサクラは言う。



そして、妙に綺麗な事務所のソファに座るボクに向かって、彼女はまっすぐに問いかける。


「私が知りたいのは、倒れていた理由。もし誰かに襲われて倒れてしまったのなら、通報しないといけないしね。もしミズホの話通りキミが天使と仮定するなら、『現世に来れるのは私とミズホだけのはずなのに、どうしてキミが来れたのか』という問題もある。
そういう面からも、やっぱり倒れた理由は知りたいし、教えてくれると嬉しいな」


サクラの瞳はまるで、夜明け前の空のようで、優しいけれど、誤魔化しや不正は通じない強さがあった。


「あれ…思い出せない。どうしてボクって倒れていたんだっけ…?」


ボクは倒れた理由を思い出そうとする。



しかし、頭の中に消えない霧がかかっているかのように思い出すことができない。



名前も、生まれた場所も、どうしてあんな場所にいたのかも、全部わからない。



思い出そうとすると、強烈な頭痛がする。



ボクは情けなくて、申し訳なくて、肩を落とすしかなかった。


「いわゆる『記憶喪失』ってやつか…」



「みたいだね」


ミズホがちょっと困ったように笑った。


「わっ、えっと、わざわざ助けてもらったのに、何もわからなくてごめんなさい」



「大丈夫だよ!じゃあさ…、『思い出すまでここにいる』っていうのはどう?」


ボクが俯くと、ミズホは大きく手を振った。


「え…いいんですか?」



「全然いいよー!もちろん!ただし、ここでの仕事を少し手伝ってほしいな」


「あ、ありがとうございます!手伝いぐらい全然やります!ほんとに何から何まで感謝です」


彼女らはにこっと笑うと、ボクを快く引き受けてくれた。



記憶を失った自分でも、役に立てるならすっごく嬉しい。


「ところでさ、キミの名前はなn…ってそうだった。わからないんだった」


「全部忘れてて、ごめんなさい…」



「大丈夫!じゃあ、私たちが代わりにつけてあげる」


「ほんとですか!?」


思わず身を乗り出すと、ミズホは楽しそうに笑い、少しだけ考え込んだ。


「うーん、そうだなぁ…。キミの名前は、『ツバメ』だ!」


小さな鳥。



青い空を、自由に翔ける鳥。



この世界のどこにも縛られず、どこまでも飛べる、そんな存在。


「ツバメか...。すっごくいい名前です!本当に、ありがとうございます」




これは、記憶喪失の彼が、新しい名前を胸に刻みながら、この場所で新しい一歩を踏み出すことを決めるまでの物語。






…そして、堕天の始まり。


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