第15話 悪役令嬢を演じたいのに15

 ※カーサ視点――王城にて。


 私の名前はカーサ。

 見た目は誰もが振り返る、優雅な貴族夫人。


 でも中身はちょっぴりお茶目で、ちょっとドジ。

 まあ、ドジっ子と言っても、以前の世界で過労死しちゃう程度のドジっ子だ。


 転転生する前の私は、都内のそこそこ有名な広告代理店に勤めていた。

 営業、プレゼン、飛び込み、徹夜の資料作り――なんでもやる系の社畜コース。

 ついでに後輩の面倒も見ていたら、ある日、気づけばぽっくりチーン。


 でも、まあ……今更あの人生に未練は、あんまりない。


 頑張ったし、真面目に生きたし、それなりに人間関係も悪くなかったけどね。

 ただひとつ、惜しむとしたら――**乙女ゲーム『風のリグレット~君想う故に我有り~』**との別れ。


 どう考えても右脳と左脳が、どつき合いしたみたいなネーミングだったけど……

 私はそのゲームに、ストレスを癒され、推しに課金し、何周もプレイしたなあ。


 だから、死んだあとそのゲームの世界に転生したと知った時は、むしろガッツポーズよ。


 え? 魂の輪廻とか因果律? 知らない知らない。

 人生ハードモードの後に、推しに会える世界とか……普通にご褒美よね。


 そして今。

 こっちの世界での人生のほうが、なんだかんだ長くなってきた。

 推しのために真面目に生きて、人間関係も築き、顔もいい。

 これってもう、人生のリテイク成功ってことで良くない?


 でも、私が夢中になった推しってのは――攻略キャラでも、主人公でもない。

 そう、"悪役令嬢"という名の宝石。ツインドリルビューティー。

 パレスフィールド・エイトレディ。


 彼女はツインテールドリルで気高く、時に滑稽なほど意地っ張りだったけれど。

 でも、誰よりもまっすぐで、傷つきやすくて、――なのに自分ではそれを認めようとしない、不器用な女の子。

 あの子に会いたかった。推しに。パレスちゃんに。


 だけど問題が一つ。

 その子はどこぞから現れる訳じゃなく、自分の股座から出て来る設定な訳で。



 だから私――怖かったけど、父親役のアローと接触しようと頑張ったの!



 異世界転生して、身分は貴族、顔は上玉。

 この立場を活かさずして、何が推し活か!!


 え? 倫理? 何言ってるの?


 死んだ後に、人の魂取り込むゲームの世界に、論理なんてある訳ないじゃない。

 でも、私は以前の世界では、そんなに恋愛経験ある訳でもなく、むしろ地味なほう。

 私自身の恋愛観も、むしろ草食系じゃないかしら?



 だから私は右手にこん棒、左手にロープ。

 そして懐に、怪しい薬を持って、あのアローの元へ向かったわ。



 でも目と目が合った瞬間、アローがこう言ったのよ。


「うわ……これと子作りしないと、推しのパレスたんに会えないのか」って。


 は? って思ったわよ、そりゃ。

 だけどその次の一言で、私は静かに、膝から崩れ落ちた。


 ああ、目の前のアローも「パレス推しだった」って。


 ねえもう運命じゃないかな。

 二人してパレスをこの世界で救うとか、やだもう、しゅき……。


 ……まあ、性格も真面目で優しいし、中身は地味だけど中身もイケメンだったし、

 そこそこ気も合ったから、まあその、付き合って、結婚したわ。


 それからというもの、私は忙しかった。

 なにせ**“乙女ゲームのクソルート粉砕”**が人生の目標になったんだもの!


 まず第一目標。

 第一王子との婚約、阻止。


 これは最重要。

 何がなんでも、あのクソガキがうちのパレスに触れることなど、断じて許されないわね。

 ランスロット王子の動きを、フラグを止めるために私は、あらゆる事を行った。


 後にゲームの舞台になる『聖リリィオルデン貴族学院』


 とりあえず、何がリリィだか、オデンだか判らないわ。

 まあ面倒だったから、持てる権力をフル活用して学園名を変えたの!


 学園名? 『オデンデンデデン学園』よ。


 え? パレスも通うのかって?

 何言ってるの、パレスは深窓の令嬢としての教育の為、私の作った学園。


『パレスフィールドローズガーデン女学園』に通わせますわ!


 まあ流石に『婚約破棄したら死刑』法案は無理だったわ。


 一応ついでに、王にも嫌われるように、因縁つけて、王の顔面に膝を叩き込んだ時もあったわ。

 というか、あの後に王は笑ってたわね……ド変態かしら。


 パレスちゃんに、変な影響与えなきゃ良いけど……まったく、ゲームのキャラって基本的にトンチキな思考してる面々多いのよね!


 そしてもう一つ。

 あの王子の性格がゲーム後半でヤベー方向にねじれてたのも、リリアン王妃の死がきっかけだったことを私は覚えていた。

 だからリリアン王妃が死なないよう、ありとあらゆる未来干渉をした。


 で、結果――


「カーサちゃん! 私、カーサちゃんの瞳と同じ、赤のドレス作ったの、見て!

 むしろ、私とお揃いで一緒に着て!」


 リリアン王妃が懐いた。


 まあ、相変わらず変な子ねぇ……。

 そもそも攻略キャラの親が、悪役キャラの親子に貢ぐなし。

 自分の旦那の鼻っぱしらに膝、叩き込んだ女に普通懐くかしら?


 変人が多いゲームねぇ、本当。パレスちゃんの教育に悪影響とか大丈夫かしら?

 まったく、この私だけでも、冷静さを維持しなくていけないわね!


 ね? あなた! 私の言ってる事、理解できるわよね!


「そうだな、やはりパレスきゃわたん、ちゅっちゅなのだ」


 パレスの成長と共に、アローの知能が低下して語呂力が死んでる気がするけど、まあ許容範囲ね!


 まあいいわ……とりあえず今の私の状況を一言で説明すると。


 王妃に呼ばれ城へ登城。

 そして娘のパレスと一緒に訪ね、パレスを見たリリアン王妃の第一声。


「ち、ちっちゃいカーサちゃん! これ、欲しい!

 息子の嫁に……というか私の嫁にし――」


 ――私は、思い切り扉を閉め、急ぎ扉の前に重し代わりの壺を置き、そのまま自宅へ帰ったのだった。

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